第八章:ふたりは、いつまでも仲良し
ツッキーの月明かりが見えない!!の、黄泉の世界?
ゆりは、都内の病院の集中治療室の中、目覚めた。
いろいろな器材が所狭しと並んでいる。
「ここは、どこなんだろう?」
すると、ゆりのお母さんが、嬉しそうにマスク越しにほほ笑み、
「ゆり、解るの?、解る?、お母さんよ」
ゆりは、ここが、天国というところなのかな~と思っていた。
直ぐに白衣姿の先生が駆け付け、
「お母さん、これできっと助かります、きっと元気になりますよ。意識はまだ朦朧としているかと思いますが、もう大丈夫です。移植に成功しました。血圧も脈もここのところずっと安定しています」
ゆりは、その会話を、遥か遠くから聞こえるかのよ~ぅに耳にし、
「ツッキーは、ツッキーは」と、うわ言を言いながら、また眠りに入った。
翌日、目覚めると意識は、はっきりとしはじめ、ズキッとする痛みを胸に感じ、手を置いた。そこには手術の跡が感じられた。そんなゆりを見てか、お母さんは、
「どう? 胸痛むの? 手術してまだ日が浅いから……、奇跡的に貴女の心臓に適合するドナーの方がいらして、移植手術に成功したの。これからは、前よりずっと元気になれるって先生も、おっしゃっていたわ」
「私、生きてるの?」
「何言ってるの、生きてるのよ」
………
それってどういう事?……、そして、ハッとし、
「ねぇ、ツッキーは、どうしてるの? 元気にしているの? 教えて!!」と
(昨晩から、「ツッキーは、ツッキーは」と、うわ言のように言っている姿を幾度となく見ていたゆりのお母さん。恐らく、意識が戻れば、月子さんの事を聞いてくる、嘘をついてもいいが……、心は既に決めていた)
そして、お母さんは、涙を浮かべながら、重い口を開き、
「ゆりが、退院するまでは、言わないつもりでいたけど……、 月子さんは、先日、交通事故でお亡くなりになり、告別式も、済んだわ」と、
ゆりは、唖然とし、ツッキーを助ける事が出来なかったのだと思い、
「なんで、私がこうして生きているのに、ツッキーが死んじゃうのよ。そんなの絶対だめ! だめ! だめ! そんなの許さない!!」
その声を聞き担当の先生は、直ぐに飛んできた。
「術後の重要な時期です。まだ安静にしていないといけないので、また、眠るかもしれませんが、安定剤を打ちます」と言い、注射を、そして、点滴中の管に何か別の液剤を投与していた。ゆりは、それから程なくして、また眠りに入った。
*
ゆりの容態は、その後の経過も安定、順調に回復し、一般病棟へと移った。
ゆりには、ツッキーを助けられなかったという後悔が頭から離れず、いずれ回ってくる自身への死の順番など、もうどうでもよかった。
ゆりの回復へ向かう状態は、驚異的に進んでいた。
そんなある日、主治医の先生から、ゆりとお母さんに、
「小百合さん、よくがんばっていますね、貴女の回復力に私も驚いています。経過もすこぶる安定です。この分なら、8月中での退院も可能ですよ」
ゆりは、
「ありがとうございます」と、言いながらも、ツッキーを助けられなかったという後悔と、どうせまた私の順番が回ってくれば、と内心思っていた。
そして、夏休みも終わる日に、退院となった。
病院から自宅まで車で向かった。
都会の殺伐とした風景から、だんだんと田舎の景色へと変わる……。
ツッキーの家の前を通る時、込み上げる涙を止める事は、もう、ゆり自身、到底出来なかった。
自宅に着き、自分の部屋に入ると、そこにあるはずの『************』が無い。
ゆりは、家政婦さんに、
「どうしたのよ、あれ!、あれは!、あれは!」と言うと、
…………
ゆりのお母さんが、
「あっ、あれ……、あれは、明日から2学期が始まるでしょう。すぐには、学校に行けないから、先に宿題として提出したの……」
その言葉が、嘘である事は、あからさまに解った。
「どこかに隠したんでしょう、そんな嘘!、もう、いらないから、早く出してよ! 早く! 早く!、でないと……、また、私死んじゃうから!!」と。
ゆりのお母さんもずっと心に秘めていたが、あの時、ゆりが摂った行動は自殺ではなかったか? と、
お母さんは、部屋の納戸の中から、『************』を持ってきた。
ゆりは、それを見て、お母さんに、
「わがままして、わがまま言って、ごめんなさい。もうあんな真似しないから」と、その共同作品を見て、心を落ち着かせていた。
そんな姿を見届けて、そっとしておいてあげようと思ったのか、ゆりだけ残し、そっと部屋から出ていった。
ゆりは、懐かしいなぁ~と思い、部屋をぐるっと見渡し、
2人で一緒に笑って、夏休みの宿題をして、『************』を作って……。
そこに、足りないのは、ツッキーの姿だけ。
でも、ゆり自身も強くなった。運命の順番が回ってくるまで、ツッキーの分まで、しっかり生きる。と思えるようになっていた。
明日から、本当なら2学期が始まる。
まだ、学校には行けないが、いつもの癖か、勉強しなきゃなと思い、ふと書籍棚に目を移すと、そこには『ナザレ幼稚園合格ノウハウ集』の本。
最後にツッキーと逢った時に見た本か……、
寂しさが込み上げる中、手に取った。そして、ページをパラパラパラと……、
あの手紙が見当たらない?
あの死神からの手紙を挟んでいたはずの、そのページにもない。
すると、そのページの次頁に、日に焼けて黄色くなっていた他のページと違う、真っ白なページが、
そこには、
追記:『死神は、人間の最も重要な臓器、心臓にある魂を死界に持って行く事により、任務遂行の証とする』と。
ゆりは、
「えっ」と思い、
「今、私の中のこの心臓が、ツッキーの?」
そして、共同作品の
『満月につつまれ、光輝き集まる星々達 by ツッキー&ゆり』の中の1粒の砂粒が、まるで流れ星のように、左から右へと流れて行った。
ツッキーの声が、
「私は、ここにいるよ。私達はいつまでも仲良し、よろしくね!」と、心の奥底から聴こえたような気がした。
*
それから2週間程たち、ゆりは、まだ体調は万全ではなかったが、学校に行った。
「退院おめでとう!」
「これからもよろしく!」
クラスメイト達の励ましの声、その声の中には、一番聞きたいはずのツッキーの声はもうない。
先生が、
「高橋小百合さんの席は、あそこね……」と指差し、夏休み前と同じ、小学校1年生の時と同じ、その席は、ツッキーの隣だった。でもツッキーの姿は……。
ゆりの机の上には、花瓶が。
退院祝いだろうか? 1本のゆりの花と、みんなが、道端で摘んでくれた花々が挿してあった。
その1本のゆりの花びらには、『いままでありがとう ~ 月子・母 ~ 』と書かれていた。
ゆりは、込み上げる涙を堪え切れず、先生やクラスメイトの前で、こぶしを何度も何度も机に叩きつけた。
「なんで、なんで、ツッキーが……」
クラスのみんなも、先生も、ゆりの気持ちは解っていた。
先生は、涙を浮かべ、
「月子さんの席、移動しましょうか……」
「いいえ……、先生、
ツッキーの席は、このまま、卒業まで私の隣に置いてください。そして、一緒に卒業します」 ……。
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**予告**
第9章:・・・・・・・・ ~『はっちゃけ娘』~
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