ACT.25 前輪駆動と後輪駆動
翌朝、赤城山の頂上の駐車場。
ここには翔子と智がいた。
ワンエイティとR35もある。
「戸沢の愛車・DC5はインテグラとしては4代目、インテグラのタイプRとしては2代目に当たる」
智はDC5の解説をしていた。
それを翔子は聞いている。
「このDC5は北米ではアキュラRSXという名前で販売されていた。プレリュードと統合により4ドアは廃止され、3ドアのみになった」
DC5型インテグラはアメリカではアキュラブランドでRSXという名前で販売された(先代・DC2はアキュラブランドでもインテグラと販売されていた)
先代まで4ドアが用意されていたものの、プレリュードの後継という形も取り、廃止された。
「性能面では先代の1.8リッターから2リッターにアップした。このエンジンはターボが付いていないものの、リッター100馬力越えの220馬力というハイパワーを達成している」
「NAの2リッターで220馬力を達成するとはすごいですね」
「すごいだろ。ホンダはエンジン屋だ、リッター100馬力のエンジンはいくらでもある。ターボが付いていないエンジンばっかり作っているが、どれも高性能だ」
ホンダのエンジンはターボ付きはほとんどないものの、どのエンジンも性能が良く、評論家からの評価も高い。
スポーティーを求めるホンダのエンジンはリッター100馬力のエンジンはたくさんある。
ホンダのエンジンはリッター100馬力の宝庫だ。
リッター100馬力とはNAエンジン(ターボ付きじゃないエンジンのこと)に使われる。
1リッターを100馬力で割ったものリッター100馬力と言われている。
例えばNAの1.6リッターで160馬力を達成していると、これがリッター100馬力だ。
リッター100馬力は高性能エンジンの条件でもある。
「さらにホンダのエンジンはターボを付けていないのにエンジン性能を良くする技術が付いてある。それはVTECという可変バルブ機構というものだ。VTECはホンダのエンジンの代名詞であり、可変バルブ機構エンジン技術の代名詞でもある。VTECはレース用エンジンと市販車用エンジンの長所を組み合わせて、それぞれの短所を取り除いたものだ。低回転時は市販車らしく走るものの、回転数が増えるとレースカーらしく走るようになる。このエンジンは素晴らしすぎて欠点が見つかりにくい恐ろしいエンジンだ」
ホンダのエンジンはほとんどターボが付いていないが、変わりにそれらのエンジンにはVTECという可変バルブ機構技術が組み合わされている。
レース用エンジンは高回転ではとてもパワーがあるものの、低回転ではパワーはなく、燃費も悪い。逆に市販車用のエンジンは低回転ではパワーも燃費も良いものの、高回転になるとだんだんパワーが落ちていく。しかし、ホンダのVTECはそれらの欠点を解消させ、優れた所を両立させたエンジンで、低回転では市販車らしく走り、高回転になるとレースカーらしく走ることでパワーと燃費を両立させた高性能なエンジンだ。
これらの特徴から智が言うように、VTEC付きのエンジンは欠点が見つかりにくく、まさにホンダは世界一のエンジン屋と呼べるようなエンジンだ。
他にVTEC以外の可変バルブ機構付きのエンジンといえば、葛西サクラとかが乗っているJZA80型スープラの2JZ-GTEの「VVT-I」や、三菱ランサーエボリューションの4G63型直列4気筒シングルターボの「MIVEC」とかもある。
「しかし、エンジンは高性能でも、DC5には不満な点もあった」
「へえェ!?」
「フロントサスペンションはダブルウィッシュボーンからストラットに変更され、安全性のために車重は重くなり、内装の広くするために全高を高くして空力性能は犠牲にしてしまった。だがそれでも、スポーツカーらしさは残っている」
DC5は性能面だけでなく、売れるためには他にもこだわってしまった。
"DC5は失敗作だッ!"と言う声もあるが、車重を重くして、内装広くしながらも、それでもDC5はスポーツカーとして運転の楽しさを味わさせる所は残っており、運動性能面で高い評価を得ている。
