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RPG~召喚から始まる魔王討伐~  作者: 柊雪葵
第3章 魔王城への道
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12

「さて、大見得をきったはいいものの……」



 これといった策を持っているわけではなかった。

 一番確率の高い策はある。

 しかしどうしてもそれを実行する気にはなれない。



「甘ったれてるな……ホント」



 そう一言。

 もしかしたら最期の言葉になるかもしれない一言を漏らして早速行動を開始する。



 エスシュリー(仮)を操作して取り出したのはガムテープ。

 どうしてこんなものをRPGに持ち込んだのか今の俺には思いだせなかったが、使える物はなんでも使っておこう。



 リリィ、すまないな。

 そう心で思いながら、まだ動き出さないリリィを仰向けにして口をふさぐ。



 誤って鼻までふさごうとしてしまったが、これなら息はできるだろう。



 そして1ユーレの距離を取り、左手が刀に触れたところでリリィの目が開き起き上がった。



「──っ!」



 口をふさいだところでリリィが魔法を使えるのは分かっている。

 そして彼女の傾向からして真っ先に放つのはギルフレイン。

 その軌道は承知しているつもりだったが、予想以上に間一髪だった。



 しかしその魔法の熱でリリィに貼ったガムテープはあっさり溶けてしまっている。

 なんであれで本人は火傷しないんだよ……

 そんなことを思うが、今は考えている場合ではない。



 俺は止まることなく右回りに足を進ませる。

 その時リリィの身体に異変が起こった。



「──うああああああああ!」



 なぜかは分からないがリリィが悶えながら奇声をあげる。

 魔法を放ってくる様子はないし、ついには背後に回り込んでも俺を気にする様子もない。



 その刹那──

 リリィの身体が縮み始めた。



 そこでようやくこの異変の原因に気付く。

 これは願ってない好機だった。



「リリィ、悪い」



 リリィが行動を開始する前に、昔の──出会ったばかりの頃のロリ姿になった彼女に後ろから抱き付く。



 大人リリィだと分の悪い賭けになるところだが、腕力も低下したロリリリィなら俺の力でも充分動きを止めることができる。

 これでワーティを使われたとしても俺が引き離される事はない。



「…………マスター、殺してください」



 身動きを封じられたリリィから聞きたくなかった言葉が発せられた。



「そうあっさりと殺せるならとっくに殺してるよ」



「でも、もう身体の制御が聞かなくて……」



「大丈夫だ。俺がどうにかしてみせるから」



 涙を流し、必死に精神支配から抵抗しているリリィの頭を撫でる。

 一番確率の高い策──動き出す前にリリィを殺してしまうという選択肢はとうの昔に捨てているんだ。



 それならば確率が低かろうが、リリィにかかった精神支配を解くしかない。



 こういう魔法は術士を殺せばその効力は失われる。

 だからこそゼノは「止めてくれ」と俺に言ったのだろう。



 そしてリリィの身体が一瞬弛緩する。

 それと同時に背中に衝撃が走った。



「馬鹿野郎、少しいてぇよ」



 リリィの魔法攻撃を背中に受けながらそう愚痴を漏らす。

 今のリリィに俺の言葉が通じることはなく、魔法による連撃が背中に突き刺さり続ける。

 そんなことは分かっていた。



 今はただゼノと月詠のローブを信じて耐えるだけだ。



「──えっ!?」



 今度は強い衝撃が胸に走る。

 魔法ではない、物理的な攻撃。

 喧嘩殺法──胸への逆方向への頭突きはさすがに予想外過ぎた。



「──殺す!」



 一瞬だけ緩めてしまった腕からするりと抜け出したリリィは短剣を抜き襲いかかってくる。



 魔法が効かないなら物理的に攻める。

 やっぱり戦い慣れているやつの柔軟性は違うな。

 でも──



篩水(しすい)流抜刀術二乃型──時雨(しぐれ)!」



 剣術では負けるわけにいかない。

 こちらには殺せないというハンデはあるが、リリィは誓約によって弱体化している。



 剣さえ防ぎきれれば、ローブさえ傷付かなければそれでいい。



「二乃型──逆さ時雨!」



 短剣特有の鋭い攻撃をリーチの長さを活かしていなし続ける。

 少しは休ませて欲しいもんだが、そういうわけにはいかないようだ。



「──ギルフレイン!」



「四乃型──天泣(てんきゅう)!」



 左手のみで放たれた火の玉を長い黒刀で振り払う。

 そしてその死角から間合いに進入してきたリリィを短い黒刀で受け止めた。



「──ギルフレイン!」



 リリィは反動を利用して間合いの外へ逃げて行きながらもう一度呪文を放つ。



「一乃型!」



 目まぐるしいリリィの攻撃に対して、ついに3本目の刀を右手で抜く。



 実践するのは初めてだが、こっちの刀には反射効果があったはず。

 もう、一か八かの賭けだった。



 ──そしてそれに勝利した。



 弾き返された火の玉は宙に浮いたリリィへ命中する。

 それ自体は大したダメージにならないだろうが、逆にリリィに隙ができた。



 右手。

 そして左手の小指の力を抜き、刀を2本地面に落とす。



 ここから先はスピード勝負。

 必要なのは長い黒刀1本のみ。

 右足で地面を強く蹴り、刀を鞘に収めながらリリィの元へ駆け寄る。



「五乃型──秋霖(しゅうりん)!」



 峰を身体に這わせる一撃。

 長い間痛みの残るその峰打ちはこの場面では有効な攻撃だった。



 リリィの身体がくの字に折れ曲がり、吐血が宙に舞う。

 意識は保てているようだが、地面に叩きつけられた身体が起き上がることはない。



 後は一刻も早くゼノが術士を倒してくれるのを待つだけ。



 ──ああ、ヤバい。

 強がってはいたけど、意識が朦朧としてきた。

 ロリリリィの弱体化した魔法であっても蓄積されたダメージは相当辛ぇよ……



「──まったく……よくやったと誉めるべきか、情けないと言うべきか。まあ、今はゆっくり休めよ」



 真っ白くなっていく視界の中でゼノの声が聞こえてくる。

 よかった。

 無事に終わったんだ。



 そう安堵した瞬間──俺の意識の糸が切れた。

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