ACT.50 2台のかけひき
夜9時、赤城山。
もうバトルの1時間前だ。
スタート地点前の駐車場に3台のセダンが来る。RB20三人衆が来た。
3台のセダン、C33型ローレル、R32型スカイライン、A31型セフィーロから3人の少女が降りた。
「今日はギャラリーの数が多いなァ……」
熊九保が周りを見回すと、ギャラリーの数は多いと分かる。
今回のバトルが注目されているのか、それとも今日はだったのか、とてつもなくギャラリーが多いと分かる。
「ギャラリーの数は……1万越えるかもしれへん!」
「本当に多いね」
川畑と小鳥遊はギャラリーの数を数える。
果たしてギャラリーの数は何人いるんだろう?
(むぎゅうッ!)
「うわッ! 苦しッ!」
「な……なんやねんッ! 押してくんなッ!」
ギャラリーが多すぎるあまり、熊九保と川畑が体が押されていく。
「く──くにちゃんも押されるよォ……。おしくらまんじゅう、おされて──あぁーーーーーッ!」
小鳥遊も押されて悲鳴をあげる。
ギャラリーが多すぎたらこんなに苦しいのか──。
スタートライン。
ここに雨原とその愛車・FDが止まっている。
「大崎、あたしとのバトルでは負けたけど、あたしは久しぶりに全力の40%以上を出した。あたしは強い走り屋相手でも全力の20~30%、またはそれ以下しか出さずに走っていなかったけど、40%は久しぶりだぜ。大崎はあたしを本気にした相手だ、彼女はすごい走り屋だと思うよ。あたしを越える走り屋はサクラかその妹しかいなかったが──」
この前、翔子と雨原が戦って、雨原が勝利した。
雨原は負けた翔子に「赤城最速に戦うのはまだ速い」と言っていたが、逆に雨原は最近のバトルでは1番の全力を出させた相手だと賞賛を送っている。
「あたしの<ラヴ・カウントダウン>は手加減した走りには使わない。この技は久しぶりに使ったぜ」
雨原の必殺技、<ラヴ・カウントダウン>は手加減した時には使わない技だと言っている。
「けど、50%以上を出せる走り屋にならないと話にならないぜ。最近は50%以上の走りをした走りはしたことはない。この雨原芽来也を本気にさせる相手を楽しみに待っているよ。さて、今回のバトルだが、今回は頭脳と腕、作戦の戦いになるな」
雨原が言う今回のバトルは、頭脳とドライバーの腕、そして作戦のぶつかり合いになると予想した。
「モミジの頭脳と、大崎の腕がぶつかり合う。モミジは強いぜ、大崎。モミジは<オーバー・ロード>は強力だ。その技を知らねー大崎にはこの技を攻略できねーだろーな」
モミジには<オーバー・ロード>という必殺技がある。この技を攻略出来たのはたった3人のみ。翔子が喰らったら負けるのが見えている。
「来たッ! サクラさんたち3姉妹が来たッ!」
サクラの80を先頭に、ヒマワリのSW20、今回の主役のひとり、モミジのアルテッツァの3台が来る。
「よぉ来たなッ! 今回の主役もやってきたなッ!」
「──大崎はまだらしいな……」
「もう一人の主役、大崎はまだ来ていないぜ大崎が来るまでにあたしたちは待つとするか」
まだ翔子は赤城山にいない。
「モミジ、ウメさんから作戦聞かれたって?」
「そうだよ、最初は後攻で行けと言っていた。ボクのほうが加速が遅いけど、言われたとおりにまずは後ろに突く。だいぶ進んだら<オーバー・ロード>で追い抜いてやる、ボクの<オーバー・ロード>であいつなんかイチコロさ」
モミジは母親から言われた作戦のことを言う。
この母親から言われた作戦で翔子を懲らしめてやろうと言っている。
9時15分頃、智の家。
「もう9時だぞッ! バトルに遅れるぞッ!」
「ハーイッ! 分かりましたァーッ!」
智の呼びかけに応じて翔子は急いで玄関に来る。
翔子が玄関に来た後、2人は家の隣に置いてあるワンエイティに乗る。翔子は運転席、智は助手席に座った。
