保安隊海へ行く 9
中々落ちない真夏の太陽。その最後の一仕事とでも言うように水平に近い角度の西日が車内を熱する。さすがに顔にあたる強い日差しにうんざりする車内の人々。
「パーラ。クーラー強くしないのか?」
人工皮膚で日焼けの心配の無い要がにやけながら運転席のパーラにけしかける。
「西園寺。給料日は来週だぞ」
思わず微笑みの止まらない要に探りを入れてみるカウラ。
「何でそんな事言うんだ?」
カウラの顔をまじまじと見つめる要。間に居る誠は非常に居づらい雰囲気を感じて、前の席に座る人々に目で助けを求める。だが彼らも誠と考えることは同じ。誰一人振り向く者はいなかった。
「宝くじでも当たったの?」
ようやく気を利かせるべくアイシャが声をかける。どこかいつもと違い語尾が裏返っているのが誠の笑いを誘いそうになった。
「何でそんな事聞くんだ?」
本当に不思議そうにたずねる要。少なくともいいことがあったというわけでは無い。全員がそう判断するものの、同時にこの不可思議な要の機嫌の良さが余計不気味に感じられた。
「おう、そこの月極駐車場を突っ切って行くと早いぞ」
「いいの?そんな事して」
「パーラが止まっている車にぶつけなきゃ大丈夫だよ。出たら右折だ。気をつけろよ、そこの道は駅に向かう裏道だから。ぶっ飛ばしてくる単車引っ掛けたら免停だぞ」
相変わらずの上機嫌。不思議なことがあるものだとつい振り向いてしまう運転席のパーラ。
「それはご親切にどうも」
スイスイと要の指示する道を行く。ここまで要を観察して分かった事は、自分が上機嫌である事自体、本人は気づいていないという事だった。
マルヨの立体駐車場に入る頃には、不安は恐怖に変わっていた。人は理解できないことに出会うと拒絶するか恐怖すると言うが、拒絶したら張り倒されそうな要の雰囲気。ただ沈黙だけが続く車内。
「今日は木曜日か。空いてるのはいいことだ。そこの外車が出るみたいだぜ」
黒いドイツ車が出ようとしているのを素早く見つける要。誠が右側に視線を移すと、不思議そうな顔をしたカウラの姿がある。
「アタシが降りて指示を出そうか?」
要はそう言うとシートベルトを外し始めた。突然のことに誠も唖然として降りようとする要に目が行ってしまう。
「いいわよ。私を舐めてもらっちゃあ困るわね!」
パーラが断ったのは運転への自信からではなかった。それは普段は絶対にありえない要の台詞に驚いたからだった。パーラは高級車が出口へ向かうのを見届けるとすかさずハンドルを切り、後ろからゆっくりと車を駐車する。
「お疲れさん。じゃあ行くぞ」
すぐにドアを開き降り立つ要。誠もカウラも、島田もサラも、シャムやパーラも理由の分からない上機嫌な要を見守っていた。アイシャを除いては。アイシャはちらちらと要を見つめながら何かを考えている。誠はそう見ていた。
度胸の据わり具合なら要と同類と隊長の嵯峨からも言われているアイシャ。彼女が要の機嫌の良さを利用して何か企んでいるのは明らかだった。




