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終章

「どうせ召喚士は説明をしていないのだろうから最初から説明をしようか」



 さすが魔王。

 俺のことをよくわかってるな。



「あの、魔王様。その前に1つ聞いてもよろしいでしょうか?」



 質問をしたのはバルハクルト。

 魔王は「どうした?」と間延びした声を出す。



「召喚士とは? それにどうしてゼノウィリアは生きているのですか?」



「ふはははっ、その秘密を知ったからには生かしてはおけないなっ!」



「やめろアホ。それにまだ疑問をいだいただけで、真相は知らないじゃねぇか……」



 いつの間にかアークの背中から降りていたゼノからツッコまれた。

 ただこんな台詞を言ってみたかっただけだから後悔も反省もしていない。

 どやっ。



「召喚士とはあのふざけた男のことだ。ゼノウィリアが生きているのは、あいつが攻撃をくらう直前にゼノウィリアのことを召喚したからだな」



「ご名答! さすがベルちゃんわかってる~」



「ベ、ベルちゃん!?」



「もうお前に話さしていたら、いっこうに話が進まないな……見てみろよ、あの仲間の冷めた表情を」



 ゼノの言う通り、説明も何も放置して魔王とじゃれあっている俺のことを白い目で見ていた。

 そんなに見るなよ。

 照れるじゃないか。



「──こほん、話を戻そう。元より私と召喚士は全面抗争をする気などなかった。できることならば話し合いによる解決ができればなんて思っていたくらいだからな。──しかしそんな考えを急進派の仲間たちがはいわかりましたと受け入れるとも思えなかった」



「それで俺と魔王は結託して今回の決戦を取り仕切ったわけだな。冒険者が魔王よりも強いことが証明できれば、ある程度の魔族を押さえつけることができる」



「そうすればこのRPGもある程度は平和になるという考えだったんだ」



 俺と魔王が交互に事の成り行きの全てを説明していく。

 バルハクルトはそんな考えがあったことも聞かされていなかったのか、口を開けてポカンとしていた。



「それで大将戦では魔王殿の動きが止まったわけでござったか」



「あれは本当に動けなかったぞ?」



「ああ、あれは正成(まさなり)の影縫いを伏線にして召喚の効果で服従させていたんだよ。実のところは絶対に俺たちが勝てる試合ではなかったからな」



「全力でぶつかって勝てないようでは魔族の統治など不可能だからな」



 そう言って俺と魔王は笑う。



「それで召喚士は俺が女だといつから気づいていたんだよ……」



「出会い初めの頃、同じ部屋に泊まっていた時には薄々気づいてたぞ」



「初っぱなからバレるとはゼノウィリアもまだまだだな」



 魔王は腹を抱えて笑う。

 本当にこいつが魔王なのか!?

 って思うくらいに陽気なやつだった。



 あ、今の魔王は俺か。



「魔族の世界は力こそが全て。魔王様がそれを完全に掌握できないならば、それ以上の強さで掌握しようとは、本当にどこまでも頭のおかしいやつだな……」



「まったくよ」



「ホントだよ。そうならそうでもう少し早く教えてくれたらよかったじゃん」



 バルハクルトとミリエリ姉妹の意見が同調した。

 やっぱり上がこんなんだと、下が思うことは人間だろうと魔族だろうと同じなんだな。

 いや、その上の人間が染々と思うようなことではないけど。



「召喚士に仲間にもこの事を秘密にするように言ったのは私だ。──いかんせん魔族には術で相手の心を読むものがいる。それに対抗する術を持つのはお主らのパーティーの中では召喚士と、そこの聖者の娘だけだからな」



