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Beautiful Life  作者: 水霧
2/5

トイレ

 サブタイトルの通りです。下品な表現は控えていますが、お食事中の方や気が進まない方は控えたほうがいいかもしれません。

 僕はとあるIT企業の社長だ。パソコンや携帯電話など、あらゆる分野に手を延ばし、成功を収めてきた。中でも情報の電子化は神がかり的だ……。紙なんてものは、もはや時代遅れ。これからは紙なんてものは必要ない。タブレットや携帯電話で情報交換を行う時代なのだ!

 さて、今はオフィスでお茶をたしなんでいるところだ。紙ならば、デスクでお茶を飲むなんてことは愚行に近い。しかし、僕の周りにはウォータープルーフの電子機器しかないから、万が一溢しても問題ない。しかもバックアップは済んでいるから電子機器が故障しても全く問題ない。……ちょっとお値段が高いけど。

 ん? ちょっともよおしてきた。僕は生まれつきトイレが"ちかい"体質のようだ。よく水を飲むからだとは思うんだが……健康診断でも問題ないそうだから大丈夫だ。

 早速トイレ……いや、これは時間がかかりそうだ。何で急に猛烈な便意が……!

 謎の激烈な便意を我慢し、トイレのドアを押し退けて駆け込んだ。ちょっとばきばきって音がしたけど……本当に危機的状況なんだ。ぶち壊すくらいの勢いだったかもしれんが、水に流してほしい。そう、トイレだけにね。

 …………そうかさないでくれ。この時間は人間にとってデリケートな時間なのだ。

 ……ふぅ、よし。用を済ませ、清拭と排水を終え、仕事に戻る。

 仕事に戻る。

 仕事に戻る……。

 ……仕事に……。

 …………。

 何ということだ。

 ……ドアが……開かない!

 ドアが壊れてしまったのか? 確かに、先ほどの衝撃で壊れてしまったかもしれないが、そうだとしてもノブが動かないほどの衝撃とは、いかがなものか……。

 あいてくれえぇぇぇっ!

 僕は必死にドアノブをねじるが、ガチャガチャ言うだけで開きやしない……。ちなみに、我が社のトイレは一般家庭のようなトイレにしてある。なぜなら、トイレはアイディアが生まれやすい場所であり、一般家庭のトイレにした方がよりリラックスできると考えたためだ。したがって、内装やドアの形式、ドアノブは一般家庭のものにほぼ等しい。片開きで丸いノブがついていて、広さは人二人分。水洗トイレはひざ下の高さで、ウォシュレットはついていないが、便器を温める機能はついている。ちなみにウォシュレット導入を検討しているところだ。

 ……話を戻そう。誰かに助けを呼ぶことは容易だが……社長がトイレで閉じ込められたなんて醜態をさらすわけには……いかんっ! きっと"◯◯◯マン"などのアダ名をつけられることになってしまう!

 ……ん? ドアノブ……そうか! 鍵をかけたままだったか!

 僕としたことが、危機的状況で無意識にロックしていたのだろう。これじゃあ開きようがないな。ちなみに鍵はノブについていて、ひねって開閉を操作するタイプだ。

 ……やっと外に出られるぞ。僕は鍵をクルリと三百六十度回してドアノブを動かした……が、動かない。

 ……僕は鍵をクルリと〝三百六十度〟回してドアノブを動かした……が、動かない。

 …………。

 ……なんだどおぉぉぉぉっ? 動かんとはどういうことだべやっ? なんでだべ? いみわからんっちゅーに! っといけないいけない……パニックを起こすところだった。おちつけおちつけ……。

 鍵は取っ掛かりなく見事にクルクル回る。ロックが解除される様子はない。おそらくガチャガチャと乱暴にノブを回したせいだろう……。くそ! おちづぎゃよかった話だんべよぅ!

 ぬっ? またも便意がぁ、って……紙がねぇじゃねぇぇかぁぁぁやぁぁ! どうすっぺこりゃぁ! と、とにかく出すもん出さんと死んじもう! ……ふぅ。

 ……落ち着こう。もはや一刻の猶予もない。社長である僕がここに閉じ込められて、もう一時間だ。ランチタイムはとっくに終わっているし、社員が僕を探しているに違いない。もし脱出する前に見つけられたら……おわりだべ……。

 もはや蹴破るしかない! が! 紙がなく、清拭せいしきを終えていないこの状態で脱出するのは……衛生的倫理的社会的道徳的に極めて問題だ。しかし、変わりなるものは……携帯電話、タブレット、サイフ、スーツやワイシャツ……こんな時に役に立たぬものばかりではないか!

 仕方が無い……ワイシャツに犠牲になってもらおう……。

 …………よし、出るぞ。いや、脱出するぞ! 僕は思い切りドアを蹴破った!

 いったぁぁぁ! あっしいったっ!何でこんな硬いんだよ! ビクともしないじゃないか!

 どういうわけか押しても蹴ってもビクともしない。……まさか、誰かが向こうから押し返しているっ? ばかな! そうしたら、ここで二時間半もずっと待ち構えていることになるぞっ? 社員はそんな暇はない……いや、もしかして……霊的なもの……?

 実はこれは一度や二度じゃない。家でも飲み屋でも、たまに起こることなのだ。いくら開けようとしても開けられない……。家内にも話したのだが、気味悪がって、近日中にお祓いを検討していたくらいだ。うお……悪寒でまたしても便意がぁ……もはやワイシャツなど、布切れにすぎん! これはお腹を壊した可能性があるな……。

 もうここまできたら、恥を捨てるべきだ! 呪い殺されるくらいなら、どん底に落ちて這い上がることを選ぶ!

 僕は携帯電話を取り出した!

「もしもし、高野っ!」

「しゃちょおおぉぉ! どこにいらしてるんですかっ! 今◯×社との重要な交渉が! 社長がいないとぉ、」

「それどころではない! 今すぐに社長室の近くのトイレに来てくれ! トイレに入って一番奥の個室だっ!」

「は、はいぃぃ!」

 僕は便器に踏ん反り返り、水を流しながら覚悟を決めた。ヤツは僕の右腕、戦友だ! 秘密にしてくれるに違いない!

 トイレに誰か来た。高野だ! 万が一のために、呼びはせず、ドアを叩く。

「社長! どうかしたのですか!」

 高野はドアを蹴って入ってきた。

「……え?」

「た、かの……」

 蹴って……入ってきた……?

「ってことは……」

 このトイレ……、

「内開きだっぺかぁぁぁ!」



 あれから日が経ち、我が社の経営はうなぎ上りだ。まさに頂きを制覇せんが如し。

 僕はのんびりとお茶をいただく。うーん、少し渋いこの味がたまらん……。そしていつものようにトイレへ向かった。また便意だ。しかし、焦る必要はない。……また紙がない。しかし心配する必要はない。なぜなら、

「……ふぅ」

 ポケットティッシュ収納可能ス〇ホハードケースを開発したからだ。これさえあればティッシュを忘れる心配は全くない。何にも困らない。

 今、あらゆるものが電子化されているこの時代で、紙を電子機器と一体化させるという、まさに逆転の発想を打ち出したのだ! この商品はかさ張ることなく、従来通りの操作性を実現させた。特にティッシュを多用するが忘れやすい人に大好評だ! 実に素晴らしいとは思わんかね。

「ふふふふ……」

 もはや笑みをこらえられん。

「あ、あの社長」

「何かな?」

「お茶を飲まれましたよね?」

「あぁ、実に美味しかったよ」

「実はあのお茶……」

「?」

「腐ってたんです」

「……」

 また新たな商品を生み出すかもしれない。




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