保安隊海へ行く 118
黙ってエレベータから降りる要。それに続く誠。フロアーには相変わらず生活臭と言うものがしない。誠は少し不安を抱えたまま、慣れた調子で歩く要の後に続いた。東南角部屋。このマンションでも一番の物件であろうところで要は足を止める。
「ちょっと待ってろ」
そう言うと要はドアの横にあるセキュリティーディスプレイに10桁を超える数字を入力する。自動的に開かれるドア。茜はそのまま部屋に入った。
「別に遠慮しなくても良いぜ」
ブーツを脱ぎにかかる要。誠は仕方なく一人暮らしには大きすぎる玄関に入った。ドアが閉まると同時に、染み付いたタバコの匂いが誠の鼻をついた。靴を脱ぎながら誠は周りを見渡した。玄関の手前のには楽に八畳はあるかという廊下のようなスペース。開けっ放しの居間への扉の向こうには、安物のテーブルと、椅子が三つ置かれている。テーブルの上にはファイルが一つと、酒瓶が五本。その隣にはつまみの裂きイカの袋が空けっ放しになっている。
「あんま人に見せられたもんじゃねえな」
そう言いながら要はすでにタバコに火をつけて、誠が部屋に上がるのを待っていた。
「ビールでも飲むか?」
そう言うと返事も聞かずにそのまま廊下を歩き、奥の部屋に入る要。ついて行った誠だが、そこには冷蔵庫以外は何も見るモノは無かった。
「西園寺さん。食事とかどうしてるんですか?」
「ああ、いつも外食で済ませてる。楽だからな」
そう言って要は缶ビールを誠に差し出す。
「空いてる部屋あったろ?あそこに椅子あるからそっち行くか」
そう言うと要はスモークチーズを取り出して台所のようなところを出る。
「別に面白いものはねえよ」
居間に入った彼女は椅子に腰掛けると、テーブルに置きっぱなしのグラスに手元にあったウォッカを注いだ。
「まあ、冷蔵庫は置いていくつもりだからな。問題は隣の部屋のモノだ」
口に一口分、ウォッカを含む要。グラスを置いた手で、スライス済みのスモークチーズを一切れ誠に差し出す。誠はビールのプルタブを切り、そのままのどに流し込んだ。
「隣は何の部屋なんですか?」
予想はついているが念のため尋ねる誠。
「ああ、寝室だ。ベッドは置いていくから。とりあえず布団一式とちょっと必要なファイルがあってな」
今度はタバコを一回ふかして、そのまま安物のステンレスの灰皿に吸殻を押し付ける。
「まあ、野球部の監督としては結構大事なもんだ」
要は今度はグラスの半分ほどあるウォッカを一息で飲み下した。




