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RPG~召喚から始まる魔王討伐~  作者: 柊雪葵
第4章 決戦! 魔王城
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「飛ぶぞ! ライドラ」



「振り落とされるなよ」



 開始の合図とともに俺はライドラに飛び乗り、空へと逃げた。

 元々の立ち位置には既に魔王の攻撃が放たれている。

 のっけからやる気のようだ。



 それにしてもどれだけ魔法を使っても壊れないこの闘技場はどういう仕組みなのだろうか?

 正成(まさなり)のクナイは刺さっていたから魔法耐性だけには滅法強い加工でもしてあるのだろうが。



「こちらからも仕掛けるぞ!」



 一方、ライドラもやる気満々なのか、迫り来る魔王の魔法を次々にかわしながら攻撃に移る。

 空へと逃げた以上は俺のリーチでは攻撃ができない。

 つまりしばらくはライドラが頼りだ。



「──おっと、序盤から目まぐるしい攻防が繰り広げられています! 空を翔る黒龍とそれに地上から立ち向かう魔王様! 距離が遠いこともあってかお互いに有効打は生まれていませんが、目を見張る戦いが続いています」



「このままでは埒があかんな」



「そうだな……でもこれ以上近づけるのか?」



「やってみよう!」



 しびれを切らしたわけではないが、ライドラが羽音を響かせてそのスピードを上げる。



 距離は先ほどまでの半分──5ユーレほど。

 俺の感覚からすれば結構離れているように思えるが、ライドラや魔王からすれば身体の2倍くらいの距離。

 ここまで近づくと一瞬の判断が大事になってくる。



「距離が縮まったあ! さらに攻防が激しくなっていく! これは一撃くらってしまっただけでも大痛手となりそうだあ!」



 そんな実況の声はどこ吹く風。

 魔王の魔法はライドラに命中することはなく、もちろんライドラの吐き出す火の玉も魔王にかわされている。



 勝負が動いたのはそんな攻防が1分ほど続いた後だった。



「──クソっ!」



 何が起こったのかは分からなかったが、ライドラの身体が大きく揺れる。

 いや、揺れるなんて甘ったるいものじゃない。

 予期せぬ魔王の攻撃をかわすためにきりもみ状に回転してかわしたのだ。



 それが何を意味するか。

 うん。

 俺死んだんじゃね?



「魔王様の他方向からの攻撃を黒龍はなんとかかわしたものの、竜騎士が落ちてしまったあ! 魔王様はもちろんそれを見逃さない! 逃げ場のない空中に漂う竜騎士に容赦のない一撃を放ったあ!」



 地面までの距離は遠近感がつかめない。

 しかしそれよりも先に魔王の攻撃をどうにかしないといけない。



「──ちっ、篩水(しすい)流抜刀術三乃型──五月雨(さみだれ)!」



 破れかぶれではあるが右手で刀を抜き、魔王の攻撃を受ける。

 右手の刀には魔法の反射効果がある。

 それが機能しなければ死ぬだけだった。



「竜騎士、ここで魔王様の攻撃を跳ね返したあ! この予想外のカウンターに自分自身の放った魔法が直撃する! 魔王様は大丈夫なのか!?」



 どうにかうまくいったようだ。

 しかし刀身は役目をまっとうしたと言わんばかりに割れてしまっている。



 まあ、そんなことよりもう1つの問題をどうにかしねぇと……



「召喚」



 エスシュリー(仮)を起動することなくライドラを再召喚する。

 できることならば使いたくなかった手段ではあるが、魔王に視線が集まっている今ならばどうにかなるだろう。



「──危機一髪だったな……」



 ライドラは俺を拾って地面に降り立つと寿命が縮んだみたいな顔でそう言った。



「はっはっは! 面白い。面白いぞ!」



 もちろん魔王もあれくらいで倒れることもなく、狂ったような声を上げていた。



「どうする、三厳(みつよし)



「俺は降りる」



「そうかその方が俺も戦いやすい」



 そしてライドラが再び飛び上がる。

 その際に俺は尻尾を滑るように着地をとった。



 無論気配は消している。

 それが魔王に通用するなんて思えないんだけどな。



「なるほど……そう来たか。──そんな姑息な手段は私には通用しない!」



 魔王は俺に向けて攻撃を放ってくる。

 それを転がりながらどうにか回避をするが、気配を消す有用性はなかったようだ。



「相手は三厳だけではない!」



 そんな俺に連撃が来るのを防ぐように、ライドラは独断で攻撃を仕掛けていく。



「完全な1対2。それもいいだろう。さあ、もう一勝負始めようじゃないか!」



 魔王のパフォーマンスに観客のボルテージが最高潮を迎える。



 できることならば安全圏で勝負を決めてしまいたかったがそううまくはいかなかった。

 でもここまでは想定通りだ。



 それじゃ第2ラウンドを始めるとしますか──






 竜騎士というていはどこにいってしまったのか、その後の俺たちは完全に単体としての攻撃を続けていた。



 基本的にはライドラVS魔王。

 その合間合間で俺の効果があるかすらも分からない攻撃が魔王を襲う。



 我ながらリーチも短ければ、火力も弱い。

 どうしてこんな化け物と戦っているのだろうか?

