憂鬱な入学式
「入学式は9時から遅刻しないでね?弁当は持った?」
「いえっさー」
学校から頂いた制服に身を包み、お弁当が入ったリュックを背負う。
少し寝癖がぴょこっと跳ねているが特に気にせず母に敬礼をすれば、母はなんだか心配だわと頰に手を当て頼りなさそうに私を見つめてくる。
むっ、その瞳は心外だなぁ。
「迷わず行ける?」
「いや魔法学校まで目と鼻の先だから大丈夫」
徒歩五分で迷うとかそれはない。
方向音痴ではないし勘は良い方だから大丈夫だよとグッとポーズを作りその流れで母に手を振る。
「いってきます。母さんもお仕事無理しないでね」
「ええ、大丈夫よ」
いってらっしゃいと穏やかな声を後ろから聞きながら、ゆっくり玄関のドアを閉めた。
母が引っ越しすると決めた翌日からはしばらく忙しい日が続いた。
引っ越しの準備自体は荷物が少なかった為に早急に終わったのだが、女2人・・・母と娘で城下町の新居へ荷物を運ぶのには流石に苦労をした。
新居は少し古びていたが森で住んでいた場所よりも広い一階だての家。
褒めるとすればベットの質が前の家よりも良い所、私の部屋もあるところ、キッチンが広くて使いやすい所などがあげられる。
庭は無くて少し残念だったけど、突然引っ越してきた私達親子に、近所の人達は嫌な顔せずに歓迎してくれて、更に引っ越し祝いだといって街の色んな名物をいただいたのでそんな残念気持ちもすぐどっかにいった。
ところで稀に見る美人な母は自身の美貌とその森羅万象を見通す力を少し使い占い師を始めることにしたらしい。
例えばここにいけば体に良い薬草が取れるよとか、例えばここに無くした指輪があるよとか、明日は晴れるだろうからデート日和だよとか。
そんな些細なお伝えにしかすぎないが、凄い美人が言うとそれだけで神秘さが増すらしく、さらに話し上手なところもあり、街では評判がすこぶる良いらしい。
話を戻そう。
何はともあれ、母のおかげか引っ越し先での暮らしは特に不自由なく順調に過ごせている。
つまりはそう。
私の憂鬱要素は今目の前にある大きな学校の存在しかないのだ。
色々考えていればあっという間に着いてしまった魔法学校。
洋風で飾らている大きな門の横には、入学式の文字がでかでかと書かれた看板があり嫌でも現実を突きつけられる。
はぁとため息をつきながら、
私の心情とは裏腹にきらきらとした瞳で歩いている同年代の子達に続いて会場へと向かう。
早速帰りたい。
帰りたいが・・・少しでも入学式をサボれば、もれなく颯爽と母にバレてお説教される未来が待っている。
あの母には少しの嘘も効かない。なんせ何度も言うが森羅万象全てを見通す真理眼を持つのである。
あの母が生きている限り、私は些細な悪戯すら出来ないまま毎日を過ごさなくてはならないのだ。