第4幕~事件勃発Ⅰ~
食事を終えた二人が店を出たところで少し話していると、遠くの方から目の前の道を走ってくる人影を発見した。その人影は二人のいる前で止まり、膝に手をついてハァハァと肩で息をしながら悔しそうに舌打ちをした。
鎧を身に付けているからこの街の衛兵だろうか?
レオンがそう思っていると、衛兵らしき人物は顔を上げて視界にレオン達を捉えると二人によってきた。
「キミ達この人見なかったかい?」
衛兵らしき人が見せた写真に写っていたのは見た目三十代~四十代の男性で茶色の帽子を被っていて、さらにはサングラスもかけていた。
「見ませんでしたけど、何かあったんですか?」
セイナが問うと衛兵らしき人は辺りをキョロキョロ見回して、人がいないのを確認すると密やかに言った。
「実はな、つい先程、この国の国王様がこの男によって暗殺されたのだ」
「えっ!」
「っ!?」
正直なところ二人はこの国の国王という人物を知らないし、国王がこの国に及ぼした影響も知らない。でも貴族という身分のレオンと、国に分かれてPvPを行うタイプのVRMMOを何種類もプレイしたことがあるセイナには王の重要性というものが解った。そしてその王が暗殺されたことが知れ渡ると市民の大混乱を招くということも。
「シーっ!この事はまだ公にされていないんだ。だから他言しないでほしい」
「わ、解りました」
それらを知ってるからこそ大混乱を起こさずに自分達だけでどうにかしたいという衝動に駆られた。
もとの世界では突きつけられる現実から逃げるばかりで立ち向かおうとはしなかった。でもこの世界では違うはずだ。いや、違う自分でいたい。元仮想のこの世界では仮想の時と同じようにできるはずだ。
まだ知られていない事実に対して覚悟を決め、レオンはセイナ顔を見合わせて同時に頷いて言った。
「僕たちも捜します。その男はどこへ行ったんですか?」
「こっちのグライの森の方だ。まだ国王様が暗殺されてから時間が全然経っていないからまだ近くにいるはずだ。来てくれ」
そう言って衛兵はグライの森に向かって走り出した。レオン達も少し間を開けて後をついていく。
やはり予想はしていたものの、グライの森もレオン達の知っている場所と全く一致していた。
「ここら辺にいるはずだ。捜してくれ」
衛兵が言う前から暗殺者の行方を捜していたレオンは既に木陰に隠れる怪しい人影を見つけていた。できるだけ音をたてないようにしながら自然に近づき、姿を確認する。すると……………
「いました!こっちです!」
レオンが大声を出して遠くにいたセイナと衛兵を呼ぶ。それを聞きつけたセイナと衛兵が寄ってくるの同時に木陰に隠れていた暗殺者も逃げ出した。
「あ、待て!」
逃がさまいと逃げた暗殺者の後を追う。その間にレオンはブレイヴソード、とシルクメイルを取り出して装備し、セイナもグローリースラッシャーとアイアンメイルを装備する。その様子を見ていた衛兵は目を見開いていたが、一番後ろにいる衛兵の様子など分かるわけもなくそのまま進んでいく。
だが暗殺者の動きも早く、どんどん引き離され、見失ってしまった。
仕方なくその場で止まって辺りを見る。いくら捜しても暗殺者の姿はない。だからこそレオンは何かかが引っ掛かっていた。ゲームの時に何度も感じた第六感のようなもの。
本当に暗殺者は逃げたのだろうか。いや違う。まだいる。
どこに?
――判らない。
暗殺の方法は?
――不意打ち。
でもあり得ない。これだけ捜したんだから隠れられる場所なんかない。やっぱり気のせいなのか?………………いや待て。あるじゃないか。僕達の様子がはっきり見えて、尚且つ僕達が最も見つけにくい場所が。
そこまで思い至ったレオンが上を見上げると真上の木の枝に乗って、盗賊が持っているような投げナイフを持って、レオンの少し前にいるセイナを狙っていた。
「セイナ危ない!」
暗殺者のが投げナイフを投げようと腕を振り上げたのを見て、急いで走りセイナを庇い倒れ込んだ。
後ろから押し倒されたセイナが小さく悲鳴をあげる。
「キャッ!」
暗殺者の手から放たれた投げナイフは狙っていたセイナに当たることはなくセイナを庇ったレオンの右肩を掠めて地面に突き刺さった。
レオンの右肩からは一筋の血が流れ、呻き声を漏らす。
「くっ……」
いきなり押し倒されてどうなったかわからない隣に倒れているレオンを見て驚く。慌てて立ち上がってレオンの右肩から流れる血を見てさらに驚く。
「レオン大丈夫!?」
「う、うん。なんとか」
レオンも右肩を押さえなからなんとか立ち上がる。
「そんなことはないよ。それよりも……」
「ほう。あれを躱すか。なかなかやるな」
レオンの言葉を遮り、木の上から降りてきたのは衛兵に見せてもらった写真の男だった。帽子とサングラスを取っていて写真とは違うが顔はそのままだ。帽子を取って露になった髪は漆黒で、身に付けている服もすべて黒。暗殺者に相応しい黒づくめだ。
「お前か!国王様を暗殺したのは!」
衛兵が憤って叫ぶ。
「フン!それがどうした!」
暗殺者の声は、レオンが男の写真を見せてもらった時から推測していた通りの三十代~四十代の声で、そこまでドスが利いているわけでもなく、特別若いわけでもない。
「なぜそんなことを!」
「お前なんかに教える必要はない。知りたきゃ力づくでかかってくるんだな」
「何を!それが望みなら……」
「無理するなって。そんなできもしないことを。さっきから脚が震えてんのは分かってんだよ!」
後半を大声で言いながら暗殺者は懐から投げナイフを取り出して衛兵の足元へ投げつけた。すると衛兵は脚が震えてるのを肯定するように尻餅をついた。
「ひゃあっ!」
衛兵は遂に我慢できなくなり、とうとう怖じ気づいた。レオン達は少し下がって衛兵の元へ行き、声をかけた。
「無理はしないで下さい。僕達で何とかしますから」
「そ、そんなわけには!それに君、肩から血が」
この衛兵はプライドが高いのだろう。そのわりには恐怖で身体が震えているのは戦闘経験が少ないのだろうか。
衛兵の言葉を聞いて反射的にそんな予想を立てた。
「いいから下がってて下さい!今あなたのその状況ではまともに戦えず迷惑がかかるだけです!」
穏やかだった少年に強くキッパリと言いつけられて再び押し黙った。
「僕達はあなたがなぜ国王を殺したのかは知らないし訊かない。訊いたところで無駄だろうからね。だけど、あかたが起こした行動は何を引き起こすか解ってるのか!」
暗殺者はレオンの強い問いに答える代わりに剣を抜いてきた。