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第六章:その始まりは、1通の手紙から

 ゆりは、やはり学校には来ていなかった。


 でも、容態は、以前より良くなってきたらしい。

「早く元気になって、また、学校生活を楽しもう」と願うばかりだった。


 もうすぐ夏休みが始まる、そんなある日。

私の家の郵便箱に1通の手紙が、封筒には住所も切手も貼ってない。

『ご当選おめでとうございます』 そして、『高橋月子様』とだけ記されていて、差出人の名前も無かった。


 私は、『ご当選おめでとうございます』と書かれている言葉に、

「もしかして、数日前のスーパーでの買い物の時、抽選番号を投函した事を思い出し、ハワイ旅行の当選通知かな? 」などとも。

常にポジティブ思考の私、半分期待をしつつも、なんの関係も無いただの高校入学案内のパンフレット? かもしれないしなぁ……、

期待しすぎると外れた時に、いくら「はっちゃっけ娘」でも、ちと、へこんでしまう。

「もしかして」の心の動揺を抑えながら、封筒を開けてみた。中には、3枚の便箋が。


 1枚目には、ただ『 』と訳のわからない文字?、記号? が、

 2枚目には、3と書かれた数字、

 3枚目には、貴女の順番がもうすぐ回ってきます。おめでとうございます。


 この手紙、正直気持ち悪いな、と思ったが、このところ流行はやっている「都市伝説のたぐい?、ただの悪戯? かな」と思い、さほど気にもせず、自分の唯一の書棚カラーボックスにしまっておいた。もちろん、家族にも内緒にした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 7月になり、私が待ち望んでいたゆりが、学校に来た。まだ、顔色はちょっと悪そうだったが、心臓病の事を知ってるのは私だけ。

ゆりも、私と家政婦さんの会話は知らないはず、早速、私は隣の席のゆりに、

「元気になったの? 元気そうだね」と、話かけた。

「うん少し元気になったよ。ちょっと、学校休んじゃったけど、また、よろしく! っね」

「私の数学もよろしく! 」と、手を擦り擦り。

そんな私を見て、ゆりは、一生懸命に作り笑いを浮かべていた。

私には、それが、今出来る精一杯の作り笑いであるという事も、すぐに解った。

私の先入観からかもしれないが、頑張って来たんだ。と実のところは、そう思っていた。


 私はゆりに、

「もうすぐ夏休みだね。なんか予定は?」と尋ねると、

「この夏休み?、ピアノと塾と……、でも特に大きな予定はないから、ツッキー、一緒に一杯遊ぼう」と言ってくれた。

私も

「ゆりが学校休んでいたから、解らないことだらけ、教えてね」と。(頭、ペコリ)


 そして、1学期の終業式、校長先生から

「明日から、夏休みです。皆さん、1学期の復習と2学期に向けての準備をして下さい。この学校での最後の夏休みです」と。

正直、最後の卒業生になる事は、皆も承知済み。なんで、こんな事わざわざ言うかな!…… っと、ゆりが登校してくれた事もあってか、久々に私の心は、はっちゃけ娘に戻っていた。


