ACT.28 追い上げ
2連続ヘアピンで戸沢は翔子を抜いた後、さらに離していく。
翔子の前には戸沢はいない。
「あのDC5は速いッ! FFとは思えないテクニックで抜いてきたッ!」
「あの抜きかたはタックインだべッ! タックインはFF用の技っしょ、アクセルを抜いてオーバーステアを出しながらコーナーを攻める技だ 」
戸沢の素早い抜きかたに翔子を衝撃を受ける。
FFとは思えない追い抜き方に驚いたのだった。
その抜きかたとはタックインだと熊九保は説明する。
「けど、熊九保さんFFは好きじゃないのにそんなの知ってるのォォ?」
「おらがFF車と戦う際、それに警戒するために知ったテクニックだべッ! FR乗りでも知っている人もいるべッ!」
タックインを説明した熊九保に翔子は"なんでFFが好きじゃないのに知っているの"と突っ込む。
翔子、FR好きでも知っている人もいるぞ。
後行になった翔子はワンエイティを進ませていくが、まだまだ戸沢には近づけない。
先行する戸沢は次に右コーナーを入る。
強くブレーキを踏んで、ハンドルを曲げ、それを抜けていく。
「おお、すげえェーッ! 戸沢の車には馬力、駆動方式のハンデがあるが、一回り上の性能を持つワンエイティを離していくいッ! やっぱ隣は違うねェーッ!」
戸沢の速さにギャラリーは驚く。
今回の相手は強すぎるッ!
この強敵に翔子は勝てるのかッ!?
「だいぶ距離を離したようだな。距離を離したがら後行で使っているアレを使おうか」
距離を離しているというのを見て、アレを使い出す。
「おおォォ!! 無灯火走行を使い出したッ!」
DC5のヘッドライトが消えたッ!
そう、戸沢得意の無灯火走行だ。
熊九保曰く"戸沢は後行の時しか無灯火走行をしない"と、戸沢が無灯火走行を使うのは後行の時だけだったものの、先行の時も使うようだ。
先行に使うタイミングは相手との距離を離した時のみ。
「先行の時に使う無灯火走行は後ろの相手が俺の姿を見えなくするために使っている。先行時の無灯火走行について行ける奴はほとんどいない、前に俺がいないと思って諦めているからだ」
「戸沢が先行で無灯火走行を使ってことは……も勝ったってことだッ!」 このバトルは勝敗が決まったなッ!
なぜ離した時に使うっていうと、自分の姿を遙か後ろにいる相手に見えなくするためだ。
相手に自分の姿を見えなくすることによって距離を離しているように見せ、離しているように見せることによって相手はやる気を失い、ペースが落とす。
この先行時の無灯火走行はギャラリーたちにとっては戸沢の勝利の合図だ。
周りから光を消したDC5は左コーナーに突入して、それをクリアしていった。
一方、戸沢が左コーナーをクリアした頃、後攻の翔子は右コーナーに入っていた。
「朝言えなかったことなんですが、戸沢は無灯火走行を使うことあるらしいです。相手との距離を離していると相手に自分の姿を見えなくするために使うそうです。この技が出るとギャラリーは戸沢が勝ったって思われるらしいです」
熊九保は翔子に話しかける。
先行でも無灯火走行を使うこともあると翔子に伝える。
「そんなの早く言えばいいはずだったのにッッ!! どうして速く言わないのォ!?」
そのことを早く言えばよかったのにと翔子は怒る。
「ごめん、言い忘れてて──。あの技がでたら大崎さんは負けたってギャラリーたち。速く追いつかないと負けたと言われてしまう……ッ! 」
「負けたって騒がれる……? 速く追いつかないと……ッ!」
速く追いつかないとギャラリーたちが負けた負けたと言われる。
もう遅い。戸沢は先行時の無灯火走行を使ったため、今頃ギャラリーたちは戸沢は勝ったと騒いでいる。
けど、翔子は諦めない。戸沢に追いつくためにコーナーを豪快なドリフトで抜ける。
