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ヒメユメ物語

作者: 青井レモン
掲載日:2015/11/17

これは、僕が聞いたとある夢の世界のお話です。

捕らわれた姫を救うため、そして世界の平和を取り戻すために旅に出た勇者様。

長い長い旅の果て、魔王との最終決戦へと向かいます。

さて、この物語の結末や如何にーー

これは、僕が聞いたとある夢の世界のお話です。

捕らわれた姫を救うため、そして世界の平和を取り戻すために旅に出た勇者様。

長い長い旅の果て、魔王との最終決戦へと向かいます。

さて、この物語の結末や如何にーー


「ああ、勇者来たんだ」

緊張感の無い口調で魔王は呟きました。

「ああ、これからお前を倒して姫を助け出させてもらおう」

すらっと刀を抜き、臨戦態勢に入る勇者。その眼差しは鋭く、魔王を捉えます。

「えー、それは無理だよ」

ケタケタと笑い、勇者と対峙する魔王。

「だって、僕は負けないからね!」


魔王はそのふざけた行動とは裏腹に、得意とする詠唱呪文で勇者を追い詰めます。

しかし流石の勇者様、これまでの冒険で相当な経験値を得たのでしょう。

魔王の背後に回り込み、大剣を一振り、二振り。

その速度はとても常人の目に追えるものではありません。


「あー、やられちゃった」

魔王は以外にもあっさりと地面に倒れ伏しました。

ゴゴゴゴ、と地響きと共に部屋の奥、豪華絢爛に彩られた扉が開きます。

扉の先には魔王に捕らわれていた麗しの姫。怯えて震えて座っております。


勇者は姫の元に駆け寄ります。

「勇者様…」

目に涙を浮かべたマルタ姫。勇者はそっと抱きしめ、こう呟きました。

「姫…さあ、帰りましょう」

そっと手を差し伸べる勇者。その手を握る姫。ニヤニヤしながら眺める魔王。


姫「しかし勇者様、まだ帰れません…この城の奥地にいるラスボスを倒さなくては世界は平和になりません…」

そう、勇者には国王から命じられたニつの使命が有りました。

一つは姫を救い出すこと。もう一つは世界の平和を取り戻すことです。


「それではラスボスを倒しに参りましょう。

しかし、ラスボスは何処に潜んでいるのでしょうか…」

「この城の奥底の大部屋に潜んでいると聞いたことがあります。」

「そうですか」

ぐっと立ち上がり、握り拳に力を込める勇者。これより最終決戦へと向かいます。

最後の、最後の戦いです。


「姫、一つ提案がございます」

そう告げてマルタ姫の前に再度跪く勇者。決意を込めた眼差しを姫に向け、口を開きます。

「姫…私と一緒に遊びませんか?」

勇者様、御乱心ですか?と訪ねたくなる問い掛けですが、その眼差しは真剣です。


「ええ、いいわよ」

少しだけ困惑した様子で、しかししっかりと微笑んで勇者の手を取る姫。

「それでは何をして遊びましょうか?」

「そうですね…ブランコはいかがですか?」

視線をチラリと向けた先、木とロープで作られた新しいブランコが2つ、ゆらゆら揺れておりました。

ブランコに乗り、体を揺らす2人。

その影は大きく伸び、空まで届きそうな勢いでした。

「童心に返るような心地ですね」

「そうね、懐かしいわ」

ゆらりゆらりと姫はブランコを漕ぎます。勇者はその横顔をチラリと見てこう言いました。

「勇者となった今となっては、このようなことも出来るのです」

その直後、ブランコが最高地点に到達すると、子供が手を離した風船のようにふわりと2人の体が宙に舞い上がりました。

「あなた、こんな魔法も使えたのね」

姫はニコリと笑うと、そのまま目の前の大きな雲に飛び込みました。

ふわりと雲が姫の体を包み込みます。

勇者もそれに続いて隣の小さな雲に飛び込みました。

「さて、続いてはレースゲームです。あの柱に先に触れた方の勝ちと致しましょう」

ぱん、と手を合わせると雲がうねうねうねと形を変え、車になりました。

「よーい、どん!」

どん、の「ん」を言い切る前に勇者は飛び出しました。それを見た姫は慌てて追いかけます。

