保安隊海へ行く 119
「それにしても、茜さんにした『カネミツ』の話。本当ですか?」
要のタレ目がにやりと笑う。
「ああ、あれならカマかけてみたんだ」
グラスにウォッカを注ぐ要。誠は半分呆れながらその手つきを観察する。
「叔父貴は自分から状況を作るようなことはしねえよ。あくまでも相手に手を打たせてから様子を見てカウンターでけりをつけるのが叔父貴流だ。まあ、手札としての『カネミツ』の有効利用のために吉田辺りを使って噂を広めるくらいのことはするかもしれねえがな」
グラスを顔の前にかざして、いつもの悪党の笑顔を浮かべる要。
「しかし、アレはほとんど戦略兵器じゃないですか!国際問題に発展する可能性だって……」
「その性能とやらもすべて叔父貴の息のかかった技術屋の口からでた数字だろ?当てになるもんじゃねえよ。まあ、叔父貴のことだから過小評価している可能性もあるんだがな」
そう言うとまた要はウォッカの入ったグラスを傾けた。
「まあ、主要国の情報機関が寝ずにがんばってくれているのには頭が下がるがね。叔父貴のことだ、そんな様子を腹抱えて大笑いしてるんじゃねえか?」
口にスモークチーズを放り込んで、外の景色を眺める要。窓には吹き付ける風に混じって張り付いたのであろう砂埃が、波紋のような形を描いている。足元を見れば、埃の塊がいくつも転がっていた。
「西園寺さん。掃除したことあります?」
そんな誠の言葉に、口にしたウォッカを吐きかける要。
「……一応、三回くらいは……」
「ここにはいつから住んでるんですか?」
要の顔がうつむき加減になるのを見ながら誠からの言葉に黙り込む要。
「掃除機ありますか?」
「馬鹿にするなよ!一応、ベランダに……」
「ベランダですか?雨ざらしにしたら壊れますよ!」
「そう言えば昨日の夜、電源入れたけど動かなかったな」
絶句する誠。しかし、考えてみれば胡州の選帝公の筆頭である西園寺家の一人娘。そんな彼女に家事などが出来るはずも無いことは容易に想像できた。
「じゃあ、来週の30日。掃除機借りてきますんで掃除しましょう」
「やってくれるか!」
「いえ!僕が監督しますから西園寺さんの手でやってください!」
誠の宣言にしょげ返った要。彼女は気分を変えようと今度はタバコに手を伸ばした。
「それとこの匂い。入った時から凄かったですよ。寮では室内のタバコは厳禁です」
「それ嘘だろ!オメエの部屋でミーティングしてた時アタシ吸ってたぞ!」
「あれは来客の場合には、島田先輩の許可があれば吸わせても良いことになっているんです!寮の住人は必ず喫煙所でタバコを吸うことに決まっています!」
「マジかよ!ったく!失敗したー!」
そう言うと要は天井を仰いでみせた。