戸沢が抜けた左コーナー、
ここにはWINDSONICの雨原とサクラがいる。
「戸沢が勝ったッ! 戸沢が勝ったッ!」
2人の前にいるギャラリーたちは戸沢が勝ったと騒いでいる。
「状況的には戸沢が勝ったと言われているのか、最後の連続ヘアピンで勝負が決まるというサクラの予想は外したな」
「──オレの予想が外れるとはな……」
サクラの予想は外れた。
サクラの予想といえば"途中までは互角だが、5連続ヘアピンで勝負が決まる"だった。しかし、それは外れている。
今のところ戸沢優勢で、翔子は不利だ。
戸沢はサクラの予想を外すほどの強敵だ。
「──新たな予想をするぞ……。戸沢国光は最後の5連続ヘアピンで抜かれる……」
予想を外したサクラは新しい予想をした。
戸沢は5連続ヘアピンで翔子に抜かれるという予想だ。
「抜かれるだとォ? 冗談じゃねーぞッ! 戸沢は勝つとギャラリーたちは騒いでるんだぞッ! 抜かれるってどういうことだッ!」
なぜサクラが戸沢が抜かれるという予想をしたのか、雨原は分からない。
「──無灯火走行には弱点があるからだ……。ヒントは大崎が諦めないことがポイントだ……」
サクラの眼は鋭かった。
無灯火走行には弱点があるということを言ったのだ。
その弱点とはなんだろうか?
第3高速ヘアピン。
ガードレールの奥に2人の美少女ギャラリーがいる。
緑髪ポニーテールの小柄な少女とオレンジ髪ツインテールの小柄な少女、
それはWINDSONIC・葛西サクラの2人の妹で二卵生双生児の双子、葛西ヒマワリと葛西モミジだ。
「戸沢が来たぜッ!」
白いDC5インテグラがガードレールの奥にいる2人の少女の前を突き抜ける。
「ちょっと遅くなっていると思う」
「どうして遅くなっていると言ってるんだッ!」
モミジは戸沢が遅くなっていると見る。
「それは無灯火走行が原因だと思う」
無灯火走行が原因で遅くなっていると言う。
「なぜ無灯火走行が原因なんだァ!? モミジ!?」
どうして戸沢が遅くなっていることは無灯火走行が原因なのかヒマワリは聞く。
「先行で無灯火走行を使っている戸沢は前があんまり見えない。前が見えないからぶつかるかもしれないという恐怖心が出てしまい、スピードが遅くなっている」
なぜ無灯火走行が原因で遅くなっているとモミジは言っているのか、前が見えないから事故を起こすかもしれないという恐怖心が現れていると語る。
事故を起こすかもしれないという恐怖心が原因で戸沢のアクセルペダルを踏む力を弱めてしまい、DC5のスピードは遅くなってしまった。
「戸沢が無灯火走行が出たらみんな勝っていると思っているだろう。それは不利だから諦める勇気のない人は着いていかず、不利でも諦めない勇気のある人は着いていく。つまり勇気のある大崎には先行時の無灯火走行が通用しなかったんだよ!」
先行時の無灯火走行は距離があるように見せる技で、勝負のやる気をなくすものだ。
勇気のない人は着いていかなくなるが、勇気のある人は着いていく。
つまりその技は、勇気のない人には通用し、気のある人には通用しない技だったのだッ!
「来たぞッ! RB26の音がするッ! 大崎のワンエイティが来るんだッ!」
翔子のワンエイティが高速セクションに来る。
飛行機のような音と加速力で差を追い上げる。
「さすが勇気のある走るだッ! どんどん追いついてくるッ! イーネッ!」
戸沢を追い上げてくる翔子の走りをヒマワリは"勇気のある走り"だという。
このヒマワリが言った「イーネッ!」は彼女の口癖だ。 これを言うとき、右手の人差し指と親指を90度に広げ、あごの左あたりに当てる。
「バトルが面白くなるのはここからだ。ここから本当の勝負が始まるッ!」
モミジの言うとおり、ここから勝負が面白くなるんだッ!
