ツバセトシガーキス
ある昼下がり、いつもの様に彼が部屋に遊びに来ている。
ふと、彼がこちらを見て
「ねぇりょーたくんっシガーキスしてみない?」
唐突に切り出してくる。
「シガーキスってアレか?あの火種を渡す行為だろ?」
話だけはどこからか聞いて知っていた、だが二人共タバコは吸わない人種だ。
どうやってするのだろうか、そう尋ねようとした時
「知ってるんだね!だからさこれでやってみようよ!」
用意周到と言わんばかりに封の開いた駄菓子を取り出していた。
タバコの形をした懐かしいそれを見て色々と察する
「確かに雰囲気は出そうだな、というか持ってきてたのか」
彼は無邪気に微笑んでいる、拒否権はなさそうだ、拒否する理由もなかったが。
やってみようかと差し出されたパッケージから一本取り出す。
懐かしいタバコからは甘い香りが漂う。
本物のそれのように咥えると特有の甘ったるさが口に広がる。
ふと、彼の方を見ると、待ち遠しそうな顔でタバコを咥えてこちらを見ている。
「ほら、りょーたくん早くっ」
いつもと変わらぬ彼に、自然と笑みが溢れる。
せがまれる行為を実行に移す。
咥えたタバコの先をコツリと触れ合わせる、意外と短いそれが触れ合い、自然と顔も近くなる。
視線が自然と交わる、少しばかりの静寂、そしてお互いに笑い出す。
火のない火種の渡し合いに、少しばかり滑稽なその行為に。
少しだけ特別な時間がすぎて行った。