保安隊海へ行く 61
「平和だねえ」
先ほどまでの話題を忘れきったように半身を起こしタバコをくわえながら、海水浴客の群がる海辺を眺める要。その向こう側では島田達がようやく疲れたのか波打ち際に座って談笑していた。
「いいことじゃないですか」
誠もその様子を見ながらのんびりと砂浜に腰掛けていた。
「アタシはどうもこういう状況にはいい思い出は無いんだ」
ささやくように海風に髪をなびかせながら要はそう言った。
「嫌いなんですか?」
「嫌いなわけ無いだろ?だけど、アタシの家ってのは……昨日の夕食でも見てわかるだろ?他人と会うときは格式ばって仮面をかぶらなきゃ気がすまねえ。今日だってホテルの支配人の奴、アタシのためだけにプライベートビーチを全部貸しきるとかぬかしやがる」
口元をゆがめて携帯灰皿に吸殻を押し付ける要。
「そんな暮らしにあこがれる人がいるのも事実ですし」
「まあな。だけど、それが当たり前じゃないことはアタシの体が良く分かってるんだ」
そう言うと要は左腕を眺めた。人工皮膚の継ぎ目がはっきりと誠にも見える。テロで体の九割以上を生態部品に交換することを迫られた三歳の少女。その複雑な胸中を思うと誠の胸は締め付けられる。
「それは、要さんのせいじゃないんでしょ」
そう声をかける誠。要は誠の方を一瞥したあと、天を仰いだ。
「オメエ、アホだけどいい奴だな」
「アホはいりません」
誠のその言葉を聴くと、要は微笑みながら誠の方を見てサングラスを下ろした。
「よく見ると、うぶな割には男前だな、オメエ」
「は?」
正直状況がつかめずにいた。前回の出動のときの言葉は要するに釣り橋効果だ、そんなことは分かっていた。要の励ましが力になったのは事実だし、それが励ましに過ぎないことも分かっていた。
しかし、今こうして要に見つめられるのは、どこと無く恥ずかしい。女性にこんな目で見られるのは高校三年の卒業式で、二年生のマネージャーに学ランの第二ボタンを渡したとき以来だ。ちなみにその少女からその後、連絡が来たことは無かったが。
「まあいいか、こうして平和な空を見上げてるとなんかどうでもよくなって来るねえ」
その言葉に、誠は昔のマネージャーを思い出して苦笑した。
「おい!神前!」
さすがに同じメンバーでの遊びにも飽きたのか波打ち際から引き上げてきた島田が、置いてあったバッグからスポーツ飲料のボトルを取り出した。
「ああ、すいませんね気が利かなくて」
「こちらこそ、二人の大切な時間を邪魔するようで悪いねえ」
にんまりと笑いながら誠と要を見比べる島田。
「ずるいんだ!アイシャちゃん達が働いてるときに二人でべったりなんて!」
そう言ってサラが誠をにらみつける。
「じゃあお前等、荷物番変わってもらおうか?」
そう言うと要は立ち上がった。
「じゃあ神前。お姉さん達の邪魔でもしにいくか」
要はそのまま当然と言うように誠を立たせるとバーベキュー場に向かった。
『正人が余計なこと言うから!』
『島田君のせいじゃないわよ。余分なこと言ったのはサラじゃないの!』
サラとパーラの声が背中で響く。
「良いんですか?西園寺さん」
「良いんじゃねえの?島田の奴は楽しそうだし」
そう言うと要はサングラスを額に載せて歩き出した。




