ACT.53 バトルの後
バトルから5分後……。
サクラのJZA80とヒマワリのSW20が妹のアルテッツァのいる頂上へ来る。
頂上へやってきた2台からドライバー、JZA80からはサクラ、SW20からはヒマワリが降りてくる。
「サクラ姉ちゃん……負けちゃったよ、ボク───」
「──構わない……お前はよく頑張った──今回のバトルは結構参考になった……」
いつものサクラの通り無口な口調であるものの、負けたモミジを優しく慰める。
「──大崎は新技使ったらしいな……ゼロカウンター・ドリフトという奴を──」
「そうだよ。大崎はゼロカウンタードリフトという新技を使ったんだ。ボクは2回ブロックできたけど……最後の5連続ヘアピンの3つ目でやられたんだ」
「──お前は2回ブロックしたと言っているが……大崎は技とブロックされんたんだ……」
「わざと……ブロックされた──!?」
5連続ヘアピンの1つ目と2つ目でモミジは低速ドリフトで翔子をブロックできたと思った。
だが違った。翔子はわざとブロックされたんだ。そのことをモミジは知ってしまった。
「──大崎のやっていたことはいわゆるだまし討ちだ……2回アウト側に入ってわざとブロックされる──それはワンパターン戦法で使っていると思わせてアウトに入り……相手を動揺させるためにわざとブロックにはまった……3回目ではアウトじゃあなくインに入り──攻めにいった。モミジはゼロカウンタードリフトだけでなくだまし討ちに破れたんだ……」
サクラは第5ヘアピン3つ目での翔子の追い抜きは騙し討ちだと語った。
つまり、翔子は敵を騙して勝つという、えげつないやり方をやって追い抜いたのだ。えげつないと言っているが、けして“卑怯なやり方”というものではない。
「騙し討ちで追い抜いたんだね……これからボクはそれを気をつけるよ」
「──オレの言っていることはわかっただろ……これからのバトルに役立てるといい─」
モミジは敗北したが、この敗北はモミジの成長に役立ったかもしれない。
バトルの翌朝。午前6時。
今日は5月4日の祝日、みどりの日だ。
みどりの日とはゴールデンウィークの休日のひとつ。元々みどりの日は昭和天皇のお誕生日、4月29日だった。なぜなら昭和天皇は植物に造詣が深く、自然をこよなく愛したことから『緑』にちなんだ名がふさわしいから4月29日はみどりの日という名前になる。
その後2005年の祝日改正法でみどりの日は4月29日から5月4日に変更された。
祝日の朝、智の家では熊九保らRB20三人衆が来ている。
今日は祝日なので大学はお休みだ。
「大崎さ~ん。すごいですね~サクラだけでなく、妹のモミジに勝つとはすごいですね」
「熊九保、サクラの妹は1人だけじゃあないぞ。次女のヒマワリがいる」
「あぁそうでしたか、智さん。ウェヒヒ、忘れました」
サクラの妹はモミジ1人だけではなく、次女のヒマワリもいるぞ。
「大崎さんに聞きますけど、モミジを追い抜いた技、ゼロカウンタードリフトってすごい技ですか?」
「すごいよ。コーナーでは速く曲がるからすごいよ。その代わり……タイヤが曲がっていないから派手じゃあないよ」
「じゃあドリフト大会に向いていないィィ──?」
「そうだよ」
ゼロカウンタードリフトはあくまでも速く走るためのドリフトだ。
魅せるためのものではない。
「あと、大崎のゼロカウンタードリフトは私を追い抜いた技でもあるぞ」
「へぇ~大崎さんが智さんを追い抜いたんですか!?」
「といっても、本気で走っていなかっただけだ。40%、いや30%以下の実力ぐらいしか出していなかったぞ」
「智さんは手加減していましたか……おらもゼロカウンタードリフト使いたくなりましたよ」
この話を聞いて熊九保はゼロカウンタードリフトを使いたくなったらしい。
「使いたいようだな……私が教えてやろうか?」
「教えてほしいですッ!」
「と言っても……冗談だ」
調子に乗った智が冗談で教えてやろうと言ったのだった……。




