保安隊海へ行く 44
観葉植物越しにレストランらしい部屋が目に入ってきた。要はボーイに軽く手を上げてそのまま誠を引き連れて、日本庭園が広がる窓際のテーブルに向かった。
「あー!要ちゃん、誠君と一緒に来てるー!」
甲高い叫び声。その先にはデザートのメロンの皿を手に持ったシャムがいた。
「騒ぐな!バーカ!」
要がやり返す。隣のテーブルで味噌汁をすすっていたカウラとアイシャは、二人が一緒に入ってきたのが信じられないと言った調子で口を中途半端に広げながら見つめてきた。
「そこの二人!アタシがこいつを連れてるとなんか不都合でもあるのか?」
要がそう叫ぶと、二人はゆっくりと首を横に振った。誠は窓際の席を占領した要の正面に座らざるを得なくなった。
「なるほどねえ、アサリの味噌汁とアジの干物。まるっきり親父の趣味じゃねえか」
メニュー表を手にとって西園寺がつぶやく。
「旨いわよここのアジ。さすが西園寺大公家のご用達のホテルよね」
そう言って味噌汁の中のアサリの身を探すアイシャ。カウラは黙って味付け海苔でご飯を包んで口に運んでいる。二人をチラッと眺めた後、誠は外の景色を見た。
日本庭園の向こう側に広がるのは東和海。その数千キロ先には地球圏や遼州各国の利権が入り乱れ内戦が続いているべルルカン大陸がある。
「なに見てるんだ?」
ウェイターが運んできた朝食を受け取りながら、要はそう切り出した。
「いえ、ちょっと気になることがあって」
「なんだ?」
要は早速、アジの干物にしょうゆをたらしながら尋ねる。
「第四小隊のことですけど」
その言葉に要は目も向けずに頷いて見せた。
「ああ、知ってるよ。アメちゃんが仕切るんだろ?それがどうかしたか?」
どうでもいいことのように要はあっさりとそう言った後、味噌汁の椀を取ってすすり込んだ。
「でもなんでですか?隊長はアメリカじゃあ凶悪テロリスト扱いされているって……」
そんな誠の言葉に正面切って呆れ果てたと言う表情を浮かべる要。その視線に誠は言うんじゃなかったというような後悔の念にとらわれた。
「単純だねえ。確かに遼南内戦で叔父貴がアメちゃんとガチでやりあったのは有名な話だ。当時は目が飛び出すような賞金賭けて叔父貴のこと追いまわしてたけどな」
要はそう言うと今度は茶碗を手に取り、タクワンをおかずに白米を口に運ぶ。
「状況はいつでも変わる。叔父貴が6月クーデターで遼南の実権を掌握してから最初に手をつけたのはアメリカとの関係改善だ。在位中に3度、つまり一年に一回はアメリカを訪問している。向こうだって下手に出ている相手を無碍にすることは出来ねえ。昨日の敵は今日の友。アタシ等の業界じゃよくあることさ」
そう言うと要はようやく本命のアジをつつき始めた。




