第四章:校庭の隅の花束
ゆりと私は、それからもずっと仲良し。
小学校も6年生になり、もうすぐ卒業を迎える。あの誕生日会以降も、ゆりの家には度々行って、もっともっと仲良しになっていた。
そんなある日、ゆりが
「早かったね、この6年間、もう少しで卒業だけど、ずっと仲良しでいてくれてありがとう、ね。中学に行ってもずっと仲良しでいてね」と、
私も
「ううん、こっちこそ、こんな、はっちゃけ娘と仲良くしてくれて、ありがとう」と答えた。
(まっ、今更ではあるが、他人行儀なんだから、上品なんだからと、ゆりの事を思っていた)
いよいよ卒業式、また、姉さんのお下がりの服だ。
例によって、いつもの事ではあるが、また、耕介がちょっかいを出してきた。
「おい月子!、今日の卒業式の服には、クリーニング屋さんのタグは付いてないのか?!」と、
(もう、しつこいんだから、6年も前の事を話題にしてきた。クリーニング屋さんのタグは、昨夜、既に確認済み)
何か逆襲できないかと思い、耕介を観察、発見!。
後頭部に10円禿げがあった、が、さすがに私も、もう6年生。耕介が気にしていたら悪いし、6年間の感謝も含め逆襲は止めに。
そして
「6年前の事、まだ言ってるの! しつっこいぞ!」に留めた。
卒業式では「仰げば尊し」を歌い、涙ぐむ子もいたが無事に終え、みんなでの集合写真。こんな小さな村だから、中学へ行っても一緒、同じクラスメイト、小学校入学の時の集合写真とは違い、みんなの笑顔があった。そしてゆりは、私の横で緊張感も無く、にこっとしていた。
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小学校からの卒業、春休みも終わり、いよいよ明日からは中学生。
3年間を過ごすクラスメイトも一緒だし、何の不安もなかった。強いて言えば、どんな攻撃でくるのか? 耕介の作戦、そして逆襲を考えていた位である。
明日の入学式も、姉さんのお下がりかなって思っていたら、
姉さんが、
「中学校入学のお祝いに、これプレゼント!」と、
既に中学を卒業し、家庭の事情もあって、就職していた姉さんからの制服、そして、ショルダーバック。素直に嬉しかった。
そして
「ありがとう!」って飛びついて答えた。
中学校の入学式当日。ふと気がつくと何か? いつもと違う……。
そうだ、耕介からのちょっかいが無い。私は何かあったのかな? と、
(特に心配されるような、ひ弱な耕介でもないが)
辺りを見渡すと、そこに耕介の姿を発見。
以前より長くなって、オシャレっぽく(大人っぽく?)していた髪型。小学校の卒業式でのちょっかいの逆襲とばかりに、ここは、これからの3年間のイニシアチブ、先手を取るためにも、私から宣戦布告。
「おい耕介!、どうしたのその髪型、かっこいいじゃん!」すると、
いかにも俺は、もう子供じゃないんだと、言わんばかりに、
「へぇ~、そうかな~」と躱して来た。私は、耕介の秘密を知ってるんだ! と、ここぞとばかりに、髪型で隠されていた後頭部をかきわけ、
「何、これ、隠しても知ってるんだから!」
すると耕介は、いつものように赤面し思わず
「えっ! 知ってたんだ」と、ちょっとしょげた顔を。
私も、我ながら、やっぱりちょっと気にしていたんだ。ゴメンの気持ちも含め、「小学校の卒業式の時から知ってたよ。大丈夫、すぐ治るよ。これからの3年間もよろしくね!」と言い、いつもの耕介との会話を楽しんでいた。
入学式も終わり、これから中学生かと思っていたのも束の間、新しい教科書が配られた。えっ、数学・英語・理科・・・・・、う~ん、ただでさえ体育・美術以外は苦手なのに、難しそうな、『数学』?。
算数だって儘ならなかったのに、教科書のタイトルにさえ抵抗を感じていた。今後の私に、暗雲が。でも、何んとかなるか?! っと。
( ポジティブ思考の月子は思っていた)
中学校初日が終わり、今後の勉学?
