ACT.23 FRのC33ローレルvsFFのDC5インテグラ
熊九保はなんで挑んだんだろう……。
なんで挑んだんだ。
「熊九保はん……相手はWHITE.U.F.Oのリーダーやで。冷静に考えると勝てへん」
「川畑の言うとおりだよッ! あんな奴に勝てるわけないしッ! 100%負けるよッ!」
熊九保を止めようとする残りのRB20三人衆、
が………。
「平気だべ。相手はFFでノンターボ、おらのC33ローレルはFRだしターボで400馬力だ。しかもおらはドリフト甲子園を優勝しとるべ、スキルでもマシンでも有利べッ! んだなの簡単だんべいッ! How hard can it be?」
完全に平気な顔をしている。
相手の車がFF(前輪駆動の意味)でノンターボだと思って勝てる自信はあると言う。
熊九保のC33ローレルは直列6気筒シングルターボを430馬力にチューンしている。このパワーなら、スペックだけ見れば280馬力のパワーを持つ戸沢のDC5に勝てそう……。
C33の駆動方式はFR、対するDC5はFFだ。
FR(後輪駆動)はスポーツ走行向きで、運転の楽しさを感じやすく、多くのスポーツカーに採用されいる。
しかし、FFのほうはスポーツ走行には不向きで、走りより室内空間の設計に向いており、スポーツカーよりファミリーカーのほうが多く採用されている。
DC5を作っていた、ホンダは製造している車のほとんどを走りにも目を置いて作っているが、どれもほとんどの車の駆動方式はスポーツ走行に向いてないFF車だ。なぜFFかって言うと、押して走る(FR方式)より引っ張って走る(FF方式)ほうが速いと思っているからだ。
「それはどうかな……? ホンダはこのDC5を情熱で作っている。前輪駆動でありながら、高回転エンジンや軽量ボディ、優れた足まわりによってスポーティーに作られている。パワーのあるお前の車なんて倒してやるさ」
前輪駆動をなめてはいけないと戸沢は言う。
彼の言うとおり、バトルは車だけで勝敗は決まらない。
「すでに知ってると思うが、俺はWHITE.U.F.Oだ。素人に勝とうと10年速いッ!」
「素人だって……? おらはァドリフト甲子園のチャンピオンッ! FFの乗りのォ奴にゃ負けねーべッ! おめーがチームリーダーだと分かっととも勝つだッ! じゃあバトルとォいくべッ!」
それぞれに車に乗り込み、スタートラインに並ぶ。
「熊九保さん……大丈夫かなァ」
バトルする熊九保のことを小鳥遊は心配する。
「こうなったら、うちらがスタートの合図をしたるで。スタートラインに行くわ」
自分がスタートの合図をすると言って、川畑は熊九保と戸沢がいるスタートラインに行く。
「スタート行くでッ! 10ッ! 9ッ! 8ッ! 7ッ! 6ッ! 5ッ! 4ッ! 3ッ! 2ッ! 1ッ! GOッ!」
川畑の合図が終わると2台は一斉にスタートした。
先行は熊九保のC33だ。
先行を取ったC33は最初の直線で戸沢のDC5を離していく。
「見ろォ! これがFRの実力べッ! FFなんかクソだッ! どんどん離していくべッ! 後は抜かれないように走ればいいだッ!」
開始早々、先行を取ったことで熊九保は調子に乗る。
FF車を馬鹿にして、調子に乗る。
「ドリフト行くべッ! 見ろ戸沢ァ、これがFRのコーナリングだァッ! FFにはそんなことはできねーべェー!」
第1コーナー。
熊九保C33はドリフトでコーナーを攻める。
続いて、先行の車に100m離されながら戸沢もコーナーに着く。こっちはグリップ走行だ。
FRのC33、FFのDC5、それぞれ駆動式の違いによってコーナリングの仕方が変わっている──前者はドリフト走行なのに対し、後者はグリップ走行だ。
「ついて来い戸沢ァッ! このハイパワーFRについて来いべェッ! 連続コーナーでハイパワーFRの実力を見せてゃるッ!」
連続コーナー。
白煙を出しながら次々とコーナーを熊九保抜けていく。
「相手はドリフトばっかりしている──。ドリフトで俺に勝とうするつもりか……。だが、これでは俺に勝てない……。俺はしばらく様子を見るか」
後攻の戸沢は攻めているものの、今のところ抜く気はゼロだ。
しばらく様子を見ながら走ることにする。
連続コーナーを終えると高速セクションへと入る。
「ここは直線、ここはC33のパワーを発揮できる。ここをうまく使えば、戸沢を離すことができるべェッ!」
高速セクションに入った熊九保はここをうまく使えば、パワーのない戸沢のインテグラを離すことができると語る。
「さえなら戸沢ッ! ここでおらを見ながら走ることは終わりべッ!」
戸沢を離すつもりでさよならと言い出し、アクセル全開で進む。
高速セクションを終えて、1回ヘアピンを抜け、また高速セクションに入る。
「離すッ! どんどん離すだッ! ここを全力で走れば勝ったと同然さッ! 」
全力で走れば戸沢に勝てると思って、第2高速セクションを走る。
後ろを見れば戸沢の姿が見えない。
これに熊九保は──
「もう勝ったべッ! 相手がうっしゃろから来てもドリフトでブロックしながら走ればいいだッ! ブロックしながらさっさど走ればもう勝ったべッ! これがリーダーの実力かァ!? 弱かったなァッ!」
戸沢との差を離したと言って、勝ち誇った。
相手がすぐ後ろにいてもドリフトでブロックし、早く走れば勝てると言う。
熊九保は勝利を確信した。
が、
サクラゾーンに入り、後ろを見れば、熊九保の幻想を打ち壊された………。
「 な、なんだべッ! 相手がいないと思ったら……ラ、ライトを消したァッ! 何を考えているべッ! 今は夜だぞォ、おめェーは死にてェーのかァッ! 夜間にライトを消すとは危険行為だぞォッ! 」
なんとォォッ! 戸沢はヘッドライトを消して熊九保のすぐ後ろにいたッ!
