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保安隊海へ行く 10

「サラ。四階でいいのか?」 

 要が先頭を切って歩く。エスカレータの前で突然要に振り向かれたサラと島田が困ったような表情をした後、おずおずと頷いた。

「それじゃあ行くぞ」 

 何か腹にあるアイシャ以外は、この奇妙な要の態度を読みかねていた。その光景があまりにシュールなのか、買い物客達は一目見ると係わり合いになりたくないと言うように遠巻きに眺めている。

 エスカレータで要の下に付いた島田とサラが、助けを求めるように後ろに続くパーラを見る。パーラはピンク色の髪をかきあげながら後ろに続くシャムを見て、シャムも猫耳をなでながら困ったような顔で並んで立っているカウラと誠を見つめる。

『嵐の前の静けさ』 

 皆が恐れていたのはそんな状況だった。瞬間核融合炉のあだ名を持ち、気分屋で超の付く短気で知られる要である。ふとしたきっかけで一気に爆発する事だけは避けたい。その思いは一つだった。ドアが開くが要に率いられた誠達以外は視線を反らして乗るのを諦めていた。鼻歌交じりにドアを閉じ、階に付けば早速開くボタンを押して皆が降りるまでサービスする要。

「着いたな。お前らマルヨのカード持ってきたか?」 

 財布からカードを取り出しながら要がそう言った。女性陣が一斉にそれを取り出した。

「アタシ持ってないよ!」 

 シャムが胸を張って答える。ここでいつも通り要はシャムの頭をはたくこともせず、無視してそのまま島田とサラに目を向ける。

「おいサラ案内しろ」 

 サラは引きつった笑いを浮かべながら歩き始めた。並んでいる島田が仕切りと後ろを歩く要のことを気にして振り向く。まるで銃でも突きつけられているようだ。誠はそう思いながらそんなことを口にすればどうなるのかを想像していた。

「マルヨのカードって……」 

 沈黙に耐えられずに誠はつぶやいた。確かにカウラが東和軍の夏服と同じ企画の保安隊の勤務服を着ているのが目立つのは確かなのはわかった。でもそれ以上にこれだけの集団が黙って歩いていると言う状況の奇妙さが原因だと誠も気づいていた。

「まあお前もシャムと同類だったな。ここのカード作るときにサイズとかを登録してくれるんだ。おかげで合う商品がすぐ選べるし、画像で試着の代わりまで出来るんだ。便利だろ?」 

 得意げにそう答える要。口元には笑みまで浮かんでいる。

「そうなんですか」 

 要の言葉に感心しながら付いていく誠。すこし後ろを振り向けば、涼しい顔をしているアイシャがいる。

「なんだ。結構でかいな」 

 エレベータからかなり離れた場所に女性用水着の専門店がある。要の言うとおりかなり広いスペースを占めている。

「赤札が出てるわね。叩けばもっと値切れるかもしれないわ」 

 ようやく前に出てきたアイシャを先頭に売り場に入る。誠は正直どうするべきか迷っていた。高校、大学と野球部で堅物と思われて過ごし、訓練校では厳しい寮の門限のせいと酒癖の悪さから水着を選んでくれと言うような彼女などいるわけが無かった。そんな誠をニヤニヤしながら見守る島田。何か言葉をかけてくれれば良いと思う誠だが、サラがさっそく赤札のついたピンク色の鮮やかな、背中が大きく開いた水着を持って島田を連れて行ってしまう。

「何してんだ?来いよ」 

 要のその一言に、しかたなく周りを気にしながら誠は売り場に入った。その表情は部隊に入ってはじめて見る無邪気そうな女の子のものだった。

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