しかし勇者の雲車は小さく、スピードが出ませんでした。

結果としては。姫のほうが先に柱に触れました。

姫「やったー!私の勝ちね!」

雲から降りて地面に足をつけたと同時に喜び回る姫。その姿は風船を手にした子供のようでした。

それに続いて地に足をつける勇者。微笑んで姫を見守ります。

「それにしても先にスタートを切っておいて負けるなんてあなたダメね。もっと運転の練習をしなさいな」

「かしこまりました」

恭しく頭を下げる勇者様。姫には頭が上がりません。

「それでは次は何をして遊びましょうか?」


勇者は深く、深く考えてこう言いました。

「マルタ姫、残念ながらお時間です。私はラスボスを倒しに向かわなくてはなりません」

勇者の視線の先には先ほどのレースのゴールである柱ーーではなく、その奥にぽっかりと穴を開けた洞窟が在りました。

勇者と姫は洞窟の中を進みます。カツン、カツンと足音が反響し、緊張感を増幅させます。

やがて2人は大きな大きな扉に辿り着きました。扉には何やら文字が書かれており、これまた大きな南京錠がかかっておりました。

扉に書かれた文字を読むと、鍵はこの大部屋の主、つまりラスボスが持っているものただ一つであること。

しかし、この扉以外にも入り口は存在しているが、門番を倒さなくてはいけないということ。

「裏口から来てしまった、といったところでしょうか」

勇者は考えた結果、姫は後に来るであろう兵隊に任せ、自分は別の扉を探すことにしました。

程なくしてがしゃりがしゃりと援護の兵隊がやってきました。

「助けてくれてありがとう。これで帰れるわ」

姫はスカートを持ち上げぺこりと頭を下げます。

勇者は恭しく頭を下げ、こう言いました。

「姫、一つお願いがございます」

「なあに?何でも聞いてあげるわ」

勇者は少しだけ微笑んで、こう言いました。

「またお会いできたらーーその時はもう一度遊んでいただけますか?」


「…ええ、もちろん、」

笑顔で答えた姫。勇者様は少し微笑むと、姫に背を向けて、別の扉を探しに走りました。

その姿が見えなくなるとマルタ姫は静かに呟きました。

「さて、行きましょうか」


勇者は扉を探して走り、門番を倒してやっとこさラスボスが居ります大部屋への潜入に成功しました。

あとは目の前に座っているラスボスを倒すのみ。長かった旅路もこれで終わりです。

勇者の視線の先、長く伸びた背もたれの椅子に、確かに何者かが鎮座しておりました。

勇者はゆっくりと椅子に近づいて、こう言い放ちました。

勇者「貴方を倒しにきました。ラスボスーーーもとい、姫」

ゆっくりと見せたその姿、長い髪に純白のドレス、その麗しき立ち振る舞いは先ほど助け出した姫でした。

そうです。勇者は初めから姫がラスボスであることを知っていました。

姫を助け出す、そして世界を救い出す、世界を救うためにはラスボスを倒さなくてはいけない、そしてそのラスボスは姫ーー

この矛盾に満ちた命、そして結末。勇者様は全てを受け入れ、覚悟していました。



…私が聞いた物語はここまでです。

勇者は姫を倒したのか?

それとも倒すことが出来なかったのか?

はたまた…


この物語の結末は誰にもわかりません。

ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのかすらわかりません。

しかし、これだけは分かっています。

最後に勇者は笑顔だった、という事です。


…私が聞いた物語はここまでです。

勇者は姫を倒したのか?

それとも倒すことが出来なかったのか?

はたまた…


この物語の結末は誰にもわかりません。

ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのかすらわかりません。

しかし、これだけは分かっています。

最後に勇者は笑顔だった、という事です。

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