「それならどうして私には教えてくださらなかったのですか!?」



「だってお前に教えていたら面白くないではないか」



 面白くないとの理由だけで一蹴されてしまうバルハクルトが不憫に思えてくる。

 まあ、俺も同じようなことをよく言ってたんだけどな。

 反省、反省。



「そういうわけで今回の決戦では誰も死ななかったわけだ。──ヴァレリアが投身自殺を図った時はちょっとヒヤッとしたけどな」



「どういう理由であれ彼女が生きていてよかったと(それがし)も思う」



「アークはヴァレリアに惚れたのか」



「そうみたいでござる」



「まあ、あいつは女っ気はないが顔はいいしな」



「そ、そ、そんなのではないっ!」



 明らかに動揺しているアークに暖かい笑いが起きる。

 これで万事解決かな。



「──あ、あの。その。マスターとゼノさんはけ、結婚なさるのですか?」



「…………お兄さん……渡さない……」



「あ、そうだよ! ゼノだけ抜け駆けするなんて許さないから!」



 というわけでもなかったようだ。



「お前ら落ち着けよ……別に俺は召喚士の事が好きってわけじゃねぇから」



「…………嘘……」



「サシャがそういうってことはゼノは三厳(みつよし)のことが好きってことかぁ」



「だ、だから違うって!」



 こうしてみるとやっぱり恥じらうゼノは女にしか見えないな。

 ツンデレ、いいよツンデレ。



「──まあ、あくまでゼノウィリアを妃に迎えるのは形式上の話だ。召喚士が魔王の座を継ぐのであればこいつを王女に仕立てるというのが一番反感を生みにくい。──それに魔族は重婚も認めているからな」



 重婚。

 その言葉に女性陣の目の色が変わるのが分かった。



 今までは魔王討伐を盾に逃げてきたが、これからはそうはいかないかもしれない。

 はぁ……これ、魔王になんかならない方が俺個人は平和だったんじゃね?



 まあ、ハーレムも悪くないけどな。



「──とは言っても、すぐに魔王になれるわけではないけどな」



「はい、三厳様には魔王見習いとして実務の引き継ぎをしてもらいます」



 えっ、嘘だよね?

 なんかバルハクルトの目がすごく怖いんですけど。



 そうして俺の冒険者としての日々は終わりを告げ、立派な魔王になるための見習いの日々が始まっていくのであった。






 なんというか後日談。



 あれから魔王城では様々な事が起きた。

 俺の身辺で起こったことからあげるとすればまずはこれだろう。



「某は剣の道を極めんとする者。三厳殿とともにいるのも悪くはないが、修行の旅へ戻らせてもらっても良いだろうか?」



「許されるならば私もそれに同行させていただきたい」



 旅に戻ると言うアークと、同行を望むヴァレリア。

 俺はベルちゃんと相談した後、快く2人を見送ることを決めた。



 アークはとても頼りになる男だったし、いなくなると寂しくもあったが、まあ、あの2人ならうまくやっていけるだろう。



 そして次に女性陣。

 リリィにミリエリ、サシャの4人が徒党を組んで俺の嫁になると言い出した。



 まあ、ミリスはエリスとリリィに乗せられるままその場にいただけのものだったが、ゼノも合わせて嫁が5人ともあると嬉しいような大変なような……

 とにかく複雑な気持ちである。



 最後に正成。

 あいつはバルハクルトの考えによって、第2貴族エルトハルム、第3貴族ウレーヌス、第5貴族エイルの監視を行っている。



「どんどん厳しくいくでござる!」



 なんてとても張り切っているが、正成を見る度に死んだ魚のような目をしているエルトハルムがかわいそうに思えてくる。



 そして俺はベルちゃんとゼノ、バルハクルトの3人に、厳しい指導を受けている。

 魔王を討伐した後どうなるのだろうか?

 そんなことを思っていた時もあったが、あの頃に戻れるのであれば、絶対魔王になるなんて考えを捨てさせるだろう。



「ああ、1度元の世界に帰りたいな……」



 口癖になったそんな言葉を呟きながら今日も平和な1日が過ぎていくのであった──

読了いただきありがとうございました。


昨年の3月頃に書き始め、それから度重なる長期休載を挟んだ当作品でしたが、今年の3月頃から本気を出した甲斐もあってか、無事完結を迎えることができました。


これも一重に拙作を読んでくださった方々がいての事だと思います。


ブックマークが増えたことに喜び、コメントが来たらドキドキしながらページを開いて、評価された日にはブレイクダンスを踊るような私でした。(踊れているとは言ってません)


これでひとまずは完結ということにはなりますが、もしかするとまた近いうちに「続RPG」なんて銘打って続きを書き始めるかもしれません。


その時はまたお付き合いいただけると光栄です。


2016年4月25日 柊 雪葵

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