ACT.15 RB20三人衆(後編)
次の相手は小鳥遊くに。翔子同様に身体は小学生みたいに小さいが、彼女は前年度学生ドリフト甲子園の準優勝の記録を持つ。準優勝は川畑の準々優勝より上だ。
小鳥遊の愛車はHCR32型スカイラインGTS-tタイプM。搭載エンジンはA31セフィーロとC33ローレルと同じエンジンでありながらそれらの車よりスポーティーなRB20DET。そのエンジンを400馬力にチューニングしている。
「行くよHCR32セダン、おれと勝負だよッ!」
「来いよ、ワンエイティッ!」
翔子vsドリフト甲子園3人組の2戦目、大崎翔子vs小鳥遊くにが始まるッ!
翔子が川畑を抜いたヘアピンのあとの直線からバトルがスタートだッッ!!
(グオオオオオオンッ!)
「始まったな──くに、うちの仇を取ってやッ!」
翔子の後ろにいる川、先ほど敗れた川畑は小鳥遊が自分の仇を取ってほしいと願った。
(グオン、グオオオオオオンッ!)
「RB20DETを積んだ車は直線で負ける。RB20DETは低速トルクが細く、下手すると上りで軽自動車に負けるほどなんだ。くにちゃんのHCR32はパワーは結構あるけど、トルクがないからワンエイティに煽られている」
小鳥遊のHCR32は直線でワンエイティに煽られている。
RB20DETの弱点は低速トルクの細さだ。トルクが細いため、軽自動車のスポーツ仕様より加速が悪いこともある。
「直線でHCR32に勝っているけど、今は抜かない。抜くのは自分の場所だッ!」
だが、HCR32に接近しているのにも関わらず、翔子は抜かない。
ここではなく、翔子の場所で抜くんだッ!
「コーナーだ。角度の薄いドリフトで攻めるよッ!」
(フォオオオオオオオンッ!)
直線が終わり、コーナーに入る。
先を走る小鳥遊は角度30度のドリフトで突っ込んだ。
「こっちはインで攻めるよッ!」
(ヒェエエエエエエエンッ!)
後を走る翔子はドリフトしながらインで攻めた。
「またコーナーだべ。こっちは弱くてもいいからブレーキを踏むべきだべ」
コーナー抜けてもまたコーナー。
バトルしている2人の前を走る熊九保は先のコーナーを抜けていく。
熊九保はブレーキを一瞬しか踏んでいない。それをキッカケとしてC33をドリフトさせて抜けていく。
「よし、ここも攻めるよッ!」
小鳥遊も熊九保の抜けたコーナーに入る。
小鳥遊は熊九保と違い、ノーブレーキで突っ込んでいった。
「コーナーだよ、ワンエイティッ! 前の前のC33みたいにブレーキでキッカケを作ったドリフトで攻めてやろうよッ!」
後を走る翔子もコーナーに入る。
こっちは熊九保と同じやり方で攻めた。
一瞬、コーナーでは小鳥遊HCR32のケツに接近するものの、
直線に入ると
(ブオオオオオオオオオッ!)
「くにちゃんがコーナーをノーブレーキで攻めた理由はスピードダウンを防ぐためなんだ」
小鳥遊がノーブレーキでコーナーを攻めたのはスピードを蓄えるためだ。
前言ったとおり、HCR32は低速トルクの細い車なので強すぎるブレーキや回数の多いブレーキはスピードの回復が難しくなる。
そこで小鳥遊はスピードを蓄えるためにブレーキを踏まなかったのだ。ノーブレーキでコーナーを攻めたことトルクの細いHCR32は登りの直線でもRB26を積んだワンエイティと互角に走れているんだ。
「さすがくに。スピードを蓄えるためにコーナーでノーブレーキを踏まなかったのはさすがだべ」
この小鳥遊のスピードを蓄える作戦は熊九保をすごいと言わせた。
直線が終わり、またコーナー。
今度は急コーナーだッ!
「ここは一瞬ブレーキを踏んで──サイドブレーキッ!」
急コーナーを小鳥遊は一瞬ブレーキを踏み、同時にサイドブレーキでコーナーを攻める。
このとき、コーナーを攻めている小鳥遊HCR32のスピードは120km/hだ。
「ワンエイティは強くブレーキを踏んでッ!」
一方、翔子のほうは100km/hに減速してドリフトしながらコーナーを攻めた。
(ヒュウウウウウウンッ!)
