ACT.18 柳田マリアという女(後編)
夜の赤城山でのサクラと柳田のバトルから数日が経過し、4月10日……。
朝9時、智の家のリビングで、翔子と智が話していた。
「Z33型フェアレディZの話をしようか」
話してる内容はZ33型フェアレディZの話だった。
Z33型フェアレディZは柳田マリアの愛車だ。
「Z33は歴代フェアレディZで初代から数えると5代目に当たる。Z33が出る前、フェアレディZはカタログ落ちしていたが、V35スカイラインをベースに復活したんだ」
Z33が出る頃、日産車のラインナップにフェアレディZはなかった。
2000年にZ32型の生産終了後、フェアレディZはカタログ落ちする。
その復活には2年の年月が掛かった。
ちなみにZ33の開発時、当初の予定では北米シルビアの2.4リッターの直列4気筒エンジンを搭載する予定だったらしいものの、最終的には先代Z32より0.5リッターより多い3.5リッターのV6エンジンを載せることになった。
「Z33はFRなのにドリフトしにくい車って知っているか?」
「ドリフト雑誌にはあまり登場してません」
「大崎の言うとおりだ。ドリフターにとっては人気がなく、Z33乗りはその走り方を嫌っているらしい」
前の話で言ったとおり、Z33は直線安定性が高く、シルビアやワンエイティ、C33以降のローレルとR32~R34のスカイラインなどといった他の日産製FR車と違ってドリフトに向いていない。
さらに、Z33は車の完成度が高い車のためか、その車に乗っているドライバーたちはドリフト走行を嫌い、グリップ走行を楽しむらしい。
「次は今度お前と勝負する柳田のZ33の話をしよう」
次の話は柳田Z33の話に入る。
「柳田のZ33は05年式だが、エンジンは03年式のエンジンに換装している。03年式のほうがトルクが良く、ヒルクライムで速く走れるからだ。その換装したエンジンをツインターボを取り付けて500馬力にチューンしている」
Z33は毎回マイナーチェンジしてパワーアップしているが、2005年のマイナーチェンジでパワーを上げたかわりにトルクはダウンしてしまい、峠に向いていない高回転向きのエンジンとなった。
03年式のエンジンが優秀だと思った柳田はそれを換装させている。
「ヒルクライムではトルクが重要です。あそこでは古いけど、トルクがいい03年式が有利ですもんね。この前のバトルでは相手の加速力がないと感じたら、「トルクがなかったから遅いんだ」と思いました。やっぱヒルクライムはトルクが重要ですよ」
「そうだろ、ヒルクライムではトルクが重要なんだ。トルクは車の加速力を表す、パワーのほうは車のスピードを表すんだ」
トルクとは車を走らせる力の強さのこと。
走らせる力が強いほど加速が良くなる。
ヒルクライムではパワーよりトルクが重要になり、トルクが良いほどヒルクライムで有利になる。つまり、パワーは脇役ってことなんだ──。
時は過ぎていき、午後11時ごろの赤城山頂上。
ここではバトルが行われた。対決する2台の車の詳細は、深緑色の車体に金色のホイール、エアロパーツとGTウィングを装着したGRX130型マークX(前期型)、対するは赤色の車体に黒色のホイール、マークX同様にエアロパーツとGTウィングを装着したZN6型86だ。
頂上にいるギャラリーの中には、オレンジ色の髪の毛にそれと同じ色のジャージを来た少女、その名は熊九保宣那だ。
「ねえ、サイドブレーキって使っている?」
「使ってないよ」
しかし熊九保はバトルを見ることに集中していない、ギャラリーの会話を聞くほうに集中していた。
「榛名から来た走り屋のZ33、ブレーキを踏まないけどサイドブレーキを使うってッ!」
(榛名から来た走り屋のZ33って──WHITE.U.F.Oの柳田マリアの車ってこと!?)
ギャラリーの話す、Z33のことは柳田の車のことだと熊九保は思った。
「あのZ33は500馬力あるらしい」
(柳田のZ33は500馬力ィィ!?)
「しかも、そのパワーの高さから加速力もすごいらしいよ。某グランドツーリングカー選手権の300馬力クラス並の加速力なんだッ!」
(ツーリングカー選手権の車並の加速力って……柳田のZ33はそんなにすんごいべェェ!?)
柳田Z33が高出力、ツーリングカー並みの加速力を持っていることに熊九保はビックリする。
「そのZ33に乗っている人は今度サクラさんに勝ったワンエイティ乗りと勝負するらしいよ。私はノーブレーキでコーナリングを攻める走り、ツーリングカー並みの性能からZ33乗りが勝つと思う」
(やっぱ柳田は強敵かもしれねーべ……ッ!)
そう柳田は強敵だ。
昨日の夜、柳田はハイパワーマシンを操っているのにも関わらず、連続コーナーでサクラのJZA80を追い詰める走りを見せた。
ギャラリーの女が言っている通り、翔子は負けるかもしれない……。
熊九保たちが見ていた今日のバトルの結果は、接戦の末赤い86が勝利した。
翌朝、熊九保は智の家へ行き、そこにいる翔子と話をした。
「昨日の夜、あたしはバトルを観戦しにいったんです。くにちゃんや川畑も連れて行く予定だったんですが、学校の都合で行けなくなったそうです」
熊九保は昨日のことを話す。
当初の予定では小鳥遊と川畑も連れて行く予定だったが、都合により熊九保だけしか行けなくなった。
「あたしはバトルを見れたかどうかと言うと、見れませんでした、ギャラリーの会話を盗み聞きをしていたからです。けど、その会話は役立つ話でした」
「その役立つ話って気になるから教えて」
熊九保が聞いた昨日の会話は役立つ物だと聞いて、翔子は気になった。教えてほしいと頼む。
「ギャラリーの話を教えますよ。2人の女の子が会話していたんです。サイドブレーキの話でしたが、柳田のZ33のことも話していました。柳田はブレーキを踏まず、サイドブレーキで曲がってそうです」
「サイドブレーキを踏みながら走る!? おれはサイドブレーキを使わないよ。ブレーキを踏まずにサイドブレーキを使うとはやばい……。Z33はセッティング上ドリフトが難しい車、Z33乗りはドリフトの嫌う。けど柳田はZ33乗りには珍しくドリフトを好んでいる………」
頼まれた通り熊九保はギャラリーの会話を話す。
まず、柳田のサイドブレーキ走行のことを翔子に話した。
翔子の走り方はブレーキングを使うが、サイドブレーキを使わない。
しかし、柳田のほうはブレーキングはしないかわりにサイドブレーキを使ってコーナリングをしている。
「柳田Z33の最高出力は500馬力、トルクは59kg・m。スーパーカー並のスペックがあります。さらにビックリすることはツーリングカー並の加速力持っています。コーナリング性能はとても良く、一昨日柳田は葛西サクラを5連続ヘアピンで引き離すほどの性能を持っています」
「加速力はレーシングカー並ィィ!? ヤバすぎるッ!」
柳田のZ33の加速力がすごいと聞いて、翔子は驚く。
柳田マリアのZ33フェアレディZの優れているのは加速力だけじゃない。コーナリング性能も優れている。
「あのギャラリーは柳田が勝つと予想しました。けど、予想を崩してください。性能には負けないでください」
「前から言っているけど、おれは負けないよッ! 性能にも予想にも負けないよッ!」
心から柳田なんか負けないと翔子は誓う。
柳田とのバトルはもう翌日、心の準備はここかれでは遅いぞッ!
前の話が短いと思ったのでもう1話書きました。