 教室に戻り、担任の先生から通知表が配られた。私は通知表を見て、やっぱりな、相変わらずだ、成績がいいのは体育と美術だけ……、後は、全滅。

ふと、隣のゆりを見てみると、

「ふっ」と、そして、ひとり言のように

「やっぱり、今回もだめだったか」と、

私は、ゆりの方が成績がいいのは百も承知、勇気を振り絞り、励ます意味もあって、

「どうしたの?」と、もちろん成績がトップクラスのはずである。

「うん、今回も美術がね~」

ちょっと通知表を覗き見るすると、体育、美術以外はトップクラス、いや、おそらくトップである。

いまや、5人しかいないこのクラス、誰がトップで誰がビリ(体育、美術以外は、おそらく私)なのかは、みんな解っているが……、

やっぱり、少しでも成績が上がりたいのは共通だろう、みんな頑張っているんだから。


 *


 夏休みに入ると、早速、母さん、姉さんから、

「早く夏休みの宿題は終わりにして、2学期に備えて、予習しておきなさいよ。いっつも、最後の最後で父さんに手伝ってもらうんだから、来年から高校生よ」と。

私には嬉しかった。

正直、姉さんと同じで、就職かな? と思っていたので、

そして、母さんが姉さんに向かって

「ゴメンネ、高校に行かせてあげられなくて」

すると今度は、私に向かって

「でも月子は、姉さんの分まで頑張って、高校行くんだよ」と、


 もちろん姉さんも高校行きたかったはずであるが、家庭の事情とかあったから……。

姉さんもそんな事は、気にもしていない様子で、

「そうだよ、月子、ちゃんと高校出て、がんばるんだよ! 」と。


 しかし、ここからが問題である。

公立の高校しか許されない我が家にとっての高校進学、でも、成績がなぁ~、美術と体育だけの入学試験なら……。

そうだ! ゆりに家庭教師みたいになってもらって、教えてもらおうかなと、思っていた。


 夏休みに入り、1週間程たった時であろうか、ゆりから突然電話がかかってきた、

「明日、何か用事ある? ……」、続けざまに

「もし、何も無ければ遊び来て!、自由課題 一緒に作ろうよ。

私、美術苦手だし、以前ツッキーが綺麗な石、集めているって言ってたでしょう?、そして、満月のような綺麗な石、見つけたって。

それ持ってきてよ。2人で作ろうよ共同で、最後の記念作品、私もツッキーの苦手な数学、手伝ってあげるから、ねっ! 」

(数学以外にも苦手な教科がほとんどである私にとっては、願ったり叶ったりであったが)

さらにゆりが、

「う~ん、じゃぁ、明日9時頃でいい?」

なにぃ~、9時頃からだと?