 そんなことを思ってしまうほどだ。



「もう試合開始から10分を経過しましたが、白熱した戦いはいまだ終わる気配を見せません! 魔王様と黒龍の攻防は両者譲らず! 時折竜騎士が攻撃を仕掛けていますが、魔王様はそれをいっさい気に止めていない。残念ながら竜騎士は単体では蚊帳の外のようです!」



 うるせぇよ!

 自分でもわかってんだよ!



 そんな怒りが実況に対して沸き上がる。

 しかしそれはいい傾向でもあった。



 俺は先ほど失敗に終わった透明化に再び挑む。

 今は魔王の意識が完全なライドラに集中している。

 わずかばかりの隙ならば作り出すことができるだろう。



 そしてライドラと魔王の攻防を確認しながら、足を止め、次の一撃を放つ準備に入る。



 ライドラと目があった。

 どうやら俺の思惑に気がついたようだ。

 俺の場所へと誘い込むような上空からの連続攻撃。



 3、2、1──今だ!



「篩水流抜刀術奥義改──霧雨一閃(きりゅういっせん)!」



「──何っ!」



 魔王が俺に気がついた時にはもう遅い。

 これまで温存しておいた魔石による雷属性の一撃はかわすことも敵わず魔王に直撃する。

 そして追撃するようにライドラの攻撃も直撃した。



「おい、ライドラ!」



「三厳、そんなに怒るな」



「俺まで殺すつもりかよアホ」



 ライドラの放った爆風に身体を飛ばされた俺は危うく死ぬところだった。

 場外に落ちる寸前でライドラに助けられたが、死んでたらどうするんだよ!

 まったく……



「油断大敵……か。──効いたぞ」



「仲間割れをしている場合ではないな」



 響き渡る魔王の声にライドラは上昇を始める。

 俺を乗せていることで不利な状況にはなるが、このまま下に待機していたところで生きていられるとは限らない。

 そこまで計算してのライドラの判断だった。



「ライドラ! 少し作戦会議だ。──闘技場下の結界付近まで逃げてくれ」



「分かった!」



 そして今度は魔王の攻撃を避けながら降下する。

 空を自由に飛べるライドラだからこそできる逃げ道。

 それは上だけではなく闘技場の下も含まれる。



「おっと! 竜騎士は闘技場の下に潜り込んだ! 汚い手段に見えますが、これもルールの上では問題ありません。──そのためか魔王様は闘技場中心で次の展開を待ちわびています!」



 観客からは「汚ぇぞ! 正々堂々勝負しろ!」と罵声が上がっている。

 まあ、そんなもの気にしないけどな。



「それでこれからどうするんだ?」



「勝利への条件は2つだな。1つは俺が闘技場の上に戻ること。もう1つは俺が死なないように全ての注意をライドラが引き付けること」



「分かった。それはなんとかしよう。それでどうとどめをさす?」



「正成のように動きを止めるしかないだろうな」



 俺は正成が使っているものと同じライドラの鱗で作られたクナイを取り出す。

 それを見てライドラも「そういうことか」と納得をした。



「飛び降りるか?」



「真上からか?」



「いや、それでは三厳が無事ではすまないな……」



「そうだよな。あんな高さから落ちたら確実に動けなくなるぞ」



「なら逆に登るか?」



「なるほど。それなら魔王の意識もそらせるな」



 作戦会議終了。

 俺はエスシュリー(仮)から2本目のクナイを取り出すと、闘技場の側面にクナイを刺し込む。

 後は腕の力との勝負だ。



「それじゃ俺は反対側に回る。落ちたときは呼んでくれ」



「ああ」



 闘技場までは残り1ユーレもない。

 その距離をクナイだけを頼りに登っていく。

 その時会場から歓声が上がった。



「ここで試合再開だあ! 魔王様の後方から黒龍が上空に飛び上がる。 そしてまた激しい攻防が始まったあ! 竜騎士は何か策を見出だせたのか!?」



 よし、反対側に魔王の意識がいった。

 そして闘技場に手も届いている。

 後は気配を消して近づくだけだ。



 俺は音を立てないように闘技場へ舞い戻る。

 そしてライドラの攻撃による衝撃に耐えつつ魔王の傍へ移動し、その影にクナイを刺した。



「──魔王、動くな!」



 魔王にしか聞こえないであろうその声は、明らかに異常を起こさせる。

 ついに魔王の動きが止まった。



「おっと、どうした!? 魔王様の動きが止まってしまった! その後ろには黒龍に乗っていると思われていた竜騎士の姿! そしてその手にはクナイ! これは第4試合の再来かあ!?」



