10
「それで、ライドラを連れてきたのはよかったが、こいつどこに置いとけばいいんだろうな」
時刻はすでに14時を過ぎている。
帯に短し襷に長し。
まだ日が暮れるまでは時間があるが、冒険するには少し時間が足りない。
それゆえに発生した問題がこれである。
「あれだけ頭が良さそうだったのに、こういうところは抜けているんだな……」
返す言葉もありません。
さすがにこんな5メートルほどあるドラゴンを泊められる宿などはあるわけがないし、街に連れていこうものなら街人が混乱するのは必至。
捕獲のためと攻撃を受けて、ライドラが抵抗をしない保証もない。
「悪いな。俺はヒモで他力本願のダメダメ召喚士なんだ」
「召喚士、自虐が過ぎるぞ。俺は別に街の外で寝ようと問題はない。その結果草原が焼け野原にならないとは言い切れないけどな」
「ここからあの雪山まで飛んでいけばいいだけの話でござる」
「それは結界があるので無理ですね」
「ホントござるの人は何の役にもたたないですね」
「だから拙者は正成でござる!」
さて、正成のことは放置でいいとしても本当にライドラのことはどうにかしないといけない。
「いっそのこと王宮を占拠するか……」
「魔王討伐を目指す正義の味方の発言じゃねぇな……」
「でも確かに王宮ならばライドラさんの大きさであっても充分に入りますからね」
「賢者殿まで乗り気でござるか!?」
「あの王宮には怨みがある。占拠するなら力を貸そう」
「何か冗談じゃ済まなくなってるじゃん……ほら、みんな一度落ち着こう?」
「ならエリス。お前には何かいい案あるのかよ?」
「……ないけど。──やっぱりそれは良くないじゃん?」
「まあ、そうですね。そろそろ真面目にどうするか考えましょうか」
5人と1頭でしばらく考え込む。
うん、やっぱり違和感があるな。
ゼノは1人とカウントしてもいいものなのだろうか?
そもそも人の形をしていたら魔族であろうと1人と数えるのか?
てか魔族なんて日常で数えることないからな……
周りがおそらく真面目に考えているだろう時に、俺は1人どうでもいいことを考えていた。
「──そういえば今はもう使われていない、滅びた町があると聞いた覚えがあるでござる。建物がまだ残っているならば、そこはどうでござろうか?」
「あの町ですか……以前にマスターと訪れたことがありますが、モンスターの巣窟になっていてとても住めるような場所ではなかったですね」
「そうでござったか……」
「ならやっぱりどこかの町で事情を説明して入れてもらうとか?」
「いつ暴れだすかも分からないモンスターを素直に受け入れる町があんのか? それにこいつ図体がデカイから相当スペースが必要だぞ」
「……なあ、召喚士。こいつ口が悪すぎないか?」
「いつものことだから気にしないでくれ」
会議は踊る、されど進まず。
いっそのことライドラを移動アイテムとしてエスシュリー(仮)に収納できたら楽なんだがな。
ま、無理か。
「やっぱり王宮で部屋を借りるのが一番いいのかもしれないな」
「召喚士は簡単に言うけど、そんな都合よく借りられるわけがないじゃん」
「そうでござるよ」
「いつもの手段を使えば簡単だと思うけどな……」
「いつもどんな手段をつかってんだよ」
「基本的にマスターが国王を脅してますね。あの雪山に踏みいる際も結界を通るために──」
「ちょ、召喚士そんなことしてんの!?」
「ホント魔王討伐を目指す正義の味方のすることじゃねぇな……」
あれ、何かみんなから軽蔑されてね?
「リリィが脅すなんていうから誤解を受けるんだ。俺はただ交渉をしているだけだから」
虎の威を借りた一方的な交渉だけどな。
──はっ、それを世間一般では脅しているというのか!
