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「なんということじゃ!」
城に帰り報告をしたところでクソロリコン国王が高らかに唾を飛ばした。
汚いからやめてほしい。
「魔王を倒せなかったらこの世界の人類が滅んでしまうではないか!」
うるせぇな、グチグチ文句言うならお前が魔王倒しに行けよ。
「それで、召喚士よ勝てる見込みはあるのかの?」
「さぁな、やってみないことには分からねぇし、1年の間に勇者が現れることを祈っとけばいいんじゃねぇのか」
「……全く以て良くはないが、かといって儂にはどうすることもできん。こうなったらお主のイレギュラーに賭けてみるしかないの」
はい出た他力本願。
もうこんな世界魔王が支配した方がましなんじゃね?
「マスター、頑張りましょう! 私がついています」
そして最後に癒し。
賢者ちゃんがそういうなら少しは頑張ろうかなという気になる。
「それじゃ時間もないし俺らは魔王を元の場所に戻したらこの街を出るわ」
「待つのじゃ! 魔王を逃がしてはならん!」
クソロリコン国王の声に応じて兵士が俺らを取り囲む。
こんな雑兵賢者ちゃんなら一瞬で消し去れるのだろうが、モンスターを相手にするのとは違い抵抗があるだろう。
それなら、
「召喚!」
「今度はなんじゃクソガキ。私は早く城に帰りたいのだが」
「こいつらが邪魔でお前のところに行けないんだよクソ魔王」
「ふむ、こいつらを皆殺しにすれば良いのだな」
そして魔王は両手を上に掲げる。
「わ、わかった! お、お主の好きなようにしてよい! だからそいつを止めてくれ!」
クソロリコンチキン国王は兵を引いた。
「解除」
魔王は「つまらんの」と言い残して牢へと戻る。
その魔王を解放するため俺らも牢へと向かった。
「それで条件の確認だ。1年の間は魔王軍からこちらに攻め入ることはしない。それを破る魔物に遭遇したときはお前を容赦なく呼び出す。それでいいか?」
「ああ、構わないぞ。私も魔王とは言え王だ。その条件を必ず守ると約束しよう」
「わかった。それでは今度会うときは戦場で。さらばだ魔王……解除!」
「これでよかったのでしょうか?」
「ああ、いいんじゃないのか?」
決して良いわけではない投げやりな回答にも賢者ちゃんは笑顔を崩さなかった。
「まあ、後一年もありますからそれまでにどうにかしましょう!」
「そうだな。まずはこの街を出るぞ。次の街までどれくらいかかるか分かる?」
「──1秒です」
「……1秒か。魔法すげぇな」
野宿をしないでいいように効率良く次の街を目指そうと思っていたが、そんな必要は端からなかったようだ。
「あ、歩いて冒険に出るなら4時間弱といったところです」
「時間的に微妙だな。ま、日暮れまでに間に合わなかったら賢者ちゃんの魔法にお任せってことでいいか?」
「はい!」
そう元気に応えると賢者ちゃんは手を握ってくる。
しかも恋人繋ぎ。
「……あの、嫌でしたか?」
何とも言えないその状況に戸惑っていると、次は上目遣いで追い討ちをかけてくる。
「嫌じゃないが、動きにくくないか?」
「お互いに口頭で戦闘ができるから問題はありません」
「まあ、賢者ちゃんがそれでいいなら」
「あっ、そうです! 私の名前はリリィ・エフ・シュリーンギアです。賢者ちゃんではなく気軽にリリィとお呼びください」
「ああ、分かったよ」
名前を呼ばなかったからかリリィは唇を尖らせている。
表情に出やすく、分かりやすい性格なのは御しやすいところであるが、少し面倒なやつかもしれない。
「──ほら、行くぞ、リリィ!」
「は、はい!」
そして俺たちの1年という期限付きの冒険がスタートした。
等とかっこ良く言っては見たものの世の中はそう上手くは進まないものである。
あれから30分後、俺たちはこの街どころか、王宮からも出られていなかった。
「待たせたの召喚士よ。ほれ、これは儂からの餞別じゃ」
そういうのも門を出ようとしたところで爺さんに呼び止められたからである。
わざわざ呼び止めてまで渡したかったものはどうみても使い古されたローブ。
初期装備のローブよりも役に立ちそうには見えない。
「これは月詠のローブですね。こんなレアアイテムにこんなところで出会えるなんて思ってもいませんでした!」
しかし、賢者ちゃん──いや、リリィはそのボロボロのローブに目を輝かしている。
見かけによらず、すごい物なのかもしれない。
「説明、お願いできるか?」
「はい! これは月詠のローブというアイテムです。装備すると全魔法属性に対する防御力の上昇と、状態異常無効化の効果を得られます。術士の防具としては最高クラスの一品です」
いや、本当に凄かったらしい。
なんか役に立たなそうと思ってしまって申し訳ない気分になる。
「これは儂が冒険に出ていた頃に使っていた物じゃ。使わんにしても売ればそれなりの金になる。好きに使うがよい」
「ああ、大事に使わせてもらう」
「それにしてもお主も変わったの……初めて会ったときは礼儀正しいやつだと思っていたのじゃが、そうでもなかったか。まあよい、気をつけて旅に出るがよい」
爺さんに見送られてようやく王宮を後にする。
そういえばいつのまにか敬語を使うのを忘れていたが、まあ、もう気にすることもないだろう。