「……なるほど、そういうことか」



「ああ、悪いな魔王」



「構わん、さあ、とどめをさすがいい」



「それは断る。──ライドラ!」



 俺は魔王の正面に回り込むと隣にライドラを待機させる。

 そして会場に向けてこう叫んだ。



「魔王、お前の敗けだ! 王だと言うならば潔く敗けを認めろ!」



 その言葉に逡巡するように顔を歪ませる。

 王として潔く敗けを認めるか。

 それとも王として死を選ぶか。



 しばらくの沈黙の後、魔王は口を開いた。



「──降伏する」



 その言葉に会場の音が止まった。

 ただ、パリンと結界が破れる音だけが響いていた。






「マスター! やりましたね!」



 沈黙の中で最初に俺の元へ飛び込んできたのはリリィだった。

 よほど嬉しかったのか他の仲間なんて放っといてワーティで移動してきているくらいだからな……



「三厳たまにはやるじゃん!」



「そうね、あんたにしてはよくやったと思うわ」



「まったく、素直じゃないでござる」



「うるさいわよござる!」



「だから拙者は正成でござる……」



 遅れるようにしてミリエリ姉妹と正成も両手(もろて)をあげて駆け寄ってくる。

 その後はサシャが俺に抱きついてきて、アークがその姿を見て笑いながらゆっくり歩いていていた。

 もちろん観戦に来ていたレイドラもライドラの元へ飛び付いている。



 これ以上にない大団円だった。



「──俺はこんなの認めない!」



 喜びも束の間。

 勝利の余韻に浸っていた俺たちに向かっていたのは第3貴族ウレーヌスの放った広範囲の魔法だった。



「──お前はこれ以上泥を塗るつもりか!」



 そしてその攻撃は回避できないと察してしまった俺たちの寸前で防がれる。

 攻撃を防いだのは第1貴族バルハクルト。



「ひっ、ひぃ……」



「何を逃げようとしているのかな?」



 ドスッと鈍い音をたてて逃亡を図ったウレーヌスが倒れ込む。

 その傍らに立っているのは第4貴族の剣聖ヴァレリア。

 どうやら無事だったようだ。



「──そうだ、正成。そのクナイを抜いてやってくれ。魔王も動けないままだと不便だ」



「御意!」



 正成が指示に従い魔王の影に刺さったクナイを抜く。

 俺はそれと同時に「魔王動いていいぞ」と小さく囁いた。



「──それで冒険者たちよ、私たちが負けたわけだが、お主らは何を望む。 やはり我々の滅亡か?」



 魔王の言葉に会場中の緊張が高まる。

 それは俺とサシャを除く冒険者も同じだった。



「なあ、俺の独断で決めてもいいか?」



「はい」



「構わないでござる」



(それがし)も構わぬ」



「私は負けたから何も言えないかな」



「まあ、私も不戦勝だからね……」



「…………」



 サシャが最後にコクコクと頷いたところで満場一致となった。

 それならはっきりと宣言をさせてもらおう。



「魔族諸君に告ぐ! これより俺、柳生(やぎゅう)三厳は、魔王ベルウィリアの娘ゼノウィリアを(きさき)に迎え、新しい魔王に就任する!」



 あれ?

 なんで沈黙?



「ちょっと! あんたは何を言っているのよ!」



「そうだよ! えっ!? 三厳が魔王にって意味が分からないよ!」



「そうですよ! しかもゼノさんを妃にってどういうことですか!?」



 そして砕けるように批判が殺到した。

 敵からではない。

 もちろん味方からである。



 魔王軍の3人──魔王、バルハクルト、ヴァレリアは笑っているというのに……



「まあ、ここで話をしても仕方がないだろう。ついて参れ」



 その空気を察してか魔王が闘技場の奥へと俺たちを案内する。

 横にはバルハクルト。



 ヴァレリアは気絶したウレーヌスと駄々をこねる第2貴族エルトハルムを担いでどこかに行ってしまった。

 なんとも物わかりのいい魔族である。



 それに比べてこっちは……



「納得いきません」



「そうね」



「そうだよ」



 そう徒党を組むように一致団結しているリリミリエリの3人に、君子危うきに近寄らずを地でいく正成とサシャ、そしてゼノを背乗っているアーク。



 誰一人として俺の味方がいないのではないかとも思えてくる。



 そんな愚痴を後ろに聞きながら城の中を進む時間は、魔王が「着いたぞ」というまで続いた。

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