危険行為と言えるやり方だが、相手を惑わすために有効な手段だ。
熊九保が後ろには戸沢がいないと思っていたのはそのせい。
「ひっかかったな、この馬鹿がッ! ライトを消して走行する技は俺の得意技だ。危険だがけして怖いと思ったことはない」
このライトを消しながら走るという走行スタイルは戸沢の得意技だ。
ライトを消して走る白いDC5はオレンジのC33を追い詰める。
「行くぞ、俺の必殺技……」
サクラゾーンのU字コーナーに2台は入る。
しばらく後ろを走っていた戸沢はついに追い抜きにでたッ!
「ミッドナイト・ドライブ──」
ライトを消したままコーナーを攻め、熊九保の車を追い抜く。
戸沢の必殺技、ミッドナイト・ドライブとはライトを消してグリップ走行でコーナーを攻める技だ。
追い抜かれる熊九保は戸沢のDC5に振り払われるようにアウトへ追い出される。
「 これがFFの実力か……FFはすべての駆動方式で1番弱いはずゥ……ッ! うッ! うわあァァァァァァッッッ! 」
U字コーナーで戸沢に抜かれた熊九保はその後スピンをしてしまった。
風に煽られるように……。
スピンをしたC33はそのままストップした。
「 負けたべ……相手の車をなめて、調子に乗ってしまったべ──。さすが榛名のチームのリーダーだ……。きかない(福島弁で強いという意味)──」
熊九保は敗北した。
やはり車ではなく腕で決まったんだ。
熊九保がスピンした後、DC5がストップした。戸沢が降りてくる。
「分かったな。これが実力の差なんだと」
勝敗がついたのは実力の差だと戸沢は語る。
「くゥ……参りました──。あなたは大崎さんに相応しい走り屋だと分かりました……」
戸沢の実力に熊九保は参ったようだ。
「マシンではFRでハイパワー、スキルではドリフト甲子園優勝というものを持っているから自身満々な顔をしていたが、大した相手ではなかった。お前はドリフト雑誌で見たことあるが、お前の実力はそんなものか」
戸沢にとって熊九保は大したことがなかったと言う。
実は某有名ドリフト雑誌で熊九保の顔を見たことをあるらしい。
が、その実力を感じなかったという。
「ドリフト甲子園優勝のおらが汚されるとは……ッ!」
戸沢に負け、腕が大したことのないと言われた熊九保はすごく悔しい思いをしてしまった──。
その後、黄色いHCR32、青いA31が来る。
小鳥遊と川畑だ。
「熊九保さん負けたの?」
「負けたよ……さすがリーダーの実力だ」
「うちとくにが言ったとおり、負けると分かってたで……挑まんほうがええはずやったのに──くにとうちの忠告は守ったほうがええで」
「やっぱ榛名山最速チームのリーダーは強すぎるよ。くにちゃんの言うとおりにすれば良かったのにね……」
2人の忠告を破ってでも、熊九保は挑んでしまった。
そして敗れる。
熊九保は前輪駆動にはものすごいコンプレックスを持ち、前輪駆動に魅力を感じていない。
前輪駆動をドリフトできない車と見下して挑んだあげく、敗北した。
もし小鳥遊と川畑の忠告を守れば……。
勝敗の結果を冷静に考えだ2人は年下だが、熊九保より大人だ。
そして翌朝……。
智の家にRB20三人衆がやってくる。
「昨日、おらは赤城で戸沢に挑んだのですが、負けてしまいました……」
翔子に、熊九保は昨日戸沢とバトルして負けたことを話す。
今回は速く終わりました。
熊九保は車で勝てると思ったあげく、負けました……。
バトルは車ではなく実力で決まるってば(笑)
あと、主人公の出番は最後だけで、しかもセリフなし……。
P;S 熊九保の一人称を「あたし/わだす」から「おら」に変更しました。
(魔術)




