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剣と魔法と転生者 ~前世の謎が解けました~

作者: 安藤ナツ

 転生者としてこの世に生を受けて早くも二十七年の時間が経過してた。

 転生した当初は、大きな混乱と不安、そしてそれらと同等の希望や期待に溢れていたものだ。

 なにせ、剣もあれば魔法もある。冒険者やら、騎士団やら、そう言った単語がバンバン流れる世界に産まれたのだ。自分にも何かしらの才能があって、世に名を轟かせることが出来るのでは? と夢見ていた。

 が、現実はそんなに甘くない。

 まず、赤ん坊や幼年期や少年時代。精神年齢で言えば、両親よりも遥かに高い自分にとって、彼らに赤ちゃん言葉を使われると言うのは、常に煽られているような気がしてならなかった。週に一回の教会での授業の時も、小学生レベルの算数の問題を解くだけ牧師に褒められ、同い年程度の子供たちから尊敬を集めるのだ、それも遠まわしに馬鹿にしているんじゃあないか? と、何度も疑った。

 コナン君ってすごい。産まれて初めて本気でそう思った。

 まあ、コナン君はいいのだ。本筋に関係ない。

 と言うか、俺の生い立ちも全然本筋には関係がない。話を進めよう。

 いろいろな経験を積んだ俺は、冒険者として活躍をし、最終的には膝に矢を受けてしまい、軍に入り、小さな町の警備を担当することとなった。「ようこそ! ここは○○の村だよ!」と言う奴である。村人Aである。が、誰かがやらなくてはいけない仕事だ。

 ちなみに、ただ突っ立ているのではなく、定期的に聖水を撒くことによって、魔物を遠ざけるという、かなり重要な仕事も同時に行っている。ああ、あいつらってそんな設定なのね。

 そんな風に、門番をやったり、魔物と戦ったりしているある日。警備する村に勇者が来た。十代半ばのガキだったが、身につけた鎧や、腰の剣、そして纏うオーラから本物だと分かった。魔王退治の途中のようだ。可愛い女の子を三人連れていた。まあ、俺の娘の方が可愛いと言う確固とした自信はあるがね。

 ちなみに、勇者パーティは最大でも六人までと決まっている。あまり大人数で魔王領に入ると、入った瞬間に魔王に捕捉され、超遠距離攻撃魔法で狙撃されるらしい。またまたちなみに、魔王領とは魔王の瘴気が届く範囲であり、これに耐えられる人間は数千人に一人と言った割合でしかいない。だから、国が軍を上げて魔王退治にはいけないのだ。

 さて、勇者が来たこの日、俺は前世からかねがね不思議に思っていた現象の答えを知ることとなった。


 それは夕食時のことだった。俺と、嫁さんと娘はテーブルについて夕食を食べていた。冒険者上がりの軍人は割と重宝されており、俺の給料は悪くない。家族三人で一軒家に住み、毎日具の入ったシチューとパンを食べることが出来る程度の生活は余裕でできる。

 前世と比べると物足りないが、まあ、文句を言ってもしかたない。

 ささやかながらも、わいわいと楽しい家族だんらんをしていると、ノックもなく玄関のドアが開く音がした。別段、珍しいことではない。ノックなんて上品な行為を、この辺りの十人がするわけない。隣の同僚がまた、夫婦喧嘩で逃げ込んでくることもあるし、ぼけたばあさんが間違って入ってくることもある。

 が、この日は違った。

 凄まじいオーラを感じ、俺は部屋の隅に立てかけてあった剣を取る。と、同時。リビングに凄まじいオーラを持った存在が侵入してくる。

 勇者だ。

 勇者は鋭い目付きで部屋の中を見渡すと、無言でツボの中をあさり、台所の鍋のふたを当たり前のように自分の道具袋に入れる。 他の部屋からも、オーラと物音を感じる。勇者パーティの少女達が部屋を漁っているのだろう。

 え? 何これ? こんな堂々とした強盗始めて何だけど。

 茫然とするしかない俺を尻目に、勇者は「あ、おいしそうなシチューですね」とか嫁に言っている。妻は袋の中に入れられた鍋のふたが気になって仕方がないようで、何度も何度も勇者の顔と道具袋、そして俺の顔を見つめている。「あなた、仕事しなさいよ!」と訴えているようにも見えた。

 軍の兵士としても、一家の大黒柱としても、確かに嫁の言うことは一理ある。一理あると言うか、真理だ。

 が、しかしだ。

 が、しかし無理だよ、マイハニー。

 勇者様の持つオーラの力強さは単純に俺の十倍以上はある。別にオーラの量が全てではないが、流石に十倍は無理。しかも、これ、通常時だからね? 戦闘時はさらに上昇するに違いないから、勝ち目は完全にない。と言うか、本気を出せば小さな町なら簡単に滅ぼせるんじゃあない?

 それにもし仮に。いや、そんな仮にが起こる可能性はないんだけど、もし仮に、勇者を倒してしまったら、その瞬間から、俺は国家反逆罪でギロチン送りだろう。魔王に対抗できる勇者は別に一人ではないが、それでも希少な存在だ。その社会的地位は下級の貴族と同等かそれ以上なのだから。

 結局、俺は黙って勇者の行動を見届けることしかできなかった。

 俺達家族三人は、リビングで震えながら嵐が過ぎるのをまった。勇者様ご一行が出て行ったのは、十分後のことだった。あいつらも空気を読んだのか、盗まれたものは大したことがなく、被害は極々僅かな物だった。

 が、泥棒を黙認していた俺の家族内ヒエラルキーはガクンと下がってしまった気がする。

 しかし今回の一件で、俺は前世からの謎が一つ解けた。


 Q.どうして勇者は人の家の物を勝手に漁っているのに、家主はそれを咎めないの?

 A.命の方が大切です。

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