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ゼノとの話を終え、眠りについたのは23時を過ぎてのことだった。
そのせいもあってかまだ少し眠い。
「はぁ……あんたはまったく緊張感がないわね」
「まったくだよ。三厳が朝に弱いのは知ってるけど、こんな日までその調子はやめてほしいかな」
「…………お兄さん……しっかり……」
あくびをしていただけで文句を言われないといけないのか……
ホント世知辛い世の中になったものだ。
「それにしてもゼノ殿はどうしてこんなに道に詳しいのかな?」
「それは拙者も気になっていたでござる」
迷路のような森をスムーズに進んでいくゼノに対して疑惑がかかった。
てか正成はなんで便乗してるんだよ……
理由を知ってるんだから黙っとけよ……
「──マスターたちは魔王城に下見に行ったと言ってましたからその時に覚えたんじゃないでしょうか」
「……ああそうだな」
予想外の質問だったのか答えに困ったゼノをリリィがフォローする。
アークたちは「そうだった」と納得をしたものの、1人不穏な言葉を残したやつがいた。
「…………嘘……良くない……」
俺だけに聞こえるようにサシャはそう呟く。
もしかしなくても昨日言おうとしていたのはこの事じゃないだろうか?
まさかサシャにまで気付かれていたとはな……
「サシャ、疲れてないか?」
「…………?」
「ここは足場が悪いから心配になってな」
「…………疲れた……」
おそらくこの言葉は嘘だろう。
それでも取り引きは成立したと言いたげな顔でサシャは俺の背中に捕まってくる。
今となってはあまり意味があるとは思えないが買収完了。
「三厳ってサシャには甘いよね……」
「俺は年下には総じて甘めだぞ」
「拙者には厳しいでござる」
「正成が年上ならもっと厳しかったでござる」
誤魔化すように正成の口癖を真似る。
そんなことをしながらも正成に厳しくしてたかなと思い返してみた。
うん。
厳しくしたつもりはないけど、結構雑な扱いばかりしていたな。
身代わりの術なんてやったし文句言われても仕方ねぇわ。
「ござるはそういうキャラなんだから我慢しろよ……」
「ゼノ殿まで酷いでござる……それと拙者は正成でござる!」
「はいはい」
「……」
いつもと変わらないゼノと正成の絡み。
1年ほど経ってもゼノは俺たちのことを誰1人として名前で呼ぶことはなかった。
それは敵になることが分かっているからなのだろうが、どこか寂しい気もした。
「そろそろ到着だ」
ゼノの言葉に俺とゼノ、サシャを除いた5人の警戒が強まる。
別にいきなり襲いかかってこられるわけではないのだが、これが当然の行動なのだろう。
「──待っていたぞ冒険者たちよ」
そしてついに辿り着いた魔王城。
まあ俺は2度目なんだけどな……
その入り口で俺たちを待ち受けていたのは他ならぬ魔王だった。
「父上、ただいま帰還しました」
「うむ、ゼノウィリアよご苦労であった」
片膝を地面について魔王にあいさつをするゼノと、父親らしく威厳のある顔でゼノを迎える魔王。
その光景に悲鳴にも似た声が上がる。
「えっ!? ええええええ!?」
「父上? ちょっとこれはどういうことよ!?」
声をあげたのはもちろんこの事実を知らなかったミリエリ姉妹。
最初に教えていたリリィ、途中で気付いた正成、気付いていたかどうかはともかく驚かないであろうサシャが声をあげることはない。
ただ唯一意外だったのはアークの反応だ。
「父上? 三厳殿、このお方は誰ですかな?」
普段は頭の回るアークもいきなり過ぎる展開にはついていけなかったようだ。
いや体長が2ユーレ半もある時点で魔族であることに気付いてほしいんだけどな。
「私はベルウィリア。ゼノウィリアの父にしてこの城の主──魔王だ」
「魔王だったか。──って魔王!?」
「ちょっと三厳どういうこと? ちゃんと説明してよ!」
「そうよ! なんでこんな大事なことを黙っていたのよ!」
ああ、やっぱりこうなりますよね……
ほら魔王、打ち合わせ通りに頼むぞ。
「そういう契約をかわしていたからだ。──私は1年の間冒険者が魔族に襲われることのないようにゼノウィリアを貸し出し、三厳はその事を口外しない。──まあそんな話はどうでもよい。さあ中へ入るがいい」
そして魔王は俺たちを先導するように城の中へと入っていく。
3人ほど状況を納得しきれていないやつがいるが、俺たちもその後に続くようにして城の中へと入っていった。
城の中はバルハクルトの城と比べてもより豪華だ。
それに魔王が生活しているだけはあって通路が広ければ、天井も高い。
魔王にとっては他愛のない距離かもしれないが、小さな俺たちには相当長く感じる。
城内を歩くこと10分弱。
俺たちは闘技場の控え室へと辿り着いた。
「ここがお前たちの控え室だ。好きに使うといい」
それだけ言い残すと魔王は呪文を唱えて姿を消す。
それと同時にゼノも何も言わずに姿を消した。
「とりあえず中に入るぞ」
俺は控え室の扉を開く。
開きたかったのだがびくともしなかった。
「ちょっと何をしてるのよ……」
ふざけているわけではないが、この状況に黙り込んでいたミリスが呆れたように声をあげた。
いや、この扉でかいし重いから俺の力では開かないんだよ……
扉くらいは開けておくか、自動ドアにしておけよ。
そんな技術なんてないだろうけど魔法ならどうにかなるだろ!
「──うむ、これは1人でどうにかなる重さではないな」
「はぁ……ならみんなで押すよ」
「はい。それではせーの!」
リリィの声に合わせて7人で扉を押す。
ギギギィと重たい音をたてながら、どうにか入れるくらいの隙間ができた。
ムダに疲れてしまったじゃないか……
それでも少しは空気がよくなっているからまあ怪我の功名ということにしておこう。
そして俺たちは控え室に入り、それぞれ椅子に座る。
「じゃあ全てを説明してもらいましょうか」
そう睨むように俺を見てくるミリスのひとことで、決戦前のミーティングが開始された。




