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そして翌朝。
俺は力を回復した賢者ちゃんと共に街を出た。
本来ならば後1日は休ませてあげたいところなのだが、どこぞのアホ魔王が早くしろとうるさい。
まったく、王なのであればもう少しどっしりと構えていて欲しいものだ。
「ま、マスター、装備は初期のままでよかったんですか?」
「えっ、あー、お金がないからね」
「それならこれが終わって街に戻ったら一緒に買い物に行きましょう!」
そう無邪気に言いつつ腕を組んでくる。
いつ魔物と遭遇するか分からない状況であっても、彼女の存在は頼もしかった。
「それで、魔物の巣窟まではどれくらいかかるんだ?」
「歩いて10分くらいですね。元々は小さな街だったところなんですが、魔物の襲来を受けて滅んでしまった場所なんです」
「まあ、歩いて10分なんて宛にならないかもしれないけどな」
囲まれるまで気配を察知できなかったが、確実にモンスターに包囲されている。
「歩いて10分です。私とマスターのデートを邪魔する魔物には全て消えてもらいますから」
賢者ちゃんは笑いながら左手を天高く掲げる。
これは、あれだ、そうヤンデレとか言うやつだろう。
もしかしたら俺は厄介なものを召喚してしまったのかもしれない。
まあ、可愛いからいいけど。
「──焼き尽くさん、ギルガフレイヤ!」
上空に向かい無数の火の玉が放たれる。
それはそれぞれに意思があるかのようにモンスターを追尾して焼き尽くす。
「さあ、そろそろですね」
そう彼女が言うと同時に鉄の雨が降り注ぐ。
そしてブレスレットに吸い込まれるようにして消えた。
「今のは何?」
「今のは鉄鉱鳥が落とすアイテムの鉄鉱石ですね。街では鉄鉱石が不足しているので露店で売ると高値で売れます。ただ、熱の属性を持つ呪文を使わなければ手に入りませんけどね」
なんというか手慣れている。
てか、鉄鉱石も熱したら一緒に溶けて液化しそうなのだが、そこのところはどうなっているのだろうか?
この世界はよく分からないな。
「そういえば聞いていなかったけど、賢者ちゃんってどのくらいのレベルなんだ?」
「私は1800レベルくらいですよ。そのほとんどを攻撃魔法と防御魔法にふっているので体力とか筋力には自信ないですけどね」
お、おう。
基準が分からないから何とも言えないが、二面羊を倒せるようになるのでも30レベルいるとか言っていたのも意外と楽なんじゃないのか?
まあ、基準にはならないだろうが気になることもあるしあいつでも呼んでみよう。
「召喚!」
「おい、クソガキ! 着いたのか?」
「いやまだ。そんなことよりお前に質問だ。魔王のレベルってどれくらいなんだ?」
「私のレベルは70000くらいだな」
魔王強い。
流石に強い。
「そうか、お前本当に強いんだな……」
「そうだ、少しは敬う気になったかクソガキ」
「いや、全然。それよりそろそろ目的地に着くけど散歩する?」
「えっ、いいのか!? ずっと牢に入れられていたから運動がしたかった! 召喚士も意外といいやつだな」
魔王は子どもみたいに喜んでいる。
いや、お前を拘束してるのは俺だから。
こいつ強いけど意外とノータリンだな。
「ああ、色々と聞きたいこともあったからな」
「そうか! 何が聞きたい?」
「何故お前たちは人間を襲うんだ?」
「それはお前たち人間と同じだ。人間は資源を確保するために我々魔物を襲う。それと同様に食料を確保するために我々は人間を襲うんだ」
うん、なんか俺の中の魔族のイメージが崩れ去ったな。
この世界を征服するためとか答えるんだろうと思っていたが、まさか生活のためとは……
これ、討伐するまでもなく話し合いで解決するんじゃね?
「なら今の関係って話し合いで解決できるんじゃないか?」
「それは無理だな。私は穏健派でむやみに人間たちを襲おうとはしないが、魔族の中には人間を憎むものもいる。そこで私が話し合いで友好などを結ぼうものなら、力によって均整を保っている魔物の掟が崩れてしまうだろう」
ふむ、中々に問題は根深いものである。
それにしてもやっぱり魔王はいいやつだな。
「なら魔王を力で屈服させて、仕方なく友好関係を結ばないといけなくするしかないな」
「私に勝てるというならばそれでもいいであろう。しかし私は手加減はせぬぞ」
そんな話をしていると件の荒廃した街に着いた。
「ま、魔王様!? わざわざこのようなところに一体どのような用でしょうか!」
「ここの代表者に話があって来た! 早々にここまで来るように伝えい!」
「か、かしこまりました!」
雑兵Aは魔王に歯向かえることもなく、その指示に従い奥へ引っ込んでいった。
さあ、ここからは魔王がどのように説得を繰り広げるか見物である。
「なあ、召喚士よ」
「どうした?」
「さっき言った私の討伐は半年あれば可能か?」
「半年か……せめて1年は欲しいな」
「うむ、わかった」
「魔王様、お待たせしました! 本日はお出迎えも出来ず申し訳ありません!」
慌てて街の中から出てきたあまり強そうではない魔族の男は土下座をしている。
本当にこいつ魔王なんだよな。
うん。
「急な来訪だ。別に構わん。それよりもお主を我が軍に迎えたいと思って今日は尋ねた。話によれば数千の軍勢を指揮できるそうではないか。どうだ、我軍門に降らんか?」
「は、はい! 慎んでお受けさせていただきます! ところで失礼ですが、どうして急にそのようなことを」
「先日、人間どもからふざけた書状が届いた。勇者が現れたから1年以内に私を討伐しに行くなんて腑抜けたことをぬかしよる。力の差を見せつけてやらねば気がすまぬからな。それで、圧倒的な戦力を整えて出迎えようと思い立ったのだ」
「……人間の分際で! 今すぐ滅ぼしてやりましょう!」
「それはならん! 勇者と対峙するのは魔王の宿命じゃ。さればこそ、この決着はその時に決めるのが筋であろう!」
「は、はい! 仰る通りでございます!」
「お主も軍勢を堅め、優秀なものを連れて魔王城まで来るがよい。それでは私は失礼する」
その言葉に合わせて俺は小さく「解除!」と囁く。
そしてあわただしく魔王城へ向かう準備を始めた魔物に見つからないように帰路に着いた。