「戸沢のDC5なんだが、あいつの車もチューニングされている。ターボ類は搭載させず、排気量を2リッターから2.2リッターに上げて、280馬力に上がっている」
戸沢のDC5はこれまでの相手と違ってターボチャージャーを付けていない。
変わりにエンジン排気量を2リッターから2.2リッターにアップさせている。
この、ターボを付けずにチューニングさせることをメカチューンと言い、排気量を上げるチューニングをボアアップと言う。
「後部座席取り外しやシート交換といった軽量化も結構していて、車重を軽くすることによってNAながら高い加速力も得ている。足まわりも固められてハンドリング性能もすごく高く、戸沢の愛車は完璧に作られたチューニングカーだ」
エンジンのメカチューン意外にも他の所も固められている。
完璧なチューニングをされた戸沢の愛車はチューニングカーと言ってもいい。
「戸沢の車、DC5には今まで戦ってきた相手の車とは違う所がある。それは駆動方式だ。今ま大崎が戦ってきた車は後輪駆動だったが、DC5は前輪駆動だ」
戸沢の車で注目するべきなのは前輪駆動だ。
今まで翔子が戦ってきた車たちは後輪駆動だったが、DC5は前輪駆動だ。
「前輪駆動……略してFF、某人気ゲームの略称とは関係ないぞ。後輪駆動ことFRは後輪がエンジンのパワーを伝えているのに対し、FFは前輪のタイヤがエンジンのパワーを伝えている」
簡単に言えば、
FRのほうは車を押すという感じに近く、
FFは車を引っ張るというものに近い。
「FFは小型車を中心に採用されていてるが、インテグラのメーカーのホンダはそれを好む。エンジンの置き方は横置き。挙動はアンダー寄りで、グリップ走行に近い。必要なパーツが少なく、そのため車重が軽い。燃費性能、悪路性能も高いぞ。欠点はパワーのあるエンジンが搭載しづらいこと、加速力が高くないこと、乗り心地が良くないことだ。ハンドルが重いことも1つ」
これがFFの特徴だ。
加速力の低さ、ハイパワーエンジンの搭載しづらさからスポーツ性能に向いていない。
なぜスポーツ性を求めるホンダ車にFFが多いって言うと、「押して走るより引っ張って走るほうが速い」という考え方があるからだ。
今の車は製造コストの安さ、内装を広くできることからFFが主流になっている。
「FRのほうはスポーツカーやトラック、高級車に採用されている。エンジンの置き方は縦置き。挙動はオーバーステア寄りで、ドリフトに向いている。重量バランスが良く、スポーツ性能に向いている。FFと違ってパワーのあるエンジンや大きなエンジンを積みやすい。乗り心地は良い。欠点はスピンがちょっとしやすい、悪路走行に向いていないだ」
FRの特徴も言う。
FRは運転の楽しさを感じやすい駆動方式で、車好きからの人気が高い。
昔の車はこのFRが主流だった。しかし製造コストの安さや内装の広さなどを求めるために80年代あたりから多くのFR車はFFになってしまう。が、トヨタ・クラウンのような重いエンジンを積んで全長の長い高級車や日産・フェアレディZのようなスポーツカーはFRを存続している。
近年、FR車は少なくなっていくものの、ドリフトブームの影響から中古市場では人気が高い。
「FFとFRの説明をしたが、私の車はFFでもFRではない」
「おれは分かってます。4WDですよね」
「そうだ、私のR35は4WDだ。4WDの説明もしよう。4WDは元々悪路走行を走るための駆動方式だが、最近は高性能スポーツカーにも採用されている。AWD、4輪駆動とも呼ばれる。2駆(前輪駆動と後輪駆動)と比べてトラクション性能(車を進ませる力)が高く、スタート時にはダッシュをする。トラクション性能が高いおかげで悪路性能がFFより良く、ラリー競技になると参加車両の4WDばっかりだ。乗り心地はとても良く、すべての駆動では最高だ。完璧な駆動式に見えるが、欠点もある。パーツが多いため車重は重く、燃費が悪い。コーナリングは苦手で加速を生かした走りをする2駆にはコーナーで負けてしまう」
そして4WDの説明もする。
4WDは一件完璧な駆動方式に見えるが、欠点もある。
