7
「他の装備はどうしましょうか?」
リリィのその言葉で本日の冒険は終了した。
「初期装備のままというわけにもいきませんよね。ですが、もう店は閉まる時間ですし……」
「明日次の街で買えばいいんじゃないのか?」
「それはダメです! あの街は装備品を取り扱っていません!」
装備品を取り扱っていない街。
ゲームとかでもたまにあるが、現実的にどんな寂れた街なのかと不安になる。
むしろあれだよね。
街というより村。
「今日の冒険は諦めてください。今から鍛冶屋に行きましょう」
リリィは陽気に予定を変更すると、俺の腕を引っ張り鍛冶屋のある方角へ進む。
何となくだが、休日に子どもに振り回される父親の気持ちが分かった気がした。
「それでマスターは何の武器を使いますか? 私は一応サブで剣を使っていたのですが、どうやら落としたみたいですし新しいものを作りますけど」
リリィが剣をもっているイメージがつかない。
だって王宮から外門までのわずか数キロの距離も走れないあのリリィだからな。
これで使用武器がクレイモアとかだったら首吊るわ……うん。
「術士が剣を持つ意味はあるのか?」
「ありますよ。物理攻撃しか効かないモンスターとかいますから。今までは仲間のパラディンが露払いをしてくれていましたが、これからはそうはいきませんし」
「そうか」
さあ、利き腕じゃない右手で得物を持つとすれば何がいいだろうか?
左手は召喚の時に使うからできれば自由にしておきたい。
いざというときに魔王を呼べないと辛いからな、うん。
そんなことを考えているうちに鍛冶屋に到着した。
「おう、仲の良いカップルの冒険者かい? どんな武器をご所望だい?」
とても暑苦しそうながたいの良い主人が出迎える。
良い人そうだが苦手なタイプだ。
「レクシェム、軽量化、属性魔石あり、練度10でお願いします」
手慣れた感じにリリィが武器を注文する。
それを聞いて鍛冶屋の主人は困惑するしかなかった。
「お嬢ちゃん、申し訳ないがうちにはそんな高価な素材は置いていないよ」
「これでお願いします」
リリィは素材を取り出す。
何かの角の様にも見える塊。
以前使っていたであろう鞘。
そして蒼く発光する石。
それを見て主人は目を鱗が落ちそうなくらいに見開いた。
「せ、成功する確率は半々だ。代金はいらないが失敗しても大丈夫だと言うなら引き受けよう」
「はい、お願いします。マスターは何の武器にしますか?」
「日本刀って作れるのか?」
結局思考した結果、右手では武器をうまく扱えないと結論をくだした。
そこで代案として軽い両手剣。
日本人として馴染みの深い日本刀をチョイスした。
「坊主、こんなもので良ければ作れるぞ」
主人は一振りの刀を投げ寄越す。
鞘から刀身を抜いてみる。
まあ、悪くはない。
「それなら頼む。刀身はこれより長く、重みも少し増してくれ。使いやすさより強度の方を重視だ」
「強度が高いものがいいならこの素材ですね。スリードフと繋ぎにクレール。後は両手剣ですので反射用にリフレーション。これを使ってください」
次々と出てくる素材のオンパレード。
それがどれほど凄いのかは分からないが、店主の顔色を見る限り初期の段階ではまず手に入らないものだと分かる。
「お、おう。確かに引き受けたぜ。引き渡しは明日になるがそれでもいいか?」
「はい、お願いします」
頭を下げると鍛冶屋の主人は軒下に準備中の札を掲げて鍛冶場へと引っ込んでいく。
その顔はどこか楽しげだった。
「一晩ここで過ごさないといけないみたいだな」
「ここじゃないとダメですか?」
俺の言うここが野宿だと思ったのだろうか、リリィは上目遣いでそう聞いてくる。
さすがにそれはないと首を横に振る。
「なら1度ミュナーの街へ行きたいのですがいいですか?」
どうやら話が噛み合ってなかった様だ。
まあ、安全に移動できるのだから文句を言うこともないだろう。
「構わないが、そこで何かあるのか?」
「はい! 待ち合わせをしていたことを思い出しました。もしかしたら頼りになる前衛の味方が増えるかもしれません!」
前衛が増えるにこしたことはない。
むしろ大歓迎である。
まあ、リリィと二人きりじゃなくなるのは少し残念だが……
「よし、ならミュナーだっけ? そこに行こうか」
「はい!」
そうしてリリィが移動術式の詠唱を唱える。
それと同時に視界が眩い光に包まれた。
視界を遮る光が消えると、そこは今までいた街とは違う小さく賑やかな街にいた。
「ここがミュナーの街です。それでは時間もありませんし宿へ向かいましょう」
リリィは土地勘をいかして細い路地を迷うことなく進んでいく。
手を繋いでいなければ迷子になりそうだ。
「──リリィに何してんのよ!」
後方から何者かに襲撃された。
しかしその攻撃は月詠のローブによって吸収される。
「マスター、防御結界を張るので後ろに下がって──」
と、そこまで言ったところでリリィが襲撃者の顔を見て固まる。
そして俺の手を離して襲撃者の元へ走っていった。
何か悔しい。
「ミリス! 無事だったのですね!」
「リリィこそ大丈夫? あの変質者に何か変なことされてない?」
そしてミリスと呼ばれた女は初対面の俺に対して変質者呼ばわり。
これはキレてもいいだろうか?
「ミリス、彼は私のマスターです! 詳しい話は……酒場にでも行ってしましょうか」
「そうね。最近連絡が取れなかった理由とかも教えてもらえると助かるわ。じゃあ行きましょうか」
そして二人が歩き出す。
俺は不本意ながらもその後をついていくしかなかった。