「今日の昼言ったことを覚えているのか?」
「忘れそうですけど、覚えています。昼のことを忘れたらおれは負けると思います。あれは勝つのに重要なポイントか……」
昼、智は翔子にアドバイスをした。
これを忘れたら負けると翔子は考えている。
(──智姉さんを抜いたことかあァ……)
朝、智のR35をどうやって抜いたのかがヒントになっている。
「じゃあ、出発するぞ」
エンジンを掛けて、ワンエイティは出発を開始。
家を出て、赤城山へ向かった。
戻って、赤城山。
モミジはなにか語っている。
「大崎のワンエイティにはBNR34GT-Rに積まれていたRB26DETTを搭載している。RB26DETTを搭載したことでハイパワーとなったけど、エンジン交換してパワーを得ることは欠点がある。それは重さだ」
翔子のワンエイティに搭載されているRB26の欠点を語っている。
「RB26DETTは重い。ライバルの2JZ-GTEの200kgと比べると、RB26DETTは250kgと重いエンジンだ。これはエンジンを支えるエンジンマウントを強化してしすぎたことが原因らしい。エンジンの重さがGT-Rがフロントヘビーの原因を作っている。ワンエイティはGT-Rと違ってFRなので別だが、重いエンジンを載せることでハンドリング性能を悪くしている。エンジン喚装は諸刃の刃なんだ」
自動車の改造にはエンジン喚装というものがある。翔子のワンエイティ、雨原のFDはこのチューンをしている。
エンジンを別の車のものに交換する改造のことで、ドリフト選手権やGT選手権にはこのエンジン喚装というチューニングを行っている場合がある。エンジン喚装することでハイパワーを得られ、加速力が高くなるという長所があるものの、逆に車重を重くしてコーナリング性能を落とす場合もある。モミジの言っているとおり、諸刃の刃なのだ。
「お母さんの作戦だけでなく、エンジン喚装した相手には突っ込みを優先した走りをしよう。そうすれば勝てる」
翔子のワンエイティの車重は1240kgでこれはノーマルのワンエイティと同じ車重だ。翔子のワンエイティは軽量化がされているものの、エンジンが重すぎるせいで車重はノーマルと変わらなくなっている。
これをモミジは目を付けた。コーナリングの突っ込み重視の走りをすれば勝てると考えている。
「雨原さんッ! ワンエイティが来ましたッ!」
「!?」
赤城の山に翔子のワンエイティが来たという報告がやってきた。
赤城山のふもとに1台の赤白黒のGTウイング付きのスポーツカーが走っているのが見える。
「うわァッ! 今回ギャラリーは多いですね」
「今日は6連休の初日だ。ギャラリーが多いのが分かるだろう」
改めて言うが、今日は5月3日の憲法記念日。ゴールデンウィークの6連休初日だ。
6連休なので群馬に帰省したと同時にこのバトルにギャラリーしに来た人たちはいっぱいいる。
「あれが葛西サクラ、柳田マリア、戸沢国光を倒した16歳の少女が乗る噂の車かッ!」
「ワンエイティの女の子ッ! 今日のバトルも勝ってッ!」
「俺は応援してるぞッ!」
「かわいいし、速いッ! 結婚してほしいなッ!」
左右から応援の声が響く。
応援が届く一方、
「おい小娘ッ! DUSTWAYにまた泥を塗るんじゃあねーぞッ!」
「勝ったら許さねーからなァッ!」
とアンチ大崎翔子の声も響いてくる。人気者にはアンチが付き物だ。
「おれのこと、見てますね」
「気にせず行け」
智にそう言われるとスピードを飛ばして、夜の峠をドリフトしながら登っていく。
「ラッキーッ! 試合前にドリフト見せてもらったッ!」
バトル開始前にも関わらず、ドリフトを見せた翔子に声援が沸く。
「音が聞こえるぜ──」
「光が見えてくる──」
「大崎のワンエイティだッ!」
