頑張る母と頑張らない娘
「あー頑張りたくない」
川で汲んできた水が入ったバケツを2つ部屋によっこいしょと置けば、ぽつりといつもの口癖をつぶやいてしまう。
その後、しまったと思う頃にはもう遅く、この家にしては質の良いベットからギロリと鋭い視線がすでに身体に突き刺さっていた。
「あっ、あはは。お母様、顔が怖いですよ?」
ほら笑ってと引きつった笑みを向ければ、母はにっこりと美しい笑みを浮かべちょいちょいと手招きをする。
冷や汗がたらりと背筋に流れるのを感じつつ、渋々母に近づけばで両サイドから力強い拳で頭をぐりぐりとこすられる。
ああ!痛い痛い!!
痛さのあまり、じわっと泣きそうになれば、私の心に反動してあたりがざわっと騒がしくなる。
陽の光がよくあたり明るかった部屋は急に曇りだしたそのおかげで少し暗くなり、大きな風が吹き出したおかげか窓がガタガタと揺れる。
雨も降り出し、外の天候が本格的に荒れ出し始めた頃で母は仕方ないとため息をつき、その手を離す。
「全く、その言葉をこの母の前でいうじゃありません!母は何事にも頑張らない子は嫌いです!」
「そんな手厳しいっ、世の中には頑張りたくても頑張れない子がいるんだよ?」
「あなたの場合、頑張れるのに頑張らない子でしょう」
「母様は頑張りすぎなの。はい、ほら寝て寝て」
キッ!と怒る母を宥めながら、ゆっくりとベットに寝かす。
身体弱いのに、そんなに怒ったら病気にさし使えるよと。そういえば母は誰のせいですか!誰の!と怒りながらも渋々横になり布団を被る。
「本当、頑張りすぎなんですよ母は」
娘1人の為に、
立場を捨て。身分を偽り。必死で働き。こんな人1人いない場所に家を建てて。身体弱くなるまで育ててくれた。
どうやら悲しい顔をしていたのかもしれない。
母は握っていた拳を解き代わりに開いた手で頭を撫でられる。
「親が子の為に頑張るのは当たり前です。貴方が何者であろうと私にとったら少し駄目なところがある娘でしかありません」
「駄目なところある娘って娘に対して容赦ないなぁ・・・」
「えぇ。ミオは駄目駄目です。褒められたいならもっと精進しなさい」
いいですね?と穏やかに笑う母につられ自分もくすっと笑って「はぁい」と頷く。
いつまでたっても偉大なる母には敵わないなぁなんて、思いながらもこの先きっと自分は母に駄目な娘と笑われながら生きて行くのだろうという未来を想像した。
溜まっていた洗濯を洗おうとバケツを持ち上げ外に出る
「おっ・・・さっきよりも晴れてるじゃん」
さっき降り始めた雨はすぐに止んで、雨が降る前よりも空はからりと晴れていた。
きらきらと太陽があたりを照らし、それと同時に雨の雫もきらりと光る。
「今日も機嫌よく頑張りますかなぁ」
少しだけだけど。
心の中で呟いた皮肉な言葉とは裏腹にあたりは穏やかな風がふんわりとふいた。