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時として人の話には素直に従うべきである。
あの後集まった情報をまとめると、
1、仲間を作るには王宮に行くことが手っ取り早い。
2、この始まりの街では王宮からの認可がないと仕事をすることができない。
3、この街の宿屋は1泊4,000キールかかる。
4、この街は日が暮れてからの冷え込みが激しいらしく、とても野宿をできる環境ではない。
つまりは王宮に行くか、このまま街の外に出るかしか方法がないわけである。
いっそのことゲームの様に他人の家に入り込めばとも思ったが、そんなことをしたら犯罪者として逮捕されてしまう。
本当にゲームの主人公はご都合主義である。
今の俺みたいに街を散策して体力が減ることもなければ、モンスターと戦って傷付かない限り睡眠を取る必要もない。
そんなくだらないことを考えながら歩いていると、目的の王宮へと着いた。
「ここは王宮。職業の求人や仲間探しは午後3時までしか受け付けていない。また明日出直してくるんだな」
とんだ独裁国家の上に、お役所仕事。
紛れもなくここの国王はクズ。
はっきりとそう思えた。
しかしそれでも引き返すわけにはいかない。
「魔法使いの爺さんに王宮に来るように言われたんだが、何か聞いていないか?」
とりあえず、櫓で出会った爺さんの名前を出してみる。
これで駄目なら凍死覚悟で野宿をするしかないだろう。
「確認を取る。少し待ってろ」
そして衛兵の一人が確認のために王宮の中へと入っていく。
どれくらい時間がかかるか分からない中で暇をもて余すこととなりそうだ。
「おい、お前! 老師とはどのような関係なのだ?」
王宮の外壁を背もたれにして座っていたら、もう一人の衛兵が話しかけてきた。
「二時間ほど前に櫓で会って、冒険者の育成をしているから王宮へ気が向いたら来いと言われただけだな。関係性で言えば他人だろ」
今の時刻は午後4時。
まだ日が出ていて気温は暖かい。
最悪の場合を考えて、できれば暖かい内に睡眠を取っておきたい。
だから投げやりなまでに本当のことを答えた。
「そうか……あの老師自らがか。お前はこの世界に来たばかりなのか?」
そんな俺の気持ちにはお構いなしに衛兵は質問を続ける。
「来てまだ3時間位しか経ってない。それがどうかしたのか?」
「いや、あの老師のお眼鏡に叶うやつは中々いなくてな。ここ最近では志願者しか入門者がいない。お前の話が本当なら、半年ほど前に第3の街まで行って、戻ってきたやつを誘って以来なんだ」
「ほう、もうそんなに経つのかの? この歳にもなると時の流れを覚えておれんくなっての……」
足音もなくあの時の爺さんが現れた。
その後、足跡を響かせて確認に戻った衛兵が戻ってくる。
「よう、爺さん。結局どうするにしろここに来ないと行けないなら、先にそう言ってくれ」
「はっはっはっ。先に行ってしまってはお前さんの人となりがわからぬではないか。まあ、そんなことはどうでもよいのじゃがな。その様子じゃどうせ今晩泊まるところもないのじゃろうて。ついて参れ」
そう言って門の中に入っていく爺さんについて行く。
王宮の内装は、石畳の道とその両側に広がる広い庭があり、建物の中に入るとカーペットが敷かれた古い欧米の王宮を彷彿とさせる作りになっている。
「とりあえず、この街を統治する王様に挨拶をしに行くから失礼のないようにの」
紛れもないクズと思われる王様に無礼も何もないとは思うが、ここは今日の宿泊がかかっているから真面目にいこう。
そして階段を上がり、無駄に豪勢な扉を開く。
そこには国王らしい人間が座っていた。
「よくぞ参られた、召喚士よ。我は汝を手厚く歓迎しよう」
王は王とは思えないほど能天気な笑顔を浮かべてそう言った。
何というか予想していたものとは違うが、これもこれでクズっぽい。
まあ、そんなことを思いながら適当に頭だけ下げておく。
ここ辺りは俺がまだ仕事をしていた頃の癖が抜けていないこともあってか、身体が覚えている。
「今日は疲れているだろうから、充分な休養を取るとよい。部屋や食事は用意してあるから遠慮せずに使ってくれ給え」
「ありがとうございます」
そしてもう一度頭を下げた後、爺さんに連れられて部屋に辿り着く。
天蓋付きのベッドに壁に飾られた高価そうな絵。
その他快適に過ごせるだけの環境は整っており、テーブルの上にはおそらく豪華なのであろう食事が湯気をたてて並んでいる。
「お前さんの部屋はここじゃ。何かあったらそのボタンを押せば召使いがやって来る。明日は大変な1日になるやもしれぬから、後はゆっくり過ごされい」
それだけ言い残して爺さんはどこかへ行ってしまった。
そして一人で使うには無駄に広いこの部屋で、短いようで長かった俺のRPGでの生活が終了した。