31
「ここならよさそうね」
「周りなんて気にしなくともお前ごとき瞬殺だ」
「言ってくれるじゃない!」
ミュナーの町郊外。
人気のないその場所でミリスのプライドをかけた戦いの火蓋が切られようとしていた。
てか、なんで俺まで連れ出されないといけないんだ……
「リリィ! 合図を出して」
「分かりました。それでは──始め!」
リリィの出したスタートの合図と共にミリスが防御陣を形成する。
その姿は巨大な盾と槍を構えた騎士のようだ。
いや、そういいながらなんだけど、パラディンって槍よりも剣のイメージなんだよな。
実際リーチが長い分槍の方が使い勝手はよさそうだが。
「はあっ!」
先に仕掛けたのはミリス。
素早い動きで間合いをはかるように突きを繰り出す。
しかしそれは寸前のところでゼノにかわされてしまう。
「まだまだ!」
それでもミリスは攻撃の手を緩めない。
息をつかせぬ連続攻撃は見ていて圧巻される。
それでもゼノはその全てを紙一重でかわし続けた。
否。
紙一重になるようにかわし続けていた。
「はぁはぁ……」
ミリスの怒濤の攻撃が続くこと1分。
勝負を決めきれなかった彼女は息を整えるように1度間合いをとる。
そして膠着。
えもいわれぬ緊張感がその場を支配する。
「解説のリリィさん、今の両者の戦いぶりをどう判断しますか?」
「え、えっと、一見ミリスが優勢に見えますけど、相手の方はまったく本気を出していない様に見えます」
「ありがとうございます。それではエリスさんはいかがでしょう?」
「は、はい。姉さんに頑張ってほしいです。って少しは真面目にしてください!」
暇をもて余したから実況の真似事をしてみたが、怒られてしまった。
仕方ないから真面目に展開を追うか。
次に動き出したのはゼノ。
ミリスの槍の間合いにギリギリ入らない距離を保って、彼女の周りをグルグルと回り出す。
「リリィ、ミリスにいつでも防御魔法をかけられる様に準備してくれ」
「えっ、はい。分かりました」
リリィは知らないことだが、ゼノはあれでも魔王の子ども。
つまりは魔族だ。
剣の腕が相当たつから見落としてしまってもおかしくはないが、もちろん魔法も使えるだろう。
その証拠に剣を持たない左手を背中に回し、小声で何かを呟きながらミリスの周囲を回っている。
どうやら決着の時は近そうだ。
「このままじゃ埒があかないわね!」
ミリスがしびれを切らして動いた。
「今だ!」
「汝、我を、我が友を守る盾となれ──バリードシーク!」
「焦がせ──ジェノスラー!」
一気に距離をつめたミリスの前に襲いかかるのは漆黒の炎。
回避は不可能な状態。
その猛威は防御陣を突き破ってミリスの身体へ迫る。
死を覚悟したのかミリスが目を閉じたその刹那。
リリィの防御呪文がゼノの魔法を打ち消した。
「ちっ」
ゼノは舌打ちをしてこちらに歩いてくる。
一方でミリスは腰が抜けたのか地面に座り込んだ。
「姉さん!」
姉を心配したエリスがミリスに駆け寄っていく。
形はどうあれこれで一件落着。
そう思った瞬間、背中に悪寒が走った。
「五月雨!」
自然と身体が剣を抜く。
その刀身はゼノの振りかざした剣に当たり、その反動で大きく後ろへと引っ張られる。
「どういうつもりだ」
「俺は召喚士には攻撃できないからな。こうすればあんたの本気が見れると思って」
安心しきったリリィを狙ったゼノの攻撃。
俺はそれを到底許すことができないが、ゼノは冒険者ではなく魔族。
その予見ができなかった俺の方にも問題はある。
「ゼノ、剣を引け。それと今後一切俺の仲間への攻撃を禁止する」
「甘々だな」
「俺は博愛主義者だからな」
「破壊主義者の間違いだろ」
「さあな──リリィ! 帰るぞ」
「えっと、はい。始まりの街でいいですか?」
「ああ」
「ちょっと待ってください!」
役目を終え、帰ろうとした俺たちを呼び止めたのはエリスだった。
ミリスに肩を貸しながら彼女はこっちに近づいてくる。
「姉共々仲間にしてください」
「ちょっと、エリス何言ってるのよ!」
「姉さんは黙っていてください!」
「そういうわけにはいかないわ! 私にはまだやるべきことがあるの!」
「なら早くやるべきことを終わらせてください」
「どうしてそうなるのよ……」
すっかり妹に優位を取られてしまった姉はもう言い返す元気もないようだ。
「それで、仲間に入れてもらえませんか?」
「レベルの差を考えろ」
「いや、いいんじゃない」
「私も大歓迎です」
「お前ら頭おかしいだろ……そんなんで本当に大丈夫かよ」
まさか敵であるはずのゼノに心配されるとは思ってもいなかったが、俺には俺なりのやり方がある。
「エリスはすぐに仲間になるとして、ミリスはどうするんだ?」
「誰があんたの仲間になんてなるもんですか! 私はやるべきことをやったらリリィの仲間になるの!」
「姉さん、姉さんが素直にならないなら私がもらっちゃいますよ」
「ちょ、誰があんなやつのこと!」
「ダメです! マスターは渡しません」
「……色男は大変だな」
ゼノがどうでもよさそうに俺の肩に手を置く。
なんだかんだ言って面倒なことになった気もするが、仲間が増えたことはありがたいことだった。
目指すはハーレム──じゃなかった。
目指すは魔王討伐!
仲間も集まったところで次は黒龍の元へ──