(勉学? と言う言葉、月子にしてみれば、そんなレベルではないが)ちょっと憂鬱だった私は、気晴らしにお気に入りのあの川に行き、土手からボーっと、いつものように穏やかな川面を見ていた。
すると、土手の下を通る道から耕介の声が、
「月子!、何、ボーっと見てるんだよ!」
「たまには、そんな時もあるの! この私だって!」
「そんな乙女チックな姿、お前には似合わないぞ!」
なにぃ! と、思ったが、耕介が、
「これから、俺、サッカーしに行くから、じゃぁな!」と、言い残し、自転車で過ぎて行った。
そして、いつもの河原での綺麗な石集め、すると、眼前には、まん丸な石が。それは、半透明な白い、薄っぺらな、まるで満月のような石だった。私は、いい石見つけた、磨くともっと綺麗になるかな?、ラッキー! と思い、自分のコレクションの1つに加えた。
数か月後、月子が丹念に磨いた事もあり、その石は、本当に、満月のように綺麗な白っぽい半透明な石になっていた。
*
ある晩の事、月子は、父さんと母さんの会話をドワ越しに聞いた。
「ねぇねぇ、お父さん知ってる?、南辺小学校、南町小学校と合併し廃校になるみたいよ、南辺小学校は、入学児童も年々減ってるし……、
南辺中学校は、月子が卒業する年ぐらいまでは、もつみたいだけど……」
「そうらしいな、南辺村も過疎化が進んでいるしなぁ。でも、国家プロジャクトやらの一貫で、南辺村、南町も含め、未来のモデル地域として、新都市構想が持ち上がっていて、集中的に開発が進められるらしい。学園都市、福祉・医療も含め……、そう、あの工場も生産拠点として、その一環で、広大な地域に建てられた1工場らしい。他にも、既に、医療・介護施設などの建設も進められているようだ。南辺小学校・中学校が無くなってしまうのは、私の、そして、母さんの出身校でもあったしなぁ、でも、しょうがないだろう。次の世代に向けての我々が残せる夢かもしれない」と、
月子にはショックだった。
そして父の言っていた『あの工場』とは、ゆりのお父さんが働いている工場だった。
【自分の出身小学校が無くなるのは寂しい事だが、当然、月子にもどうする事も出来ない時の流れである】
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そして、次の年の始業式の時、(月子は中学2年生になっていた)校長先生から、正式に
「南辺小学校は、南町小学校と合併・統合されました。皆さんの多くの先輩達の出身校、南辺小学校は、寂しいですが廃校となり、今後、新入生は、みんな南町中学校に入る予定です。
今の2年生が3年生になり卒業式を迎えるまでは、この南辺中学校は存校する予定です。皆さん頑張りましょう」と、
(だから、今年は新入生の入学式もないのか)
もちろん、みんな寂しい思いではあったが、既に噂は広がっていて、ある意味、周知の事実であり、2年生・3年生の在校生の中での驚きは、さほど無かった。
でも月子は、いつも元気っ子。「あと2年間、私達が最終卒業生か!」と。
みんなが2年生用のクラスに行く途中、1年生が入るはずの去年まで月子達、みんなで騒いでいた教室には、誰もいない。いくら、解っていた事とはいえ、へこむのも無理はない。
そして、月子は思った。こんな時こそ、って
「あと2年間、この学校で、みんなでがんばろうよ!、おい! 耕介!、私にちょっかい出さないのか!」
数日後には、みんなのショックも薄らぎ、昔のような笑いも出始めた。私も、耕介も、そして、物静かなゆりも、みんなが。
私にとっては、中学校の勉強は、至難を極めていたが、ゆりに教わったりして、なんとか就いていけていた。
1年生が居ない分、ちょっと盛り上がりにかけたが、運動会も盛大? に行われた。
私は、いつも接戦を繰り広げる耕介に勝利、1位は私、そして、2位が耕介。
でも何故か1位になった喜びよりも、私には、以前から感じていた、
ゆりの体育の見学回数が増えた事、そして今日の運動会でも徒競争などの競技に参加しない事のほうが、気掛かりだった。
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いよいよ、この学校の最後の年、そう、私も中学3年生となった。
ある日、いつものように学校に行くと、私より登校時間が早いゆりの姿が見えない。
私は、「寝坊? かな、たまには寝坊もするだろう」と思っていた。
そして、1時間目、私の大の苦手の数学の授業が始まった。ゆりは、まだ登校していない。
いつも、こそっと教えてくれるゆりが居ないのは、正直、きつい。
わざとか? などとも。
でも、そんな事より、ゆりの事のほうが心配だった。さすがに、もう、寝坊などではないだろう。
もしかして、私がたまにする『さぼり?』、でも、ゆりに限ってさぼりはないだろう、と思っていた。
午前中の授業も終わり、まだ、ゆりは、来ていない。心配になって昼休みに職員室に行き、担任の先生に、
「今日、高橋小百合さんは、まだ来ていないですけど、どうかしたんですか?」「風邪で体調不良なんですって、珍しいわよね、学校を休むなんて。あんな真面目な子が…、でも、明日は登校するって、電話があったから大丈夫でしょう」という事であった。
(月子的には、ひと安心である。明日の数学の授業? のためにも)
でも、ゆりは次の日も学校を休んだ。
(夏風邪は、長引くからな~、と、心配ではあったが、私は、午後からの授業、数学をいかに乗り切るか、の方が、その時は重要だった。そして四苦八苦で乗り切った)
ゆりの夏風邪のおかげ? でのここ2日間の疲れを癒すかの如く、いつものお気に入りの川の土手へ、そして、いつものように、川面をボーっと眺めていた。
すると、通り掛かりのおばちゃん達の会話、
「ねぇ、知ってる? 以前この南辺村に住んでいた修君が、引っ越し先の東京のマンションから転落死したんだって」、私は、ただのおばちゃん達の会話と聞き流していたが、
「えっ、しゅう君? って、まさか」と思った。
確かに、小学校1年生の夏休み前に、東京方面の学校へ転校するって言ってたけど、そのしゅう君が……、そんな事偶然かと思っていたが、背中に「ゾッ」と寒気を感じた。
そして、久しぶりに今や廃校となってしまった南辺小学校へ行ってみた。既に、錆付いているブランコに乗って、ギッギ、ギッ、ギィ~、ギィ~、と音を立てながら、懐かしいな~……、と。
家の門限も中学3年生になって7時になった事もあり、そろそろ、日暮れ時である。廃校後、1年以上経っているし、ちょっと「怖いな」と感じていた。
そして、校庭の隅には、なぜか花束が。
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**予告**
第5章:ナザレ幼稚園合格ノウハウ集
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