第3幕~異世界での食事~
「とりあえず……どうする?」
レオンとは違いこの世界で生活することを早く受け入れたセイナが訊く。
「そうだね……とりあえずは食事にしない?そういえば僕達まだもとの世界で何も食べてないから」
「この世界にも美味しい店ってあるのかしら?」
「さぁ?訊いてみよっか」
そういうことで町行く人に訊くことになった。訊く人の狙いは、美味しい店を知ってそうな中年の男性で、それでいて話しかけやすそうなオーラを出している人。
町行く人は多くてさっきまで狙いの人はたくさん通っていたのに、いざとなれば全く見当たらない。レオン達は自分達のつきのなさに呆れながら探しているとようやく見つけることができた。
「あのぅ、すいません。この辺りにご飯の美味しい所ってありますか?」
「君達はここに来るのは初めてかい?」
「はい、僕達はちがうせか……うぎゃっ!」
最後の悲鳴はセイナが後ろから強くレオンの背中をつねったせいだ。いたがっているレオンをよそに何事もなかったかのようにセイナが代わりに答える。
「そうです。私達は違う街から来たんでここのことはあまりわからないんです」
「やっぱりか。じゃあとっておきの店があるよ。そこの角を右に曲がってすぐのところにある《ガイア亭》っていううまい店があるぜ」
「ありがとうございます。行ってみます」
セイナは親切に教えてくれた人に礼を言って、強引にレオンの腕を引っ張って教えてもらった通りに角を右に曲がった。そこでようやくレオンを解放した。
「行きなり何すんのさ」
「それはこっちの台詞よ。レオンは優等生だと思ってたけど……私の勘違いだった?」
「何がだよ?」
レオンは高貴な生まれのためしっかりとした教養があった。そのため学年では常にトップの成績を残し続けていた。だが、優秀なのは成績面だけでこういった日常生活では、実は抜けてたりする所があるのだ。
そんなことを知らないセイナの方はというと、成績は悪くもなく良くもなく、謂わば真ん中辺りだった。だけど頭の回転は早く、状況に応じた判断ができる。
「何がじゃないよ!あのねぇ、この世界はこの世界なの。別の世界なんて言っても信じてもらえるわけないじゃない!」
「ご、ごめん」
セイナの言葉を聞いて悪いと思ったのか、素直に謝る。急に大人しくなったレオンを見てセイナは笑って許す。
二人はその《ガイア亭》に入った。その瞬間唐揚げやしょうが焼きのいい匂いがして余計に二人の食欲をそそった。それに中は現実と同じような雰囲気を出していて全く違和感を感じない。
これまた現実と同じように店員に案内され、席についてメニューを開く。どうやらここは定食が中心のお食事処らしい。
ボタン押し店員を呼び、二人はさっきから匂いごしている唐揚げ定食、しょうが焼き定食をそれぞれ注文する。
「この世界の料理ってどんな味なんだろう?」
どんな料理があるのかメニューを見つめながらセイナが呟いた。
「さぁ?でもさすがにこの世界の料理は…………どうなんだろ?」
他の客の料理を見た限りでは見た目は現実のものと同じ。問題は味だ。見た目はよくとも味がイマイチじゃあなんの意味もない。でも周りの人も平気で食べているなら大丈夫なのだろう。もしくはこの世界の人の味覚がおかしいだけなのか。それは食べてみないとわからない。
レオン達にとってこの土地を知っていてもこの世界は未知なる世界だ。この世界での初めての出来事が好奇心刺激させる。その最初の体験が食事。食事は毎日欠かすかとのできないものだから重要だ。
レオンとセイナが話している間に料理が二品やって来た。今は夏だから湯気は出ていないが美味しそうだ。
その料理の見た目に我慢できずレオンは早速唐揚げを一つ箸でつかんで食べる。すると口の中に入れて噛んだ瞬間肉汁が口の中いっぱいに広がりものすごく美味しい。現実と同じぐらい、もしかしたら現実以上かもしれない。その感想を一部省略しセイナに伝える。
セイナはセイナでレオンに感想を伝えてから二人は食事に没頭し始めた。
最初の感想以外終始無口で食事を終え、店から出てきた二人は少し戸惑っていた。
その理由は金銭的なことだ。これまで何一つとしてもとの世界と違わなかったが、ここに来て初めて違いが生じた。
貴族の端くれであるレオンには金貨と銀貨の価値ぐらいならまだなんとか理解することができた。だが実際にはそれでもない。実際に使用されていたのはただのコインだった。
レオン達の持っているコインはβテストの時の所持金が引き継がれ、コインに換算されていたために足りなかった訳ではない。この世界の一コインは現実の五百円より安く、百円より高い。この世界専用の通貨はコインだけらしい。