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RPG~召喚から始まる魔王討伐~  作者: 柊雪葵
第2章 雪山の黒龍編
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 翌朝、新たなメンバーも増えたことだからと、俺は珍しくゼノやリリィについていくことにした。



 しかしその判断は間違いだったことに気付くまでに時間はかからなかった。

 事の発端はアクルセイドの言ったこの一言だ。



「そういえば召喚士殿の名は七助(しちすけ)でよろしかったかな?」



「アクルセイド、こいつは元の世界の記憶がないみたいだからそれが正解かどうかも覚えていないみたいよ」



「そうであったか……」



「お前はまたそんな嘘をついているのか……記憶あるんだろ?」



「えっ、そうなの!?」



「私たちは元の世界での名前が嫌いだから名乗りたくないと聞いていましたので、恐らくそうだと思います」



 嘘はいずれバレるものである。

 身から出た錆といえばそれまでなんだが、こうも一斉に説明を求める視線が集まるのは心地よいものではない。



 さて、そろそろまともな説明をしないといけない頃合いか……



「ミリスに言った記憶がどうこうっていうのは嘘だ。元の世界の記憶はある。こっちに来てから1度戻ったくらいだからな」



「ならなんでそんな嘘をついていたのよ……」



「リリィが説明した通りだな。名前を追求されたくなかったからだよ」



「ふむ、そんなに七助という名は嫌なものだろうか?」



 うん、やっぱりここも説明しておかないといけないよな……

 口に出すわけにはいかないが、ホントに面倒だ。



「七助っていうのは本当の名前じゃない。俺の師匠──卓朗(たくろう)の親父にあたる人なんだが、その人が未熟なお前は七助で充分だって、そう呼んでいたからあいつが本名だと勘違いしていただけだろうな」



「それは真実でいいのかしら?」



「ああ。紛れもない真実だ」



「それで召喚士の本名は結局何なんだ?」



 ゼノさんや……

 それを聞きますか普通。



 正直な話をすると、名前に関しては俺の自意識過剰だ。

 元の世界でならともかく、RPGでは至って普通の名前だと思う。

 それでも、いやこの世界だからこそあの名前が持つ意味はいやがおうにも俺の心を縛るんだよな……



「言わなきゃダメか?」



「言わなくてもいいが、お前は色々と嘘をつきすぎてるからな。さっきの言葉を俺は信用しないとだけは言っておこう」



「はあ……三厳(みつよし)──柳生(やぎゅう)三厳だ」



「普通の名前だな……」



「何が嫌なのか某には分からない」



「確かにそうね……」



 やはりこちらの世界では意味が伝わらないのであろう。

 ゼノ、アーク、ミリスと三者三様にクエスチョンマークを浮かべている。



 そんな中、意味を理解できたやつが1人いた。



「なるほどでござる。柳生十兵衛(じゅうべえ)でござるか」



「さすがにお前は分かるか、半蔵(はんぞう)



「は、せ、拙者は正成(まさなり)でござる!」



 正成、挙動不審過ぎるぞ。

 それじゃ正解だと言っているようなものだ。



「柳生十兵衛とは何でしょうか?」



「とある世界で活躍した剣豪の名前でござる。その幼名は七助。そのことが召喚士殿は嫌だったということでござる」



「確かに名前負けしてるからな」



「私は格好いいと思いますよ!」



「うむ、有名な剣豪の名前と同じとはいいことではないか」



 ならお前たちは!

 何て言ったところでこいつらは別に困りはしないんだろうな。



 やっぱり俺の考えすぎだったんだろうか?



 いや、そんなはずはない。

 ああ、嫌な記憶が……



「──ねぇねぇ、みんなで何の話をしてるの?」



「…………」



 クソ!

 エリスとサシャまで来やがった……



 これあれだよな。

 もう一度同じ説明をされなきゃいけないやつだよな。



「俺ライドラのところに行ってくるわ……」



「お、逃げるのか?」



「逃げさせてください」



「ならお送りしますね」



 リリィが苦笑いを浮かべながらワーティを唱える。



 瞳を開くと、そこは既に雪山の火口部だった。



「曲者! ここは俺たちの縄張りだ!」



 そしていきなり威嚇されている。



 必死に威嚇しているところ悪いが、迫力もないしまったく怖くないな……



「おい! それ以上近づいたら──」



 とりあえず可愛かったのでライドラJr.の頭を撫でてみる。

 ものすごく嫌がられた。



「おい! 止めろ! 噛み殺すぞ!」



「俺を食べても美味しくないぞ?」



「……何なんだよこいつは」



「召喚士っていうものだ」



「本名は三厳さんですけどね」



「リリィ?」



「何でもありません」



 まったく……リリィまでか。

 ホントにこいつはたちが悪いわ……



 そしてその時後ろから軽い地響きとともに足音が聞こえてきた。



 ライドラが帰ってきたことに気付いたJr.はその瞳を輝かせている。



「お前らなんか親父にかかれば瞬殺なんだからな!」



「おい親父! 子どもの躾くらいきっちりしておけよ」



「お前から親父と呼ばれる筋合いはない。それでレイドラが何かしたのか?」



「お前に似て口が悪い」



「それは愛嬌だとでも思ってくれ」



「仕方ないな……」



「──な、何でだ……お前は親父と知り合いなのか?」



 親が戻ってきて形勢逆転と思っていたライドラJr.ことレイドラの希望は儚く散ってしまったようだ。

 南無三南無三。



「俺の──関係は分からんが同盟者の召喚士と、そのお供だ」



「……あの、えっと……」



「今日はライドラに話があってきただけだから気にするな」



「──それで話とは何だ?」



「進捗状況について聞きたくてな」



「後2日もしない内にこいつも1人で飛べるようになるだろう」



「こんなに小さいのにもう飛べるようになるんだな……」



 レイドラを見て思わずそう口にする。



 体長が5メートルほどあるライドラとは違い、レイドラは生まれたばかりということもあってかまだ40センチメートルほどの大きさしかない。



 ライドラは独り立ちできると言っているが、その真偽は甚だ疑問だ。



「お、親父……どこか言っちゃうのか?」



「そうだ。日が高いうちはこいつらと一緒に冒険に出ることになっている」



「そんなの嫌だ!」



「何時間か一緒にいれないだけで男が泣くもんじゃない!」



「でも……でも……」



「──私たち悪者みたいですね」



「みたいじゃなくて悪者だな」



 ライドラと一緒にいたいとごねるレイドラの気持ちが分からないほど俺も冷血ではない。



 それでも──



「レイドラ。俺はこいつらと一緒に魔王を倒しに行くんだ。これはとても誇らしいことなんだぞ」



「その魔王って強いの?」



「すごく強い。だからこそ俺も一緒にいかないといけない」



「分かった。おい、お前ら! 親父の足を引っ張るなよ!」



 何でそういうことになったのだろうか?

 それは分からないが、レイドラが納得してくれたんならもうそれでいいだろう。



「当たり前だろ。俺たちは強いからな」



 その俺たちに俺は含まれていない。

 自分で言ってて悲しくなるが、やっぱり強いのはリリィだけだからな……



「2日後には旅立てるように準備を整えておく。必要になったらいつでも呼んでくれ」



「分かった。それじゃ俺たちはもう帰るわ」



「ああ。ではまた明後日」



 ライドラとレイドラに見送られて雪山を後にする。

 これで準備は整った。

 ようやく本格的な魔王討伐の旅が始められるな。

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