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「ところで防寒具ってどこで売っているのでしょうか?」
「えっ?」
「ここからミュナーまでの間は気候が変わることなんてありませんでしたからね。なので防寒具というものが売っているかどうかすら怪しいです」
パンナコッタ……
いや、なんてこった。
あの寒さでは防寒具ないと計画倒れにしかならんぞ。
「とりあえず街まで戻るぞ。やり残したことも1つあったし、計画の練り直しだ」
「はい──それで何をするんですか?」
気が付けば街の中心地。
慣れて感覚が麻痺してきているが、これは人をダメにするやつじゃないだろうか?
「エリスの強化を忘れてた。多分街を少し出たところくらいにいるはずだから一度合流するぞ」
「ならそこまでまた移動しますね──あっ、マスターいましたよ」
本当に人を──特に俺をダメにしている気がする。
冒険ってこんな簡単なものでいいんだっけな?
辛かったら辛かったで逃げ出したくなるんだろうけど、これはこれでどうなんだろうな。
そんなことより目的を果たすのが先か。
「召喚!」
エリスが敵と戦っていないタイミングを見計らって召喚する。
まさか俺たちがまだこんなところにいるとは思っていなかったのだろう。
エリスは鳩が豆鉄砲でなんちゃらだった。
「えっ、あれ? どうしてここにいるんですか?」
「準備不足で大絶賛撤退中だ」
「はあ……それで私はどうして呼び出されたんでしょう?」
「召喚で補助効果つけるの忘れてたからだな。これで俺が召喚を解除するまでは強くてニューゲームだから」
「?」
やっぱりエリスはアホな子だった。
なんというか、察しが悪い。
まあ、良かったら良かったで「察しのいいガキは──」みたいなことになるかもしれないからどっちがいいのかは分からないけどな。
「おい、もう下見は済んだのかよ」
「下見すら無理だった」
「は?」
「あまりに寒すぎて防寒具ないと死ぬ。だから今から防寒具探しに行くところだ」
「買いにじゃなくて探しにか。時間がかかりそうだな」
ここまで察しが良すぎるのもやっぱり嫌だな。
楽でいいんだけど、なんか心を見透かされている気がして気持ち悪い。
やっぱり人間たるもの適度が一番。
そもそもゼノは人間じゃねぇけどな。
「最悪特注で作れる人を探せばどうにかなるだろ」
「素材はどうすんだよ……」
「えっと、それはほら、リリィ?」
「ある程度ならあてはあります」
「結局賢者頼りか」
はい、なんでもかんでもリリィ頼みです。
なんだかんだ、なんだかんだ、なんだかんだ、賢者!
ってリズムに乗れそうなくらいにリリィ頼みです。
「そういうわけでしばらくいろんな街をぶらついてると思うから何かあったらエスシュリーに連絡入れてくれ」
「はいよ」
「それではマスター、まずは一番職人の多いミュナーまで行きましょうか」
「ああ、よろしく頼む」
「到着です。ひとまず贔屓にしている防具職人の元へ行きましょう」
3度目となるミュナーの町へ到着。
こういうのはやはり地の利に長けた仲間がいるととても楽に物事が運ぶ。
俺はその後ろをついていくだけと見せ場がないが、召喚士という職自体が他力本願なものだしこれで良いということにしておこう。
そうしないと役立たず過ぎて心が持ちそうにない。
「なんだい、賢者ちゃん。また来たのかい? 悪いけどさすがにこの早さじゃ頼まれた物はできないよ」
「今回はまた別の依頼です。寒さを凌げる防具が欲しいのですが作れますか?」
「寒さねぇ。寒さに強いモンスターの素材があるならそれを防具として形にするくらいはできるけど、あたしにできるのはそれくらいだよ」
「多分それで大丈夫だと思います。今から素材を集めにいくので、集まったらまた依頼しに来ますね」
リリィが防具職人のおばさんと話をつける。
あの温度を耐えるのにどんな素材が必要なのかはさっぱり分からないが、リリィにはやはりあてがあるようだ。
これで最悪の事態は免れただろう。
「あいよ。ところで賢者ちゃん。そっちの男はあんたの知り合いかい?」
「はい、私のマスターです」
「マスターって……こんな頼りにならなそうな男がかい? あんたもう少し男を見る目を養った方がいいよ」
おい、初対面の俺に対してすごく失礼過ぎはしないか?
そう思いはするが、言ってる言葉が的確すぎて──というか男を見る目がありすぎて返す言葉もないのが悔しい。
ぐぬぬ。
「確かに冒険に関しては初心者ですし、職業上前線に立って戦うわけでもありませんけど、マスターは頼りになる人です!」
あの、リリィさん。
フォローをしてるつもりでしょうが、意外とグサグサと心に刺さりますよ。
「まあ、あんたがそういうならいいんだけどね。でもせめて防具くらいはまともに揃えなよ。せっかくの月詠のローブは手入れがされてなくてボロボロだし、他は初期装備のままなんてナンセンスだよ」
「そ、それは……確かにそうですね」
「だろ? あんた職業は術師とかそんな感じなんだろう」
「えっ、はい。召喚士です」
「召喚士? そんな上級職なのにそんなちゃちな装備しかしてないのかい? ああ、もうこっちで仮の防具を見立てるから少し待ってな」
そういっておばさんは裏手に下がっていく。
思わず敬語で話してしまうほどに、姐さんという言葉の似合う人だな。
良い人なんだろうけど、こういう人は結構苦手だわ……
「ほら、これとこれとこれ。後は代えのローブ。さっさと装備しな」
渡されたのはローブの下に着る少し厚手のシャツと長ズボン。
そしてブーツに黒いローブ。
どういう装備なのか分からないが、言われるがままにエスシュリー(仮)を操作して装備を切り替える。
「少しは様になったじゃないか。ほら、月詠のローブをこっちに渡し。あんたらが素材を集めに行ってる間にちゃんと修繕してあげるから」
「あっ、はい。お願いします」
「代金はローブはリースにしたとしても15万キールといったところだけど、あんたがそんな大金持っているわけもないし出世払いでいいよ」
「あっ、私が払いますので」
「それは受け取れない! 一端の冒険者なら自分で稼がせて自分で払いに来ないとダメだね。あんたが甘やかしてたらこの召喚士はろくな冒険者にはなれないよ」
「ご厚意感謝します」
「ふん、分かったならさっさと行きな。あたしも暇じゃないんだ」
そして店から追い出される。
耳が痛い話をズバズバとされたが、それは俺が一人の冒険者として受け入れなければいけない話だ。
確かにいつまでもリリィにおんぶに抱っこというわけにもいかない。
だからこそ手持ちにあるリリィから預かっているキールを使うわけにもいかなかった。
それが俺のせめてものプライドだったのかもしれない。
「あの、マスター。私のせいで恥をかかせてしまい申し訳ありませんでした」
「いや、あれは言われて当然のことだし、リリィが気にすることじゃないよ。それにかなりリリィに甘えすぎていたからな」
「ですが──」
「はい、この話終了。ほら俺もキールを稼がないといけなくなったし、さっさと素材を集めに行くよ」
「……はい。それではナルガシークを討伐しに行きましょう」
ナルガシーク。
名前だけ聞いてもどんなモンスターか想像もつかない。
ただ分かるのは今の俺では戦闘の邪魔にしかならないということ。
少なくとも戦闘ができるようにあの問題だけは早く克服しないとな。
俺はそう心に強く誓った。




