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第8幕~セントミアル~

「ただ、お願いがあります」

「何だ、言ってみるがよい」

「はい、お言葉に甘えて。僕達は本のつい先程この街に来てばかりの冒険者で、この国のことをよく存じないよそ者です。それで僕達はまだ旅の途中です。だから僕達には冒険の続きをさせて下さい。最初から終わりや目的なんかは決めてませんがここに戻りますから」


 静かに周りが聞いていたが我に返ったシャビルが慌てて言う。


「お前ら! いくらなんでも口のきき方に……」


 シャビルの言葉をアンセンドが手で制した。そして一歩踏み出して口を開く。


「わかった、よかろう。ならば政治に関しては我が行おう。そなたらは旅をしながら国、この大陸に起こっている問題事を解決してはくれぬか?」







「レオンがあんなこと言うなんて思わなかったなぁ」


 最初にいた王城の控え室でセイナがあの後のことを思い出しながら呟いた。

 あの後アンセンドから今日は休んで明朝に出発するとよいと言われ更には旅の資金まで出して下さることになった。この国でのお金の相場というものがよく判らない二人だが、十万コインもらえることになった。

 他にも衣服や携帯食料などはすでに支給され、それを何でもしまえるようになったアイテムボックスに入れた。

 その時にアンセンドが驚く半面、シャビルのと同様に教えてほしい表情だったので、これまたシャビルの時同様に「魔法で作った空間の中に入れてるんです。申し訳ありませんがアンセンド様と言えども企業秘密ですのでお教えすることができません」と丁重に断りを入れた。ありがたいことにアンセンドは「そうか、ならば仕方あるまい」と納得してくれた。


「咄嗟に思い付いたことを言っただけだよ。まだどこかへ行く宛てがないのにあんなこと言っちゃったからなぁ」

「でも良かったんじゃないの? 私達まだこの世界のことを何も知らないんだから」

「じゃあどうする? 出発は明朝だから早めに決めないと」


 レオンに急に問われた少し唸ったが、ぼそりと呟いた。


「世界一周……とか?」

「世界一周かぁ。そう言えば僕達は地形は知ってても一周したことはないよね。いいんじゃない?」

「レオンがいいならそうしましょ」

「それにアンセンド様にも言われたしね。大陸に起こっている問題事を解決してくれってね」


 ということで明朝からの旅は世界一周ならぬ大陸一周に決まった。初めての旅ということで興奮しながら時が来るのを待った。

 その後も少し控え室で待機しているとシャビルが現れて今日泊まる部屋へと案内された。当然二人は別の部屋なのだが、明日からのこともあるのでセイナは夕食までレオンの部屋に残った。

 今はまだ午後四時。寝るにはあまりにも早く、出掛けるのには少し遅い時間だ。だが、二人で話し合った結果、このセントミアルで探索をするくらいならば大丈夫だろうとなり二人で出ていった。


「レオン殿とセイナ殿、どちらへ?」


 レオン達を部屋に案内した後城門の見張りをしていたシャビルが出ていく二人に気づいて声をかけた。


「セントミアルの街を見てきます。夕食までには戻りますので」


 シャビルの返事を待たずして二人は城から出た。

 セントミアルはβ時には大都市という様子だったのだが、今はそこまで大きな建物はほとんど無く、現代で言う城下町というような感じになっている。そこら中から魚や野菜を売る商人、行き交う人々の話し声、足音が聞こえてくる。今はこちらも夏で、人混みの中を歩くだけでも汗だくになりそうだ。

 二人は王城で用意されていた服に着替えていて、レオンはTシャツに短パン、セイナは、同じくTシャツにジーンズというラフな格好になっている。それでも二人の額からは早くも汗が滲んでいた。


「何か……すごいね。東京や大阪とは違うけど……何て言うか……」

「大きな商店街みたい?」

「そう。商店街みたいな雰囲気で楽しそうっていうか」

「セイナはこういうとこ初めて?」

「そうね。初めてになるわ」

「そっか、僕は一度だけあるかな。小学校一年生ぐらいの頃に親に連れられて」

「そうなんだ」

「不思議だね。僕達も同じ東京なのに西と東じゃ全然違うね」


 そう。二人は東京の奥多摩町。セイナの祖父母は普通の農業を営んでいる。この時代になっても東京でありながら普通に田舎暮らしをしていた。一方レオンは身分が身分であるためにこういう雰囲気の場に来たことがあった。とは言うものの、レオンも来たことがあるのは一度だけで慣れているというわけではない。だからこんなに人の多いところに来るのは初めてと大差ない。

 二人は人の流れに沿って歩いていった。時折吹いてくる風は温く、あまり涼しくない。

 そんな肌にまとわりつくように吹く風に乗ってとても美味しそうな匂いがレオンの嗅覚を刺激した。


「何かいい匂いがする」

「どれどれ……本当ね。こっちの方からだわ」


 二人は匂いのする方へ引き寄せられるように歩いて向かった。その店の前には列が出来ていて、店の看板には《オークまん》と書かれている。


「オークまんだって。どうする?」

「オークかぁ…………」


 名前だけ聞けばあのモンスターのオークの肉を使っている食べ物など食べる気が皆無だったセイナだが、


「オークも豚だよね?」


 とレオンが呟いてから列の最後尾に並んでいったため、セイナも仕方なくレオンについて並んだ。


「レオンは何も思わないの?」

「何もって……何が?」

「だから、オークの豚を食べることに」


 最後の方につれて徐々に声が小さくなっていったセイナに対してレオンはいつもの口調で、答えを返すのに一秒とかからなかった。


「だってオークは豚だよ。その肉ってことは豚肉なんだよ。そう思えば何も思わないよ。それに経験と知識はあった方がいいからね」


 何くわぬかおで並ぶレオンにセイナは感嘆の声も出なかった。

 列の最後尾から先頭になるまで十分弱もかかった。一個あたり三コインで二コイン払った。

 オークまんはオークの顔の形で普通の肉まんと同じように柔らかい生地に、中にはオークにバラ肉にタレが絡んだ見た目美味しそうである。

 しかし、これだけ美味しそうであるにも関わらず未だにセイナの口はオークまんを食べるのを拒んでいる。セイナの前ではレオンが美味しそうにオークまんを頬張っているというのに。

 ついに決心したセイナは恐る恐るオークまんを口に近づけ、小さく一口かじってみる。

 おいしい!

 そう感じたセイナはオークまんをかじるペースを少し上げた。それを見ていたレオンがクスッと笑ったのに気づいたセイナは頬を少し赤く染めた。


「おいしいでしょ?」

「う、うん」


 さっきまで何を嫌がっていたのかというくらいに一気にセイナは食べ終えた。肉の元の辿れば気が引けるが、肉になると絶品だ。

 豚まんの肉は豚でその豚を……いや、それ以上にオークの方が酷いわ! それとこれとは別よ!

 セイナは胸中で言っている間にレオンも食べ終えたのを確認するとまた歩き出した。

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