保安隊海へ行く 8
「そう言えば誠ちゃん、ガレージキットで05式乙型出てたわよ」
アイシャがそう言うと、プラモマニアである誠は自然と前のめりにならざるを得ない。それも自分の愛機の話となれば誠としては当然のことだった。
「ガレキですか?高いからなあ。イタリアとかのメーカーが出すまで待ちますよ」
そう言いつつ自分の頬が緩んでいるのを誠は自覚していた。
「本当にオメエはマニアだな。イタリアのプラモっていいのか?」
要が珍しくこんなネタに食いついてきたので、少し誠は意外に思った。それと同時にこれは語らなければと言うマニア魂に火がつく。入り組んだ路地に大型車で乗り込んだことを少し後悔しているパーラも時々ちらちらと誠達を振り返る。
「まあ売れ線なら日本のメーカーが出すんですけどね。でも05式は地球ではシンガポール以外は採用予定は無いみたいで、売れそうに無いですから。こういうのはマニアックな品揃えのイタリアかロシアのメーカーの発表待ちになるんですよ」
「よく知ってるな。そう言えば西がレシプロ戦闘機のプラモ作ってるな」
最年少で有りながら技術部の新星として期待されている西の話題。島田のそんな言葉にも当然のように誠は食いつく。
「渋いですねえ。僕はどちらかと言うと戦闘機より戦車のほうが好きなんですよ」
あたりは夏の長い日のおかげで赤く染まっていた。渋滞で有名な三叉路を迂回したサングラスをかけたパーラだったが、その大型の四駆は今度は駅ターミナルに向かう渋滞に巻き込まれていた。
「いつも混むわねこの道。都市計画間違ってんじゃないかしら?」
「アイシャ、愚痴るなよ。駅前のマルヨは夜10時まで営業だぜ」
普段なら一番にぶちきれる要がアイシャをたしなめている。要は誠の隣の席で鼻歌交じりに窓の外を眺めていた。
「マルヨに行くの?だったらアニクラの割引券使えるね!」
豊川一の百貨店マルヨの隣、雑居ビルのアニメ専門店の割引券をズボンのポケットから取り出してシャムが笑っている。
「あのなあ、アタシ等は水着買いに行くんだからな。お前とアイシャで勝手に行け」
きつい言葉だが要は笑っている。
「ひどいなあ、要ちゃん」
どこと無く不思議そうな顔をしながら薄ら笑いを浮かべるシャム。
確かにおかしい。車内の全員が気づいていた。
誠にちょっかいを出す事が日課と化しているアイシャや、誠が入ってきてからぶっきらぼうなところがなくなってきたカウラ。二人を出し抜けるチャンスと要が考えているのは誰もがわかっていた。
アイシャの趣味は『痛い』か『やりすぎ』である。いくら彼女が美人だからと言って一緒に歩きたくない水着を選ぶだろうと言うことは全員が予想していた。カウラは小さな胸をごまかす為に地味なものを選ぶと言うこともわかる。そして見栄えのする水着を手にするのはおそらく要。
そうはわかっていても、今日の要はどこかおかしい。
「あのさあ、要。なにか悪いものでも食べたの?」
アイシャが恐る恐るたずねる。気分屋の要。下手に刺激をしたくないところだった。
「何言ってんだよ。今日は食堂で冷やし中華食べただけだよ」
「そうなんだ……」
普段ならどうでもいいことでも噛み付いてくる要が大人しい。
「パーラ、そこの脇道右折だ。そうすればマルヨの駐車場まで一直線だぞ」
要の不気味な上機嫌ぶりを気にしながらパーラは彼女の言うままにロータリーに向かう道から抜けて裏道に入った。