まあ、相手はあのクソロリコンチキン国王だから気にしなくていいか。
「それで、その交渉とやらで部屋を借りられたとしてこいつが入っていけるだけの入り口はあんのか?」
ライドラを見る。
そして大きさを確かめるようにその周囲を1周する。
「このデカさじゃ無理だな」
「それでは意味がないでござる……」
「そもそも私の移動呪文や、マスターの召喚で中へ移動させればいいだけなのでは?」
正面突破で王宮に風穴を開けたいな。
なんてひっそり思っていた俺の野望はリリィの一言によって砕かれた。
まあ、実際にそんなことをしたら非難轟々だろうけどな。
「それもそうだな。なあライドラ。俺に召喚されるか。それともリリィの呪文で中に入るか。どっちがいい?」
「何か違いがあるのか?」
「違いはそうないけど、リリィがお前ごと他の場所に移動するか。それとも俺がその時いる場所にお前を呼ぶかの違いだな」
「ほう、つまりあの憎きレーグスを倒した後に召喚士の冒険に協力するとしても、俺はあの山で暮らし続けられるということか」
「まあ、召喚ならそうなるな」
「なら召喚できるようにしてくれ」
「はいよ。んじゃ──契約!」
「はぁ、これでまた召喚士様に絶対服従の奴隷が増えたのか……やっぱりお前冒険者よりもぺてん師の方が向いているな」
「おい召喚士! 絶対服従とは何のことだ!」
ホントゼノって一言余計だよな。
俺が言えた義理じゃないけどさ。
いや、俺の場合は大事な言葉が一言足りなくて、余計な言葉が一言多いから余計悪質なのか……
へこむわ……
「あの、ライドラさん落ち着いてください。確かにマスターの契約のスキルには、自分よりレベルの低いものを絶対服従させられる効果がありますが、それを悪いように使うことはありません」
「ライドラ悪いな。さっきのは冗談だ」
ゼノが言うと冗談に聞こえない。
ましてやゼノを仲間に引き入れた時の事を思うと、あいつ本気で言っててもおかしくないんだよな……
「まあそれならいい。召喚士は俺に命令することはないんだな?」
「基本はお願いしかしない。ただ命令することがあるとすれば仲間を傷付けることを禁止するくらいだな」
「そうか。それは仲間を率いる身としては当然心配すべきことだからな」
ライドラが納得してくれたところでそろそろ王宮へ乗り込むとしますか。
「リリィ、王宮へ行くぞ」
「はい!」
「──待ちなさい。ホントに脅してないか気になるから私も行くわ」
「拙者も王宮へ入ってみたいでござる!」
「ゼノはどうする?」
「誰か1人残ってた方がいいだろうし、ライドラと留守番しとくわ」
「そうか。それなら今度こそ王宮行くぞ」
「──到着です」
リリィのワーティによって即座に王宮前へと到着する。
後は雪山へ行く件もあってか、顔パス状態になっている門をくぐり抜けて玉座の間を目指す。
その道中、何故か俺らに頭を下げてくる衛兵に対しエリスが驚いていたり、正成が初めて入った王宮に目を輝かしたりしていた。
「国王に話があるんだが」
「はい。少々お待ちください」
玉座の間の前。
門番ならぬ扉番をしている衛兵に声をかける。
そのまま乗り込んでもよかったが、エリスの小言がうるさそうだしな。
「召喚士か。入るがよい」
「おう、爺さんありがとな」
「ちょっと、老師にむかってなんて口きいてんのよ!」
「こやつは構わんよ。それくらいのことは許されるくらいに期待されているからの」
爺さんはやっぱり心が広いよな。
あのクソロリコンチキン国王とは大違いだ。
「召喚士か。それで此度は何の用だ」
「宿泊先に困っていて大きな部屋を貸して欲しい」
「……部屋なら好きに使うといい」
「じゃあ大きい部屋1つとメンバー用に5部屋使わせてもらうな」
「待て! 全員で大きい部屋1つじゃないのか!?」
「ああ、大きい部屋は雪山から連れてきた黒龍用だから」
「………………」
国王は失神したのではないかと思うほどに青ざめていた。
伊達にチキンなだけはある。
「──黒龍とは、あの黒龍のことか!?」
「どの黒龍かは分からないが黒龍のことだ」
「暴れられたらどうするつもりじゃ!」
「ほら、そこは暴れないようにちゃんと躾をするし」
「その言葉信じていいのじゃな? 本当に信じていいのじゃな?」
クソロリコンチキン国王は今にも泣きそうな顔でそう訴えてくる。
これは同じことを2回言ってるから暴れさせた方がいいのだろうか?
「問題ありません。マスターはそういうことはきっちり守る人ですから」
「そうか。女賢者がそこまでいうならその言葉を信じよう。部屋を案内させるから好きに使うといい」
俺たちは部屋へと案内される。
そしてその後はライドラとゼノを召喚してライドラ以外は自由行動ということになった。




