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RPG~召喚から始まる魔王討伐~  作者: 柊雪葵
第3章 魔王城への道
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10

 雲を突き抜けるまでわずか10分足らずの時間とはいえ、叩きつけるような雨は俺たちの体温を徐々に奪っていく。



 リリィよりも力の弱いサシャは、振り落とされてしまわぬようにと俺の腕の中にすっぽりと収まっている。



 なるべく彼女が濡れないようにとローブを傘代わりにしているが、それでも身体越しに震えが伝わってきた。

 もしかしたらそれは高さと速さへの恐怖なのかもしれないが、今はそれを確かめる術もない。



 その時ライドラの上昇が少し緩やかになった。



 目の前には濃い灰色が迫ってきている。

 どうやらここで雨とは決別のようだ。



「ライドラ大丈夫か?」



 晴れ渡る空の下でまずはライドラに声をかける。



 ライドラは問いにただ頷いて返す。

 酸素濃度の低くなったこの場所ではなるべく喋ることすらしたくないようだ。



「サシャは?」



「…………平気……」



 普段はあの魔女帽子の下に隠れている長い髪を揺らして俺の方を見るとそう一言だけ返してきた。



 至近距離でのその仕草に思わず顔を背けてしまう。

 そこから先に残るものは罪悪感。

 気の利いた言葉の1つも出てこない自分に呆れながらも、目的地を探す。



 地上では降りしきる雨に遮られて見ることができなかったそこは、今はっきりと姿を現した。



「──なるほど。あれがそのモンスターか……」



 ライドラが吐き捨てる様にそう呟く。



 俺の目ではまだクセフィロの姿を捉えることができない。

 距離にして500ユーレ程度。

 ライドラが気付いているなら、相手が気付いていてもおかしくはない。



 俺はエスシュリー(仮)を操作し、いつでもゼノを呼び出せる用意を整える。



 それと同時にリリィへメッセージを送った。



「エクシュルードに近付いたら俺は飛び降りる。ライドラはサシャを乗せたまま上で待機していてくれ」



「うむ。──少しスピードを上げるぞ。しっかり捕まっていろ」



 力強い羽ばたき。

 頂上がだんだん近づいてくる。



 そして地面すれすれの位置を通過する尻尾まで身体を運ぶと、意を決してジャンプした。



 もちろん反動に耐えきれなかった身体は制御を失い、叩きつけられるように地面を転がる。

 痛みをともないながら回る視界にはクセフィロの攻撃をギリギリ回避するライドラの姿が映った。



「召喚……」



 気を抜くと意識が落ちてしまいそうな中、ツヴァイスを飛び立った直後に解除してあったゼノを召喚する。



「──まったく、何をやってんだか……」



 その憎まれ口も今は頼もしい。



 視界が真っ白になっていく中で最後に見たものはクセフィロへ向かっていくゼノの姿だった──



 ってあれ?

 痛みが消えた……



 空を見上げると呪文詠唱の弊害からか、ライドラから落ちてしまい拾い直されているサシャがいた。



 あいつ……

 いや、今はそんな感傷に浸っている場合じゃないな。



 立ち上がると拳を握り、足を軽く動かす。

 よし問題はない。

 ゼノの邪魔にならない程度に俺も戦うとしますか。



 そんなことを考えながらも俺が取った行動は岩陰に身を潜める事だった。



 なぜなら様子がおかしい。

 ゼノが明らかに苦戦している。

 かといってすぐに助けに入らないといけないような劣勢でもない。



 均衡状態。

 ゼノの攻撃がクセフィロに効かない。

 その反対もまた然り。



「あいつどうなっているんだよ……」



 クセフィロは龍の様な姿をしている。

 ライドラのようなドラゴンではなく、十二支に出てくる辰。

 その細長い身体がゼノに攻撃される度、まるで雲を斬ったかの様に霧散し再生される。



 待て……

 いや、それならば。



 1つの可能性を鑑みて俺は岩陰から飛び出す。

 背後は取れた。

 後はきっちり当てるだけ──



篩水(しすい)流抜刀術──雷鳴(らいめい)!」



 左手で放つ一閃。

 刀が描く軌道は一乃型──通常の抜刀と変わらない。

 しかしここRPGならではの技に昇華させることは可能だった。



 奥義を含めて7つの型を持つ篩水流。

 その8番目は魔石を使用した雷属性の力を持つ攻撃だ。



「──召喚士! ボケッとするな!」



 振り抜いた刀身と交錯するようにクセフィロの攻撃が迫っていた。



 あっ、やべ……

 これは避けられねぇわ……



「──汝、我を、我が友を守る盾となれ──バリードシーク!」



 その時俺の窮地を救ったのは聞き覚えのある声だった。



 ブロンドの長い髪に、エルフ特有の長い耳。

 杖を構えることなくその両の手からいくつもの呪文を繰り出す天才賢者さんの登場だ。



「5分です。──どうやら窮地の様ですね」



「ああ、攻撃がほぼ通用しなくてな」



「何か糸口は?」



「──掴めている」



 いつの間にか傍に来ていたゼノが頼もしい一言を告げる。

 やはりあれで正解だったみたいだ。



「おいエルフ、20秒でいいから時間を稼いでくれ」



「分かりました──」



 リリィがクセフィロに向かって飛び出す。

 俺がすべき事はただ1つ。



「ゼノ頼んだ」



「ああ、任せとけ」



 ゼノは俺の刀を抜き取る。

 腰が抜けて動けない役立たずな俺よりも、あいつならうまくやってくれるだろう。



「──ギルフレイン!」



 リリィが牽制をするように炎を放つ。

 しかしそれはじゅわっと音をたてて消された。



 しかし図らずもそれが最善の状況を作り出していた。



「──これで終わりだ」



 クセフィロが高速で再生しきる前に、ゼノの一撃が炸裂する。



 狙いは身体の奥に隠れていたコアのようなもの。

 それを壊されたクセフィロは霧散するように姿を消した。



 そして眼下を覆っていた厚い雨雲がなくなっていく。



「倒せたみたいですね」



「ああ、そうだな」



 エスシュリー(仮)に届いた緊急クエスト達成の文字を見て勝利を実感する。

 やはりあの雨雲そのものがクセフィロの本体だったようだ。



「……召喚士」



「分かった、サシャ降りてきてくれ」



 上空から山の上へと降りてきたライドラは限界寸前みたいだ。

 リリィの手助けを借りて、サシャが降りたことを確認するとライドラを指定し「解除」と言葉を発する。



「──あの、マスター大丈夫ですか!?」



「腰が抜けてるけど何とか無事だ」



「エルフが急に現れた時は驚いたが、召喚士はまだまだ修行不足だな」



 ライドラから飛び降りることもままならず、敵の攻撃を前に腰を抜かしているんだからそう言われても仕方がない。

 むしろこのままではいけない。

 もう少し特訓の強度をあげなければ……

 そう心に誓った。



 そして討伐報酬が特にない緊急クエストは無事に終幕する。

 いやその後に問題が発生したのだが、まあそれは今となればどうでも良いような話だろう。

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