保安隊海へ行く 5
「自慢じゃないが、アタシは三歳からこの身体だぞ!」
突然の要のその言葉。彼女の境遇を語ることがタブーとなっているので自分でそれをひけらかす彼女に誠は凍りついた。だがどこにでも空気を読まない人間はいる。
「そりゃ、要ちゃんのは義体だからでしょ?」
アイシャ。得意げにそう言うと切れ長の目に紺色の瞳を光らせる。
「オメエ等だって遺伝子操作されてるじゃねえか」
そう言いながら少し不機嫌になったように見える要。呆れたように大きくため息をついたカウラを見て要は我に返る。そして自分が切り出した話題があまり歓迎されていないことを知って気分を切り替える為にアイシャをにらみつけている目を誠に向けた。
「水着の買い物に行くのはアタシとカウラ、サラとパーラ。それに誠でいいんだな?」
「要ちゃん、わざと私をハブったでしょ」
アイシャがしなだれかかるように要に寄りかかる。めんどくさそうにそれを振り払って腕組みをする要。
「何のことかなあ?」
「正人も来る?」
赤い髪のサラが島田に声をかける。
「まあ俺が行くしかないだろうな。神前の趣味だとまた『痛い』って話になるだろうから」
苦笑いを浮かべている島田。誠の機体のマーキング。その塗装の画像が一部マニアに大うけしているのは事実だった。ライトグレーのステルス塗装の上に派手に書かれたアニメのヒロインキャラ達。実際デザインした誠もその案が通るとは思っていなかったほどインパクトのある機体のデザインは全銀河の失笑を浴びていた。
「それじゃあ……」
「シャムは?アタシは仲間に入れてくれないの!」
仲間はずれにされたシャムが叫んだ。
「お前はトランクの中でも入るか?」
冷ややかにそう言って笑う要。それを見ると今にも泣きそうな表情のシャムが出来上がる。
「要、乗れるわよ、まだ」
世話好きなパーラの一言に安心するシャム。うれしそうにパーラの手を取ると上下に振って喜んで見せるのがシャム流の喜びの表現。誠達もなんとなく心が温かくなる。
だが、そんな状況が許せない。自分が中心にいないと気がすまない隊員もいる。
「まあ、今回の買い物はアタシが主役だからな!アタシが!」
そう言うと要は立ち上がって、モデルの真似事を始めた。確かにスタイルは保安隊でもマリアとそのトップを競うほどである。誠と島田の視線が要に注がれるのもいかにも自然な話である。当然島田は隣のサラにわき腹をつつかれ、誠はカウラににらみつけられる。
「それじゃあとりあえず終業後駐車場に集合ってことで」
要はそう言うと颯爽と部屋を出て行く。いつもこういう時はと理由をつけてタバコを吸いに行く要を見て、カウラはあきらめたように自分の席に戻った。
「失敗したかなあ」
アイシャは少しばかり展開を読み違えたかと言うように誠に笑顔を向けた後、島田から受け取ったメモ帳を丸めてそれで手を叩きながら実働部隊の詰め所を後にした。
「煽ったのは自分なのに……ねえ」
そう言い残すと島田について出て行く赤毛のサラ。パーラも疲れた表情でそれに続く。
「仕事が絡まないと元気なんだな」
カウラはつい誠が提出した書類から目を離してポツリとそうつぶやいていた。




