18
リリィがシリアスな顔で話を始めた。
これからのこと。
言葉にすればたった7文字。
しかしこれからの1年間は今まで過ごしてきたどの1年間よりも激動な日々が続くことは必至だろう。
「まずは……そうですね。マスターはどうすれば魔王に勝てると思いますか?」
「堅牢石だっけか? あの牢屋に閉じ込めれば嫌でも勝てるんだろうな」
「それは……まあ、そうですね」
それではダメだということは言うまでもない。
求められるものは魔王への勝利ではなく、冒険者側の勝利なのだから。
つまり必要なのは魔王──魔族を超越した力。
それを理解した上で対策を考えてみたが、今の俺にはこの世界に対する知識が少なすぎることが露見しただけだった。
「ちなみに冒険者の中で一番強いやつってどんなやつなんだ?」
「何をもって一番強いとすればいいのか。そこは判断に迷うところですけど、総合的な能力でならばミュナー開拓隊の指揮を執った魔法剣士の方ですかね」
「総合的でないなら他にも適材適所な候補者がいるというわけか」
「そうですね。前衛ならば物理攻撃力最強を誇る六刀流の剣士の方がいますし、防御力に関してはミリスが頭1つ抜け出しています」
六刀流って何本腕があるんだよ……
口に刀を加えて三刀流の2倍とかもう意味が分からないぞ。
「中衛では先ほどの魔法剣士の方、後衛では回復専門の術師であったり、攻撃専門の私であったりとやっぱり役割によって何を伸ばすかが変わってきますね」
「リリィってそんなに強かったのか」
「これでも数人しかいない上位職ですからね」
恥ずかしそうにリリィは肯定する。
初期の段階から最強クラスの仲間に恵まれたということらしい。
「強いやつを仲間にできればと考えたが、現実はそんなに甘くはなかったか……」
「そうですね。裏を返せば魔王には到底勝てないレベルの冒険者しかいないということですからね」
リリィは申し訳なさそうに俯く。
沈黙。
のっけからお互いに途方に暮れてしまった感は否めない。
「──こういうときには一息つくと新たな考えが生まれるものですよ」
このタイミングで注文していた酒が届く。
それを運んできたのが、無愛想なおっさんではなく、喫茶店のじいさんだったことには少し驚いたが。
「そうですね。ありがとうございます」
「それではごゆっくりどうぞ」
「亀の甲より年の劫といいますし、少し落ち着きましょうか」
「あぁ、そうだな」
リリィはワインレッドの液体が入ったグラスを手に取り、口に運ぶ。
見た目の色的にはそのままワインのようにも見えるが、なんせビールが通じない世界。
この前の時の酒といい、リリィが選ぶからには味に間違いはないのだろうが、それでも多少の躊躇はある。
「……あっ、意外といけるな」
思いきって口に含むと、何らかのフルーツのものであろう酸味が広がる。
ワインと思って飲んだら飲めたものではない。
ただ、これはこれで癖になる味。
気づいたときにはグラスが空になっていた。
「また同じものでいいですか?」
「ああ」
再びリリィが注文を行う。
他にも聞き覚えのない言葉を使っていたから、恐らくつまみか何かも一緒に頼んでいるんだろう。
そんな注文を終えたリリィにまた質問をする。
「なあ、リリィ。1年あればどのくらいレベルはあげられるんだ?」
「300レベルといったところでしょうか。1日で1つずつあげていくとしても結構骨が折れると思います」
おう、7万レベルなんて200年かけても無理じゃねぇか……
無理ゲーにも程があるだろ。
いや、待てよ……
1つの考えを元に思考を巡らせる。
この考えが正しければ、もしかしたらもしかするかもしれない。
「確実に抜け道はあるということか」
「抜け道ですか?」
「ああ。ちなみにだが、リリィのようなエルフの寿命ってどれくらい長いんだ?」
「えっ、寿命ですか? 私たちは比較的長命の種族ですので数百年は生きますけど。それがどうかしたのですか?」
リリィは首を傾げながらもそう答えた。
ということはやはり何かしらの意図があるということになる。
「少し考える時間をくれ」
「はい、分かりました」
追加注文をしていた品がテーブルに届き、それから更に5分ほど。
あくまで可能性でしかないが、突破口になりそうな考えがまとまりつつあった。