これで駆動方式の解説が終わりだ。
どの駆動方式がいいのかは自分の好みで選んでほしい。
「話は終わらせて、次のことをしよう。大崎……私とバトルしないか? バトルの練習になるだろう」
「はい! バトルしますッ! おれはバトルしますッッ!!」
話を終わらせた後、翔子にバトルしないかって訪ねる。
これに翔子は喜んで受けた。
2人は車に乗って駐車場を出て、
スタートラインに入る。
「先行はお前で、後攻は私だ。早速だが、バトルを始めるぞォ! 5秒前ッ! 4ッ! 3ッ! 2ッ! 1ッ! GOッッッ!!」
智が合図を言い、
それが終わると2台はブアンブアンと音を立てながらスタートしていく。
翔子のワンエイティが先行で、智のR35が後攻だ。
「絶対に抜かさず走って見ますよッ! 離して見ますよッ! どんな走りでもいいからかかってきてくださいッ!」
翔子は自信満々の顔している。
自分より遙かに強い智相手に掛かってこいと顔で言っているんだ。
さすがに翔子は勝利を重ねてきただけあって強気だ。
スタートから続く長い直線を抜けて、第1コーナーを抜け、連続コーナーへ。
「公式戦では2連勝したからには調子に乗るなよッ! これだけじゃあ最強と呼ばれた私の走りに勝てないぞッ! 私の高速ドリフトについて来れるかァ?」
ヘビー級の4WD車と思えないほどのドリフトでR35は連続コーナーを攻める。
そのドリフトで軽量なワンエイティに着いていくッ!
「なかなかやりますね……。けどおれは負けませんよッ! 連続コーナーが終わるまでに絶対に抜かせませんよッ!」
翔子も負けずにドリフトでブロックする。
連続コーナーの最後、U字コーナー。
ここに翔子が突っ込むッ!
「智姉さんはインに来るかもしれない…。なら、インでブロックするッ!」
後ろの智がどこへ来るのか予想する。
翔子はインに来ると思って、インに入った。
「130km/hの高速ドリフトォォォッッッ!! イケイケイケイケイケイケイケェッ!」
得意の高速ドリフトでU字コーナーのインを攻めるッッ!!
絶対に抜かせたくないという気持ちで攻めるッ!
しかし、
「アァ、アウトォォォ? なんでェ? インのつもりじゃなかった……?」
「インに行くと思ってたのかァ? 私はァ、インに入ると見せかけてアウトへ行くッ!
翔子の読みは違った。
智はインではなく、アウトに攻めたッ!
これは翔子、騙されたようだッ!
「お先に行くぞッ! 大崎ィッッ!!」
U字コーナーの後の高速セクションで翔子のワンエイティを追い抜いていった。
智のR35は風のように去っていく……。
その後、追い抜かれた翔子は抜き返そうと頑張るが、
1ミリも差を縮めることもなく、翔子は智のR35のリアを見ないまま、ふもとへ着いてしまった。
ふもとの駐車場。
「惜しかったな、大崎。インに来ると思ったのが間違いだったな」
「インに来ると思ったらアウトだったのがビックリしました」
インに見せてアウトで抜く……。
アウトに行くことを気づけば、追い抜きをブロックできたはずだ。
「これは戸沢のヘッドライトを消す走りに似ている」
「具体的にはどこが似ているんですか?」
「私がやった抜き方は相手を騙しながら抜く走り方だ。戸沢の抜き方はそれに似ているが、相手を騙すだけなく相手を動揺させることも可能だ」
連続コーナーの終わりで智のやった抜き方、
戸沢の無灯火走行、
似ている所は両方とも騙し討ちな所だ。
戸沢のほうは騙し討ちだけでなく、油断させるという効果もある。
この前の熊九保対戸沢では、熊九保は戸沢の無灯火走行に気づかず、距離を離したと思ってしまい敗北した。
「戸沢とのバトルではヘッドライトを消す走りには騙されないようにな。私に抜かれたことで分かっただろう、先行になったら戸沢に騙されるな、騙されたらさっきみたいになるぞ」
無灯火走行には騙されるなとアドバイスする。
この無灯火走行に騙されたら今日や熊九保みたいになってしまう。
それを翔子はどう戦うのか……。
当初の予定では短いシーンだったのに、説明が長すぎたのか、文章が多くなった……。
そんなことってあるんだろうか──。