夏休みだし、普段なら、まだ、布団の中でゴロゴロとしている時間。

学校でもないし、ゆりは一体、一日何時間勉強してるんだろうと思ったが……。

でも、ゆりもそれだけ元気になったんだ、よかったとホットし、

「いいよ、じゃぁ9時ね」と約束した。


 数学の宿題と英語の宿題と…… あ、そうだ『あの石』も用意しておかないと……。

明日の早起きに備え、大好きな夜のアニメ番組も諦め、床についた。


 翌朝、母さんがパートに出かける前には、めずらしく起床おきていた。

母さんが、

「どうしたの、今日は早起きね」

「うん、今日はゆりの家で、勉強教えて貰ってくるから」

「今日行くなら、早く言ってれればよかったのに、いつもお世話になっているし、何かお土産買っておいたのに、いい買い置きの物も無いし……」

「大丈夫、今日は秘密のお土産持っているから」と、ポケットの中の宝物を、ポンとたたき、ゆりの家に向かった。


 ゆりの家に着くと門の所で、ゆりは既に待っていてくれた。

「うん、もう、遅いんだから!!」といつもの台詞、以前より元気そうだった。

早速、玄関から、ゆりの部屋に向かった。

そこには、紅茶が、

「ミルクティーでよかったよね、それ飲んだら、早速、勉強開始ね!!」、

正直、朝からこんなにも勉強に対して、ハイテンションなゆりが信じられなかった。

紅茶を飲みながら、ゆりに夏休みの宿題の事を聞いてみると、自由課題以外は、既に終了していた。

そんな私は、まだ数学の課題の3問目で躓つまづいている状況なのに……。

紅茶も飲み終わり、いよいよ、宿題開始。


 私は、ゆりの隣の机で難題の3問目の宿題に挑戦していたが、やっぱり無理だ。

ゆりに教わろうと、ゆりの方をちらりと見ると、何か真っ黒な厚紙に、こつこつと、あの綺麗に光る砂粒を星座図艦をみながら、散りばめていた。

私は、何してるのかなっと思ったが、

「ねぇ、ゆり、ここ解らないんだけど、教えて」と言うと、

「これはね、この公式を使って、○×△□○……、ほら、答えはこうなるでしょう」

私には、○×△□○…… の部分は、ちと、良く解らなかったが、難問だった3問目を突破できた事には間違いない。

ただ、これから、さらに待ち受けるであろう難問に、ちょっと恐怖心も覚えていたが、

「うっ、うん、解った?、ありがとう!」と。

すると、

「今、自由課題に挑戦しているんだけど、ねぇ、前にも言ったけど、共同作品にしてもいい?、ツッキーの満月のような石、見せて!」

私は、美術は得意だったので、自由課題(美術・工作)の作成の手間も少なくなるし、まして、ゆりとの最後の共同作品ならなおさらだった。


 恐らく、まだ私に言ってくれないけど、高校はあの名門私立早明高校に進学すると思っていた。

だから、そういった意味でも最後の作品と思い、

「この石? でいいかな~」

「わぁ~……、綺麗な石、私が思っていたのより、ずっとずっと、綺麗な石」と言いながら、自分の描く構想を語り始めた。

「漆黒な夜に、この散りばめられた星達(砂粒)、そしてね、満月が光を放つと、この星達は、その光を受け光輝くの。ねっ、いいでしょう? この辺に天の川かな? 織姫と彦星、そして、この辺には北極星があって、北斗七星、大熊座がこうで、そして冬のダイヤモンドの星座が、……、夏の大三角形の星座が……、この満月は、この辺り、右上でいい? かな?」と、言っていた。


 私は星座を観るのも好きだった、という事もあってか、

夏の星座も冬の星座もこの1枚の厚紙の中で、ごちゃごちゃに……?。

まして、月の明かりが強ければ強いほど、せっかくの星々も見えなくなってしまうのが自然界。

私でも知っている事なのに、……?

それもひとつのいい乙女ティック発想か! と思い、

「うん解った、すごく綺麗そうだね。いいよ、自由課題の共同作品にしよう、使っていいけど、共同作品ね!」と、取り敢えず念を押した。

(お気に入りの石だったけど、これによって夏休みの1つの課題が減る事の方が重要であった)


 私にとっては、それどころではない。

せっかく、ゆりが家庭教師さん役になって教えてくれる今日のこの時間である。

アドバイスを受けながらも、難関の『数学の宿題』をこなしていった。

 一方、ゆりは黙々と、こつこつと、星座図艦をみながら砂粒を散りばめていた。


 昼になると、豪勢なお昼ご飯が用意された。

いつもの事ではあるが、今回は、口の中で溶ろけそうな牛肉入りのビーフシチュー、……等々。

(我が家では、牛肉など、年に1度か2度、それもスーパーの特売品である)


 ちょっと口を付けただけのゆりは、

「美味しい?」とだけ会話を交わすと、すぐに自分の机に向かい、また、砂粒を散りばめ始めていた。

私はたらふく食べ、昼食後は眠気との戦いでもあった……が、難題を次々とクリア(大部分は、ゆりのアドバイスのお陰だが)していった。


 画期的な事であった、苦手な数学の宿題の半分以上? は消化していた。

でも、さすがに……、

従来の2倍、いや3倍以上かもしれない。

頭はパンパン、あぁ~もう限界……。

すると、いつもの村内アナウンス

『みなさん、5時半に~、……』、正直、助かった! と感じていた。

すると突然、

「出来た!!!」と、私は、このパンパンな頭の状態からして、その意味も解らなかったが、

「ちょっと、部屋暗くしてもいい?」

(寝るならそれも歓迎できる事かもと、むしろ私のほうが、我が家での生活のように、でれっと、横になりたかった位である)

「うん、いいよ」と言うと、ゆりは、部屋のカーテンを閉め、部屋の明かりを消した。

そして、完成した『自由課題』の作品を。


 それは、光る月、そして、その光で反射する天の川、織姫、彦星、北極星、北斗七星の大熊座、夏の大三角形、冬のダイヤモンド……等々、絶対に重なり合う事の無い星座、星々達をごちゃ混ぜにしていたが、完成していた。

その美しさは………、もう何も入る隙もないこのパンパンな私の頭へでも、入り込んできた。

 体育と美術だけには、少しの自信はあった私だが、

そして、午前中に聞いていたゆりの構想に、半信半疑……? だったが、

それはそれは、全く同じ夜空に一緒に輝く事の出来ない星々達が、個性を持って、満月の光を受け輝いていた。


 ゆりは、

「どう素敵でしょう?!!! ……、ねぇ、何か言ってよ!」と、

その返答には、何の言葉も見つからなかった。

「すごく、綺麗だね」とは、言ったものの、

ただ、そんな言葉では言い尽くせないくらい素晴らしい物だった。

ゆりは、美術が得意な私に褒めてもらえて、

「よし、2学期は、美術の成績でツッキーに負けないぞ!!」と言って、にこっと笑っていた。

(正直なところ、夏休みの自由課題なるものは、終了ぎりぎりの8月30、31日で作るものだと思っていた私)

『自由課題』、共同で?、って、これでいいのかな……?

