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「さぁ、ここまで2勝2敗! 両陣営譲ることなく競った試合が続いています。そして迎えた第5試合! 冒険者チームは『パラディンのミリス・シュレイザー』。対する我らが魔王軍は『第5貴族──エイル』! ──それでは両者の入場です!」
第5試合の相手は魔導弓の使い手エイル。
その姿は魔族というよりは小人。
体長は25──あれ?
ユーレの下の単位なんて知らねぇぞ……
──あっ、そうか。
50センチでいいのか。
RPGでは通じない単位だから完全に忘れていたわ……
「──ところで召喚士殿。本当にあんな手段を使って良かったのでござるか?」
「気がつかなかった管理者が悪いってことにしたらいいんじゃないか?」
「三厳とござるの人は何を話してるの?」
「拙者の展開した無数の罠が舞台上に残されている話でござる」
「ミリスは大丈夫なのですか!?」
「多分大丈夫だと思うでござる」
多分。
その言葉が含む意味にそこはかとない不安を感じるのは俺だけだろうか?
正成のことだから大丈夫なんだと思うが、もし何かがあった場合にミリスから怒られるのは俺だからな……
そんな俺の心配などいざ知らず、闘技場では別の問題が発生していた。
「おっと、どうしたのでしょうか!? 魔王軍代表のエイル様がまだ出てきません! これは相手のしびれを切らせる作戦なのでしょうか!?」
不戦敗にはならないのか……
相手が死ぬか降伏が認められない限り勝負が決しないなら不戦敗という概念がなかったのか。
それができるなら俺もわざわざサシャを戦いに出す必要がなかったからな。
「──代わりにここで魔王様が出てこられた! いったい何が起こっているというのか!?」
「とても申し訳ないが、エイルが逃亡した。この試合をそちらの不戦勝ということで話をつけたい」
「えっ!?」
逃亡っておい……
確かに前の試合であんな戦い方を見せられたらそうなるもの仕方ないかもしれないが、この大一番でそれはないでしょ。
「逃亡ですか……」
「罠を仕掛けた意味がなかったでござる」
「てか姉さん困り果ててるけど助けに行かないの?」
「ああ、仕方ないから行ってくるわ……」
「拙者もついていくでござる」
そして話をつけるため俺はミリスと魔王が向かい合っている闘技場へ向かう。
その後ろには気配を消した正成。
ここで不戦勝になった場合は、あの罠を解除しておかなければリリィが大変な目にあうからな……
「おっと、この状況に冒険者チームの大将も登場だ!」
「部下に尻尾を巻いて逃げられたとか情けないな」
「返す言葉もない」
「どちらにしても2勝2敗になった時点で大将戦で決着がつくからこの試合に関してはどうでもいいんだけどな」
「それならば──」
「それを認めるか認めないかはこっちが決めることだろ? 俺たちもそれが認められるなら1戦目にサシャを出すような事をしなかった。違うか?」
そう言いながらもサシャはしっかり生きているんだけどな。
それでも罠の解除に勤しんでいる正成のために時間を作ってやらないといけない。
だからこそこの状況を最大限に活かさせてもらおう。
「お主の言う通りだ。それでどうすれば譲歩に値する?」
「そうだな……大将戦を2対1の戦いにしてくれるなら。──とは言っても竜騎士である俺が相棒のドラゴンを連れてくるだけなんだがな」
「そうか。そういうことなら問題はない。ならば締結と言うことで構わないか?」
正成の方をチラッと見る。
両手で大きな丸を作っていた。
もう罠を取り払ったようだ。
「ああ、それで構わない。この第5試合の勝者は俺たちということで第6試合に移ろうか。──ほら戻るぞミリス」
「えっ!? ええ……」
釈然としないミリスを従えて控え室へと戻る。
少し予定とは変わったが、大将戦でライドラの力を堂々と借りることができるのだから上等な結果であろう。
「──エイル様の不戦敗が認められたため勝者は冒険者チーム! これで魔王軍は2勝3敗。しかし我々には魔王様がいる! ここから先はもう好き勝手な事はさせないでしょう!」
実況も大変だなと同情したくなる。
観客からは不平不満の声が轟々と響いているからな。
ここから盛り上げなければいけないとなれば、間違いなく骨の折れる話だろう。
「──それであんた、竜騎士って何の事よ」
「ドラゴンナイトだよ」
「そんなことは知っているわよ!」
「試合の時には竜騎士としてライドラと共に戦うだけだ。召喚士として戦ったとしても勝ち目はないからな」
「なるほど……しかしそれで勝機はあるのですか?」
「さぁな……半々だな」
「三厳ってそういう大事なところで適当だよね……」
もういちいち反応するのにも疲れた。
アホ姉妹の悪口はスルーしとくか……
「──それで次の試合はリリィに任せる」
「はい。わかりました!」
「相手はゼノウィリアとかいう魔王の子どもなんだが、相当強いぞ」
それは知っている。
そんな顔でみんなから見られる。
まあ、元々は仲間だと思っていたやつとの戦いになるから仕方のないことだろう。
「ゼノさんとはできれば戦いたくなかったです」
「それに関しては1つ考えがある。こっちに来てくれ」
リリィを連れて控え室を出る。
俺の計算では正成の罠を使ったとしてもミリスがエイルに勝てる確率は低かった。
それを労を要せず取れたのだから別にリリィが無理をする必要もなくなっている。
「リリィがゼノと戦いたくないならいきなり降伏してくれて構わない。──ただゼノがそれを認めないかもしれない事だけは理解していてくれ」
「えっ? どうしてですか?」
「あいつにはあいつの立場があるからな。この状況でいきなりの降伏を認めるとは考えにくいんだよな……」
「分かりました……」
リリィはまだ戦うことになるとは決まっていないのに俯く。
そんな彼女に俺がしてやれることは1つしかなかった。