バトル最後の舞台は4連続ヘアピンだ──。
ダウンヒル最後の4連続ヘアピンに入ったのは戸沢のDC5だ。
「行くぜッ! ここからラストスパートだッ!」
先に入ってきた戸沢は第1ヘアピンを通る。
「ん? 後ろが怪しいな……何か音がする? 大崎のワンエイティが来るッ!?」
戸沢のずっと後ろに何かエンジン音がする。
翔子のワンエイティが来るんだッ!
「戸沢ァ、おれは君を追い抜くよッ!」
「いいですよッ! もっ攻めてくださいッ!」
戸沢が第2ヘアピンに入った頃、
翔子も4連続ヘアピンの第1ヘアピンへ入る。
ものすごいスピードでドリフトしながだ突っ込むッ!
「見えてきたッ! 暗くて見えにくいけど、白いDC5が戸沢の車のだッ!」
ついに翔子の眼に見えてきたッ!
戸沢のDC5の後ろ姿が見えてきたッ!
「後ろからどんどん差を縮められるようだ。ライトを点けよう」
戸沢と翔子の差はどんどん縮められ、第2ヘアピンでついに翔子はすぐ後ろへと襲いかかるッ!
差を縮められた先行の戸沢は消していたヘッドライトを点灯させる。
「ヘッドライトを点灯させたようだね」
「大崎さんが差が縮めたからです」
差を縮めたことから戸沢はヘッドライトを点灯したんだ。
後行の翔子は戸沢の後ろを追いかける。
「俺は逃げてやるッ! 逃げて勝利を掴んでやるからなッ!」
絶対に逃げてやろうと戸沢は本気だ。
2台は第3ヘアピンに入る。
「ここで追い抜いてやるッ!」
翔子は戸沢を追い抜こうとするが、
「抜かせないッ!」
それを戸沢はタックインしながらブロックした。
「残りコーナーはあと2つ。2つを頭で抜ければ俺は勝てる」
もう残りコーナーは2つ。
長いバトルはもうすでに終盤だ。
このバトルも勝者は、
赤白黒の3色ツートンのRPS13型180SXを操る後行の翔子かァ?
それとも、白いDC5型インテグラを操る先行の戸沢かァ?
バトルは第4ヘアピンへと入る。
「また追い抜きを防いでやるッ!」
先に入った戸沢はタックインで入する。
そのタックインでブロックをしだした。
「この技で防げば──俺は勝つッ!」
タックインで追い抜きで防いでやると言う。
「もう俺は勝つはずだッ! タックインでのブロックを貫通できないだろうッ!」
タックインでのブロックには勝てるはずはないだろと勝利を確信した。
がッ!
この後、後ろの翔子は恐ろしい走りをする──。
「なんだッ! あの走りはなんだッ!」
突然、戸沢は驚き始めるッ!
何があったッ!
「行くよッ! 直感からのハヤテ打ちッ! イケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケエェェェ!!」
翔子のハヤテ打ちが戸沢に炸裂ッ!
ハヤテ打ちは柳田を倒した技で、その柳田の親分である戸沢にも炸裂したッ!
そのハヤテ打ちで先行を奪うッ!
「やりましたッ! 大崎さんッ!」
「そのままゴールまで突っ走るよッ!」
先行を奪った後、そのまま最終コーナーへ突っ込むッ!
「イケェーッ! イケイケイケイケイケイケイケイケ、イケエェェェ!!」
豪快にドリフトを決めて、そのままゴールッ!
「やっと勝てたよ──隣チームのリーダーに勝てたよ……」
「結構強敵でしたね」
「そうだよ。相手は今までより戦った相手より強かったし……。負けると思ったよ──」
翔子は勝利した。
隣の榛名山のチーム、WHITE.U.F.Oのリーダー・戸沢国光に勝利したのだ。
かなりの強敵だった。
勝てないと思っていた。
高速セクション前、SAKURA・ZONE最後のコーナー。
「(ビッ!)こちらふもと、バトルが終了しました。この勝負は大崎が勝ったそうです」
「大崎が勝ったか……」
翔子が勝ったことを雨原にも伝わる。
「お前の予想が当たったようだな」
「──その通りだ」
サクラの"戸沢国光は4連続ヘアピンで抜かれる"という予想は的中したようだ。
本当に翔子は戸沢を4連続ヘアピンで抜く。