私がやった事は、お気に入りの石をあげただけなのに……?。


 *


 数日後、母さんが、

「今、大っきな台風が来ているから、この辺も明日、風と雨が大変そうだから、気を付けなさいね。月子はあの河原が好きだけど、絶対、行っちゃいけないよ。わかったね!」と釘をさされた。


 もう台風も過ぎ去ろうかとしている時、テレビから、いつも行っている、あのお気に入りの川の様子を伝えるニュースが。

「想い川が氾濫危険水位を超えようとしています。風雨が収まるまでは、不要不急な外出は避けて下さい!。また、台風が過ぎたからといっても、上流からの急な増水、急な突風にも充分に気をつけて下さい」と、

普段見ていた、あの穏やかな川とは全く違う様相を、画面は映し出していた。


 翌日は、台風一過の晴天であった。

昨日のニュースで映されていた、お気に入りの川の『勇ましい姿』も観たくて、私はつい、いつもの土手まで、手摺のある階段を伝わり登ってみた。

土手に着いて川の様子を見てみると、そこからは、いつも見ていたあの穏やかな川面とは全く違い、土手のほんの下まで濁流が流れていた。

私は、すっごいな、いつもあんなに穏やかな川面を見せていてくれたこの川が……。


 そして、土手沿いにちょっと歩き始めた時、突風が。

雨のせいで濡れていた土手の草に足を取られ、

「えっ」っと思った瞬間、耕介の手が私に、

私は無我夢中で河原から土手に繋がる手摺りにしがみついたが、耕介の手は、既に私の手からは……、

私は、手摺りに摑まりながら、土手まで、這い上がった。

でも、そこには、もう耕介の姿は無かった。

私は、まさか!、そんな!、

(耕介に限ってそんな事はない。きっと、手摺りに摑まって、よじ登っている私の事を確認して、どっかで隠れていて、驚かして、ちょっかい出して来るんだよね。絶対、そうだよね! 絶対! 絶対! そうだよね!)

と思い、我が家の隣の耕介の家に向かった。

(早く!、どっからでもいいから、早くちょっかい出して来てよ!!)


 私は、こぼれる涙もそのままに、耕介の家の玄関を

「おばさん!、おばさん! 耕介のお母さん! 月子です!」と、涙でぐっちゃぐちゃな声で、玄関を叩いた。

そして、耕介のお母さんが、玄関を開けた。

「耕介は!!、居る?!」涙も止まらないまま、尋ねた。

「あら月ちゃんどうしたの? 耕介なら、台風も、もう過ぎたし、いい天気だからちょっと気晴らしに、月ちゃんのところにでも遊びにでも行くって、出て行ったわよ。夏休みの宿題かしらねぇ、数枚のプリントを持って」と、

私は、耕介のお母さんに、

「耕介は!、耕介は!、耕介は、今家で勉強してる!! って、言ってよ!、言ってよ!、耕介のお母さん!!!」

そんな私をみて…、いつもの月子と違う私の涙を感じ取ったのか、

「何かあったの? 月ちゃん、まさか耕介に?!」

私は、あの川での耕介のあったかい手の事を、涙と共に話した。


 *


「早くちょっかい出しにきてよ!、耕介!!、何にも反撃しないから!!」と泣きながら、我が家に向かった。

耕介の家とは、10メートルも離れていなかった。

そんな時、私の足にまとわりつく、1枚の紙が。

なんだよ、なんでこんなに足にまとわりつくんだよ! 掃っても掃っても。

掃いきれなく、その紙を手に取りくっちゃくちゃにし、ポケットに入れた。


 家に着くと、母さんは、泣きながら帰って来たいつもと違う私を見て、

そして私も母さんの顔を見て、

「あのね、耕介がね……」

「耕介くんなら、さっき、月子を訪ねてきたから、どこかへ行ったよ。と答えたけど、耕介君に何かあったの……?」と、

母さんにも、あの川での出来事を話すと、そっと、

「耕介君に限って!、大丈夫、大丈夫だから……」と、私を抱き寄せ、頭を撫でてくれた。


 *


 すると、夕方、茶の間にあったテレビのニュース番組から、

「本日午後、15歳の少年が行方不明になったとみられており、捜索願が出され現在捜索中です。台風による吹き返しの風による事故なのか、あるいは……」と、云う内容だった。

