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「今度は何の用だ」
今日の魔王は心底不機嫌だった。
そりゃ時間も場所も限らず強制的に呼び出されるんだろうからたまったものではないだろうが、王なのであればそれくらい寛容に許して欲しいところだ。
「いくつか聞きたいことがあってな」
「そうか、なら早くしろ」
「まず1つ目。ここから魔王城までの距離は?」
「城まではざっと24万バルユーレといったところだ」
バルユーレってなんだよ……
まったく融通が利かない魔王様だ。
そこはキロメートル。
それかせめてマイルで説明しろよ。
「何、その1バルユーレ? だっけ? それはどれくらいの距離なんだよ」
「……1ユーレでここからここくらいまで。それの千倍が1バルユーレだ」
魔王は地面に線を引く。
ざっと見たところ2メートル弱と言ったところか……
単純計算にして48万キロメートル。
確か地球一周で4万キロメートルほどだからその12倍と考えると途方もない距離になる。
「よし、俺冒険者辞めるわ」
「おい、召喚士急にどうした?」
「いや、あまりにも遠すぎ。とてもじゃないが1年でそこまで行くとか無理」
「えっ、そうなのか!?」
何がそうなのかだよ。
300日かけて移動するにしても1日あたり800キロメートル。
常時時速66.6キロで移動なんてとてもじゃないが無理に決まってんだろ……
「むしろお前なら移動できるのかよ」
「そんなの2日もあればできるぞ」
2日とか人外かよ!
いや、そもそも魔王だから人外なんだが。
ああ、なんか無性に腹がたってきた。
「じゃあ召喚解除しないから自力で帰れよ」
「構わんぞ。移動呪文を使えば一瞬だからな」
「…………」
「ほら、あれだ。私を呼び出した時のように何か移動に使えそうなものを召喚すればいいじゃないか。おすすめはあの連山を縄張りにしている黒龍とかだな」
ドラゴンか。
今のレベルならば使役できるかもしれないから、それはそれで興味深い話だと思う。
これも男の悲しき性なのか少しやる気が出てきた自分が憎いがな。
「……はぁ、分かった。どう移動するかは後から考えるよ。気を取り直して次の質問だ。お前の部下の弱点を教えてくれ」
「は?」
「魔王城についたところでお前とすぐに戦えるわけじゃないんだろ? だから急進派の連中だけでいいから弱点を教えろ。対策をたてなきゃやってられない」
「むう、そういうことか……少し待ってろ」
そう言い残すと魔王は移動呪文を唱えどこかに消えてしまった。
てか本当にあいつ移動呪文使えたのか……
「待たせたな」
「意外と早かったな。それでそっちの奴は?」
魔王に連れられてやって来たおそらく魔族なのであろう人間っぽい姿のそいつを指さす。
明らかに睨まれているが、それは仕方がないことだろうから気にしないでおこう。
「こいつは私の子どものゼノウィリアだ。こいつを決戦の日まで貸すから話はこいつに聞いてくれ」
「魔王の子どもというわりにはなんか人間っぽいな」
「高位の魔族ともなればこのような姿になるのも容易なことだからな」
「なるほどな。なら後の話はそいつに聞くわ」
「これで質問は終わりか?」
「ああ、忙しいところ悪かったな」
「構わん、それでは戦いの日を楽しみにしているぞ」
そして魔王は帰っていった。
俺は魔王の子どもと二人きりになったわけだが、一体何から話をすべきか……
そう思っていた刹那、ゼノウィリアが口を開いた。
「どうして俺がこんな人間の元で暮らさねばならんのだ!」
「いや、それは魔王に言えよ」
「おい人間、様をつけないなら殺すぞ!」
「おい魔族、召喚士様だろうが!」
俺は俺として譲るつもりはない。
おそらくこいつは父親の命令だから本当に俺を殺すことはできないだろう。
だからこそ今は必要な情報を1つ聞き出すだけだ。
「なんだ! やろうっていうのか?」
「48000レベルの俺に勝てるとでも思ってんのかよ?」
「──っ、いいじゃねぇか。こうなったら戦争だ!」
レベルを言った途端、一瞬だけではあったがゼノウィリアは言葉につまった。
そのレベルが本当のものかどうか半信半疑の中で、もし本当だったらどうしようかと思ってしまったのだろう。
それが表情からはっきりと読み取れた。
そしてそれは致命的な失敗だった。
「契約──ゼノウィリア!」
ダーティ上等。
レベルが俺よりも低いのであれば絶対的支配下に置くまでの話。
攻撃しようと繰り出そうとした斬撃も防ぐ必要もなく首元で止まる。
「クソが!」
「悪いな、俺はまともにやり合うつもりはないんだ」
「はあ、父さんが信用するだけのことはあるってわけか。分かった、しばらくの間はお前に従うよ」
意外にもゼノウィリアは素直だった。
これじゃ人間の俺と魔族のゼノウィリア、どっちが悪者なのか分からないな。
「聞きたいことも色々あるし、これからよろしくなゼノウィリア」
「ゼノでいい。えっと……召喚士……様」
「召喚士でいいよ」
こうして前衛を任せられそうな仲間が増えた。
次はドラゴンをどうやって仲間にするかだな。
そんなことを考えていた刹那、どうにも見逃してはいけないであろう状況が視界に転がってきた。




