保安隊海へ行く 146
「じゃあ食うぞ!」
そう叫んだ要は大量のチューブ入りのわさびをつゆに落とす。
「大丈夫なんですか?」
「なんだよ、絡むじゃねえか。このくらいわさびを入れて、ねぎは当然多め。それをゆっくりとかき混ぜて……」
「薀蓄は良い。それにそんなに薬味を入れたらそばの香が消える」
そう言うとカウラは静かに一掴みのそばを取った。そのまま軽く薬味を入れていないつゆにつけてすすりこむ。
「そう言えばカウラそば通だもんね。休みの日はほとんど手打ちそばめぐりに使ってるって話だけど」
ざるの中のそばに手を伸ばすアイシャ。その言葉に誠はカウラの顔に視線を移した。
「好きなものは仕方が無いだろ。それに娯楽としては非常に効率が良い」
再びそばに手を伸ばす。そして今度も少しつゆをつけただけですばやく飲み込む。
「なるほど、良い食べっぷりですねえ」
岡部も同じような食べ方をしていた。
「そういやネイビーの旦那達。隣の公団住宅の駐車場に止まっている外ナンバーはアンタ等の連れか?」
いつもの挑戦的な視線をタレ目に漂わせながら要がロナルドを見据える。
「俺も見たがあれは陸軍の連中だな」
それだけ言うとロナルドは器用に少ない量のそばを取るとひたひたとつゆにくぐらせる。
「功名合戦か。迷惑な話だな」
「まあ、そんな所じゃないですか。あの連中は隊長には深い遺恨があるから」
ロナルドがそう言うとつゆのしみこんだそばを口に放り込んだ。法術、その研究においてアメリカ陸軍が多くの情報を開示した事は世界に大きな衝撃を呼び起こした。存在を否定し、情報を操作してまで隠し続けていたその研究は、適正者の数で圧倒している遼州星系各国のそれと比べてはるかに進んでいた。そして明言こそしなかったものの、アメリカ陸軍はその種の戦争状況に対応するマニュアルを持ち、そのマニュアルの元に行動する特殊部隊を保持していることがささやかれた。
静かにそばをすすっているロナルド。
「どうせ神前曹長の監視だろう。ご苦労なことだ」
同じざるからそばを取っているフェデロが、一度に大量のそばを持っていくのを目でけん制しながら箸を進めるロナルド。
「どうも今日はそれだけではないらしいがな」
そうつぶやきながら要はそばをすすった。