私は、ろくに夕食も取らず、いや、取れずに横になろう思い、寝巻に着替えた。


 今日着ていた服、と、ポケットの中に手を入れてみると、くちゃくちゃな1枚の紙。

ふと、気になって見てみると、ずっと以前に来た、あの時の字体と一緒……?。

もう、記憶にもない程だったが、カラーボックスのどこかにと思い、探してみた。

その手紙はあった。私には『3』、この紙には『2』、何なのこれ? どんな意味?、でも、直感的に……、変な予感がした。

その時は、耕介の事で頭が一杯だった私には、それ以上の事は考えられず、

明日になれば、耕介が、

「少しは、心配してくれたか月子!、実は昨日、あれからさ~、…… 」って、現れてくれるよきっと。と、わずかな期待を持っていた。

そして、私に届ていた変な手紙と、今日足にまとわりついていた『2』と書かれた紙も何故か気にかかり、一緒にクリップで止めて、元の手紙があった所に戻しておいた。


「明日、必ず、ちょっかい出しに来いよ!、耕介!!」

耕介にも自分自身にも言い聞かせ、眠れそうもないが、とりあえず横になり、床に入った。


 ほとんど眠れなかった私は、耕介の事が心配で、朝から、普段なら見もしないテレビのニュース報道番組を見ていた。

やはり取り上げられていた。

『会田耕介』と、実名こそは明かされていなかったが、まだ、行方不明のようだった。ほとんどのニュース番組でトップである。


 早くちょっかい出しに来てよ!!、どんな攻撃だって受けるから、なんの反撃もしないから、もし、反撃をしてほしいんなら、なんでも反撃してあげるから、ねぇ、耕介!!!。


 私も中学3年生ともなれば、もう解る。

いくら、「はっちゃけにポジティブな希望」を持っていても、

そして、あの時の川の状況を知っていれば、自分自身に、いくら言い訳をしたって、……。


 そして、午後のテレビの番組中に速報知らせる、ピロロン! ピロロン! のチャイム音。

画面の一番上のわずか1行に、右から左へ、ただ現況を伝えるテロップが流れる。

『行方不明中だった会田耕介君(15歳)と思われる中学生の遺体が、自宅近くを流れる川の下流、約2キロメートル付近の河原で発見されました』

無情にも、ほんの数秒後、また、同じテロップが画面を横切って行く。

私は、私が、あの時、あの場所に行かず、足を滑らせなかったら……、と、

もう涙が出尽くすまで、泣きじゃくった。


 *


 後日、耕介の通夜、告別式がしめやかに営まれ、惜別の時を迎えた。

私は耕介のお母さんに、

「あの日、あの時に耕介君に逢いさえしなければ、きっと……」、もうそれ以上は、涙で、言葉に出来なかった。

 耕介のお母さんは、

「ごめんね、月ちゃんにそんな事思わせてしまって、うちの耕介は、いつもいっつも、月ちゃんと遊ぶのがすごく楽しかったの。もう、耕介はいなくなっちゃうけど、いつまでも心の中の友達でいてね」と、潤んだ涙をこらえながら、言ってくれた。


 *


 まだ、私は立ち直れはしなかったが、耕介のあたたかい手を感じたあの場所へ行こうと、決心した。

私は、その土手に行く途中で咲いていた道端の花を輪ゴムで留めて、あの土手に着いた。

川はいつもの大好きだったはずの、穏やかな川面になっていた。

「ばか! ばか! ばか!」と言いながら、それは、川に言ったのか? いや、耕介のばかにか、そして、月子自身のばかにか、花を投げつけてやった。


「淋し過ぎるよ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~


**予告**

第7章:【3】&【6】


~~~~~~~~~~~~~~~~~


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