翔子のワンエイティが頂上に来る。
ワンエイティがDUSTWAYのいる頂上に着くと、乗っていた2人の女が降りる。
「やっと来たな、大崎。相手はサクラの妹だけど結構速いぜ。覚悟して戦いな」
「それは分かっているよ」
「大崎翔子、サクラ姉ちゃんがお前に勝てなかったのは自分らしい走りができなかったと言っている。ボクはサクラ姉ちゃんの仇を取ってやる。ボクらしい走りで勝ったてやる」
サクラの敗因は「自分らしい走りができなかった」と語っている。
モミジは姉の仇を取ってやるつもりだ。
「ボクはお前の弱点も分析した。ボクの<低速ドリフト>はお前の技から作った技というのも知っているんだろ? ボクは完璧だ、ボクはお前のことを分かっている」
「おれは君のことは強いと感じているよ。オーラが見える。前に戦った戸沢国光より強いかもしれない」
翔子にはモミジからオーラが見えると言う。
(オーラ──? ボクに見えると言うけど、ボクは大崎からオーラは見える。怖そう)
モミジの目には翔子からオーラが見えていた。波紋のようなオーラが見える。
「じゃあもう10時だ。始めようぜ。ボクは並ぶ」
「おれも並ぶよ」
もう10時から来る。
バトルが始まる10時が来るのでバトルする2人は車に乗り始めた。
バトルはダウンヒルだが、翔子のほうはダウンヒルとは向きが逆のヒルクライム向きになっているので、180度ドリフトでUターンしながらモミジアルテッツァと同じ向きにしてスタートラインに並ぶ。
「雨原さんッ! カウントはオレがやるッ!」
「ヒマワリ、行けよ」
スタートの合図はモミジの双子の姉、ヒマワリがやるらしい。
「よぉーしッ! 10秒でスタートするからなッ!」
スタートの合図をヒマワリは始める。
「10秒ッ! 9ッ! 8ッ! 7ッ! 6ッ! 5ッ! 4ッ! 3ッ! 2ッ! 1ッ! GOッッ!!」
ヒマワリがスタートの合図を終えると2台は出発を開始する。
翔子が先行を走る。
モミジは母親の助言通り後攻を選んだ。
「お母さんの言う通り後攻を選んだ。後はしばらく後ろをついて行けばいいんだね。しばらく走ったら抜けばいいと」
母親のアドバイスをモミジはひとつ達成したようだ。
「相手はどう攻めるんだろう。後ろを見ればよそ見だし、出来ればうしろはみたくないけど──」
前の翔子は相手の様子をうかがっている。
相手の走りが気になるようだ。
直線は終わって、最初のコーナーに入るッッ!!
「150km/hの<高速ドリフト>ッッ!!」
「<高速ドリフト>、使ってきたか」
最初のコーナーを翔子は高速ドリフトで抜ける。
「<高速ドリフト>をいきなり使ったね。ボクの<低速ドリフト>は攻撃に使えないけど、そのままついて行こう」
モミジの低速ドリフトは攻撃には使えない。
使えるのはブロックだけだ。
最初のコーナーの次は3連続ヘアピンに入る。
「速いッ! モミジの突っ込み速いッ!」
3連続ヘアピンではモミジの突っ込みは鋭くなっている。
アルテッツァの鋭い突っ込みが3連続で翔子のワンエイティに襲いかかる。
「現在、互角だなァッ!」
「これぐらい互角とは思えなかったぜッ!」
今のところ、2台は互角に戦っている。
攻めて、攻めて、攻め合う。
2台のかけひきが行われている。
「なんだァ!? 冷たいぞ?」
ポツン、ポツン、
空から水のようなものが落ちてきた。
「もしかしたら……雨ェ!?」
雨が降ってくるようだ。
頂上の雨原たちは……。
「ちょっと冷たいな──うっ、雨だッ!」
雨原が触れた冷たいものとは、やはり雨だった。
今日は雨が降らないと天気予報が言っていたが、天気予報の予想が外れて雨は降ってきた。
モミジとのバトルが始まりました。
最後は雨が降ってきましたけど、主人公は勝てるのでしょうか?
読み終わったら、感想ください。




