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「よし、これで契約完了っと」
「はぁ……また召喚士の──」
「もうそのネタはいいよ……」
俺の知らない間に寄宿地となっていたツヴァイスの宿。
その一室の中にはライドラを除く全てのメンバーが集結していた。
さすがに8人の大所帯になると部屋が狭く感じるが、たかだか1ヶ月あまりでこれだけのメンバーが集まったと考えるとどこか感慨深いものがある。
8枠目ミリス、9枠目サシャ、10枠目アクルセイドと召喚のスロットも10枠埋まったしな。
「それで召喚士殿、これから先どのようにして進攻するおつもりかな?」
「しばらく……後3日くらいはリリィ指導の元で全員スキルアップを目指す感じかな」
「その後はどうするのよ?」
「それから先は俺がミュナー以降の道を切り開いて行くから、残りのメンバーにはリリィの移動魔法でその後を追うようにして各自強くなってほしい」
「某たちが集団になって進んでいた場所を1人で行くと申されるのか!?」
「…………ドラゴン……」
「サシャが言う通りこっちにはドラゴンのライドラがいる。地上を移動するよりも安全でそして早く移動ができるというわけだ」
「ドラゴンってあんた何を仲間にしてるのよ……」
「姉さん、ドラゴンはドラゴンだよ」
「いや、それは分かってるから!」
やっぱり人数が多くなってくるととても騒々しくなってくる。
ゼノなんかは賑やかなのが嫌いなのか、最初に喋って以来口を噤んでいる。
正成は相変わらずの空気。
リリィも気を遣っているのか声を出さない。
このまま俺も喋らなくてよくならないかな……
「リリィ、後のことはお前から説明をしていてくれ」
「はい。マスターはどこか行かれるんですか?」
「ああ。正成と少し出掛けてくる」
「お供するでござる」
「ああ、俺も行くわ」
今日は珍しくゼノがついてくるらしい。
やっぱり賑やかなのが嫌いなみたいだった。
「ゼノが来るなら正成はいいわ。ここに残ってくれ」
「それはあんまりでござる……」
「さすがにアークを1人残していくわけにもいかないだろ?」
「心遣いかたじけない」
「……御意でござる」
「んじゃゼノ行くぞ」
「はいはい」
そしてゼノと2人夜の町へと繰り出していく。
することはもちろん俺のスキルアップのための特訓だ。
「なあ、召喚士」
「なんだ?」
「7人集まったのはいいんだが、あのいかにも戦えなさそうな術士はどうにかならないのか?」
「サシャのことか? あいつなら回復専門の役割しか期待してないよ」
「随分悠長だな……」
「どちらにしろ俺が魔王を倒さないことには意味がないんだ。だから俺とリリィで2勝すると考えれば1敗なんて瑣末な問題だろ?」
「エルフはともかくお前が親父に勝てるならな」
「そのための特訓だろ?」
「そうだな。まあ死なない程度にしごいてやるよ」
ゼノが構える。
あの剣はホントにどこから出てきてるんだろうな?
なんて考えてる場合でもないか……
俺もエスシュリー(仮)を操作して右腰に龍鱗の剣を装備し、左手を添える。
冷たい夜風が頬をかすめたその刹那。
ゼノの姿が消えた。
「──っ!」
急加速によって懐に飛び込んできたゼノの攻撃を間一髪のところで受け流す。
しかしそれくらいで攻撃の手を緩めるような奴じゃねぇよな。
「……ちっ、後ろまでよんでやがったか」
一か八か後ろ向きに放った魔剣による雷属性の一撃はうまいこと牽制になった。
とはいえこのままだとジリ貧なのは明白なんだよな……
まあ死ぬわけではない。
ここは1つ新しい型を試させて貰おう。
足を開き深めに構える。
そして目を閉じた。
感覚を研ぎ澄まし、ゼノの稀薄な気配を辿る。
間合いまで後少し。
よし、今だ!
「篩水流抜刀術四乃型──天泣!」
──あっ……
「おい! アホ召喚士! 本気で殺りにくるバカがどこにいる!」
相手がゼノだったから助かったとでも言うべきか。
いや、そのゼノですらも完全に回避することはできず、左手から血を流している。
これは怒られても仕方がないやつだった。
「すまん。少し待っててくれ。──召喚!」
手合わせは1度中断。
サシャを呼び出して治療が先決だ。
「サシャ! 突然ですまないが、ゼノの傷を治してくれ」
「…………」
サシャはお決まりなのかコクリと頷き、ゼノの傷を治し始める。
そして数秒で傷を治すと俺の元へと戻ってきた。
「………………」
サシャは何を話すわけでもなく、ただ頭を突き出している。
これは頭を撫でろと言っているのだろうか?
「サシャありがとな」
とりあえず頭を撫でてみる。
どうやら満足してくれたみたいだ。
「──召喚士、イチャついてるところ悪いが続きを始めるぞ」
「ああ。──サシャ……は戻っていてくれるか?」
「…………」
コクリと頷いたのでサシャを解除する。
そして再びゼノと向き合う。
「そういえばさっきの技は何なんだ?」
「天泣か? あれは2本の刀を同時に抜刀する篩水流の高等技だ。1本目の影に隠れて2本目の軌道が見えないところから日照り雨の名をつけられた技だよ」
「なるほどな。通りで当たる直前まで分からなかったわけか……肝を冷やしたぜ」
「俺もあそこまでうまくいくとは思ってなかったしな……」
「まあいい。気を取り直して2戦目いくぞ!」
「おう!」
そうして俺の剣技を高めるための特訓はこの後も続いていった。




