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3人と合流後、鍛冶屋で武具を受け取って今日の冒険は終了した。
その後はまあ、だらっと飯を食って宿屋にチェックインを済ませたわけだが……
どうして今日も2部屋しか取れていないのだろうか?
まあ、答えは言うまでもなくこの街の宿屋事情が飽和状態だからなんだが。
「宿だけでも別の町で探した方がいいかもしれんな」
「そうですね。3つくらい先の町へいけばここより条件のいい宿はありますし明日からはそうしますか?」
「そうなるとやっぱり値ははりますよね?」
「そうですね。相場的にはこの街の3倍ほどはします」
エリスは質問の答えに表情を少し曇らせる。
この始まりの街での宿の相場は4,000キール。
その3倍となると1万キールを越えてくる。
少し身構えてしまうのも納得ができる金額だ。
「あっ、お金のことなら気にしなくていいですよ。5人分くらいなら私が全額負担しますから」
「俺は自分で稼げるからいい」
「拙者は忍ゆえ仮寓は必要ないでござる」
ゼノは間違いなく自分で払えるんだろうなと思う。
問題があるとすれば、どういう素材が高値で取引されるのか。
それを見極めるのに少し時間がかかるかもしれないということくらいだろう。
正成は……好きにさせとけばいいだろう。
ホントあいつの中の忍の概念については謎だが、本人がそれで構わないなら俺からは何も言うことはない。
「エリスもしばらくはリリィの世話になればいいんじゃないか」
「お前はもう少しそのヒモ体質をどうにかした方がいいと思うけどな……」
「今日はそれなりに働いたから」
ゼノの厳しいツッコミに対して俺はドヤ顔でそう答える。
ナルガシークの角はそこそこの値で売れるとリリィが言っていたから、きっちり16体分斬り取っている。
これでもうヒモだなんて言わせない。
「はいはい、偉い偉い。てか、気になっていたんだが、なんで召喚士はあれだけの剣捌きができるのにヒモになってるんだよ」
「いろいろあってな」
「マスターは優しすぎますから」
「ああ、そういうことか」
「どういうことでござるか?」
「ござるは気にしなくてもいいことだよ」
「だから拙者は正成でござる!」
ゼノと正成がいつものやり取りをやっている中、やっぱりエリスは浮かない顔をしたままだった。
もしかしてあれか。
こんなヒモ召喚士と同じ扱いを受けるのは嫌だとかそういうのか。
「──あの、リリィさん」
「はい」
「なるべく早く自分で払えるように強くなるので、それまではよろしくお願いします」
「はい!」
「……召喚士がヒモになった一端が理解できたわ」
エリスから頼られたリリィの笑顔。
それを見たゼノは呆れたようにつぶやいた。
「──そういえばずっと気になっていたことがあったんですけど、聞いてもいいですか?」
「誰に聞いてるんだよ……」
「あっ、召喚士さんです」
「何?」
「召喚士さんの名前聞いたことなかったなってふと思いまして……リリィさんはマスターと呼んでいますし、ゼノさんとござるの人も召喚士と呼んでいますし」
「だから正成でござる!」
「召喚士さんも正成という名前だったんですか!?」
どうしてそうなった。
いや、確かにござるがタイミングよく名前を名乗るもんだから、そういう風に聞こえなくもないが、明らかにおかしいだろ。
「実は名前を教えた人とは結婚しないといけないしきたりがあってな……」
「ダウト」
「嘘です」
「嘘ですね」
「嘘でござる」
なんでお前らこういうところだけ息が合うんだよ!
「はぁ……名前ねぇ。俺は元の世界での名前が大嫌いだったんだよ」
「そんな酷い名前だったのか?」
「ある意味な」
「そうでしたか。あの、すみませんでした」
「いや、気にしてないからいいよ」
あくまで名乗りたくないのは俺のエゴだ。
RPGでならばその名前が持つ意味も元の世界とは違ってくるのは分かっている。
それでもやっぱりあの名前だけは名乗りたくなかった。
「そんなことよりさ、俺から1つ提案してもいいか?」
「だから誰に言ってるんだよ……」
「全員。主にリリィとミリスにだが」
「はい」
「何でしょうか?」
「仲間だってのになんか他人行儀だから敬語禁止にしたいと思っている」
俺がこういうのにはもちろん理由がある。
他人行儀というのはあくまで建前。
本音を言うとお前らキャラが薄いんだよ!
せっかくこんな異世界に転送されるなんてレアな体験ができていて、その上アイテムがあれば元の世界に戻れるというのに。
こんなんじゃ元の世界に戻らないといけないときに、この体験談をラノベとかにしようにもキャラがたたないじゃないか!
「俺はどっちでもいい」
「拙者は──」
「あ、正成はそのままでいいから」
「よかったでござる」
「私は仲間でも歳上の方には敬意が必要だと思います」
「マスターの提案も分かりますが、私もエリスに同意です」
ふむ、そうきたか。
よし、この際だから聞きにくいことを聞いて白黒はっきりさせよう。
「じゃあ2人は歳上になら敬語使ってもいいよ」
「──それで誰が歳上でだけが下なんだ?」
よし、ゼノナイスアシスト!
「よし、みんな年齢言ってけ!」
「えっと、私は27」
「あっ、エリスと同じです」
「拙者は齢18でござる」
「俺は26だからリリィとミリスは敬語禁止な」
「15だ」
は?
最後おかしくね?
「えっと、ゼノさん──ゼノはそんなに若かったんですね──いえ、若いん……ん? あれなんと言えば?」
「そうよ。召喚士の26も怪しいものだけど、ゼノの15は明らかにおかしいじゃん!」
「おかしいも何もホントなんだが……」
「ゼノ、サバをよんじゃアカンよ」
「だからホントなんだよおおおおお」
ゼノが吠えた。
なんか新鮮だわ。
「えっと、マスター。あの、その……うまく喋れない」
そしてリリィはリリィで敬語を使わない喋り方に慣れていないのかすごく舌足らずになっている。
これはこれですごく可愛いが、不憫すぎるな。
「リリィはやっぱりいつも通り喋ってくれ」
「はい……」
「結局変わったの私だけじゃん! こっちの方が確かに素だけど、なんか解せない」
「ならエリスさんって俺たちが呼びましょうか?」
「それは嫌ああああ。ゼノにそう言われるとすごく気持ち悪いじゃんか」
確かにそれは一理ある。
なんというか、ゼノの敬語は敬意よりも馬鹿にしている感が全面にでている。
「エリスさんの方が一回り歳上ですし」
「もう嫌……部屋に帰る!」
女性には年齢の話をしてはいけない。
それは違う世界であっても同じなんだなって思いながら、エリスの背中を見送る。
「あの、私も戻りますね」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」
やっぱりリリィはこっちの方が落ち着くわ。
「拙者も見回りに行ってくるでござる」
「さっさといけ」
「酷いでござる……」
正成も夜のパトロールに出ていった。
一体何をしているのかは定かでないがな。
「俺らももう寝るか」
「そうだな」
そしてゼノはゼノで本当に15歳なのかは定かでないが、普段通りの喋り方が一番だったな。
そんなことを思いながら夜は更けていった。