「離されちゃったッ!」 このコーナーでは小鳥遊HCR32のほうが優勢だ。
翔子のワンエイティは差が少し離されてしまう。
「ヘヘッ! RB20の弱点を対策した走りをしたくにちゃんは速いッ! このままくにちゃんはワンエイティに勝てるッ! 葛西サクラを倒した走り屋にくにちゃんは勝つよッ! もうワンエイティはドリフト甲子園チャンピオンの熊九保に勝負する権利ないんだッッ!!」
このまま行けば勝てると、小鳥遊は思った。
RB20のトルクの細さを感じさせない走りをしたから勝ったと思っている。
バトルしている2台とそれを挟むように観戦している2台はコーナーを抜けて、1つ曲線を交えたストレートを通る。
そのストレートを終えるとまた急コーナーだ。前も急コーナーだったが、次に来る急コーナーは前のそれよりさらに急だ。
深く踏んだブレーキと慎重なマシンコントロールが大切になるだろう。
「くにちゃんはワンエイティに勝ちたいからインを選ぶッ! ワンエイティ、君は負けたよッ!」
急コーナーに先に入る小鳥遊はインに入る。
スピードを落としすぎないように、150km/hから110km/hに落としてサイドブレーキで攻めるッ!
「やったッ! くにのRB20をトルク不足にしない走りなら勝負が着くべッ! くには勝つべッ! くには勝つべッ」
2人の前を走る熊九保は小鳥遊が勝つと確信した。
ブレーキとサイドブレーキしながらも速度を落としすぎない走りなら小鳥遊は勝つかもしれないと思ったからだ。
しかしッ!
「何なのッ! このくにちゃんより速いコーナリングをして──あいつはなんなのォ!?」
「ブレーキングからの、145Km/hの高速ドリフトォォォォォォォォッ!!」
なんとォ! アウト側からの高速ドリフトで攻めるゥゥゥゥ!!
「速いドリフトべッ! 操作の乱れてないほど慎重なドリフトだべッ! これはくにのできないドリフトべッ!」
熊九保もビックリッ!
ビックリするほどの慎重なドリフトだァァァァァァ!
「くにちゃんは負けないッ! 準優勝のくにちゃんは負けないんだッ! えェ? ブロックされたァァ!?」
攻めている小鳥遊を同じく攻めている翔子がブロックしたッ!
これはすごいッ! すごいッ! すごいィィィィィ!
「うわァ──ここで抜かれるなんて……くにちゃんが負けたッ!」
攻めながらブロックした翔子はさらに小鳥遊を追い抜いたッ!
これで2人目に勝利。
残るのはチャンピオンの熊九保のみッ!
「くそッ! 残りはわだす(福島弁で私の意味)だけだべ、ワンエイティに戦えるのはわだすだけしかいないべッ!」
残り1人となった熊九保も戦闘体制だ。
絶対ワンエイティに勝ってやろうと思っている。
「熊九保さん、くにちゃんの代わりにワンエイティを倒してッ!」
「うちは応援してるで、熊九保さんッ!」
ワンエイティに負けた2人も熊九保はエールを送った。
チャンピオンの熊九保は翔子を絶対倒せると思っている。
相手はドリフト甲子園のチャンピオン、前年度のドリフト甲子園を制覇した相手だ。
果たして翔子はこの強敵に勝てるかァ?
「こいつを倒して智姉さんに会いにいくよッ! ワンエイティッ!」
「わだすはドリフト甲子園のチャンピオンべッ! 葛西サクラに勝っただけでわだすに勝てると思っべかッ!」
(ウオン、ウオオオオオオオオンッ!)
(パアアアンッ! ウオンウオンッ!)
最後の相手、熊九保との対決は高速セクションからスタートする。
翔子ワンエイティと熊九保C33の2台は自信満々にエンジン音という遠吠えを出していた。
「行くよゥ!ワンエイティッ! イケイケイケイケイケイケイケッ! えェ!? 速い、速いィィー!」
バトルが始まってすぐ熊九保C33は翔子を差を離していくほど離していく。
さすがチャンピオンの車だ、称号の恥ない性能を持っている。伊達じゃない。
「これが経験の差べッ! 1回しか勝ってねーおめーは不利なんだべッ!」
ドリフトの経験がない翔子は不利だと熊九保は言う。
熊九保はドリフト甲子園で何回もやってくる修羅場を潜り抜けたつわものなんだ。
経験を見れば翔子が不利だと分かる。
「離されたくない、着いていくよッ!」
翔子も負けずに攻めていく。
が、離されてしまう。
「馬鹿べッ! ドリフト甲子園でチャンピオンを取ったァわだすに勝てるなんてェ10年速いべよッ!」
翔子との差を離す、熊九保自分に勝つなんてまだ早いと言い出した。
途中、コーナーを挟みながらも、2台は高速セクションを駆け抜けていく。
と同時に翔子と智の差は離れていき、その差は120mに離れている……。
「速い……葛西サクラより速いかも……」
熊九保の速さを見て、こいつはこないだ戦った葛西サクラより速いと思ってしまった
ここで熊九保の愛車・C33型ローレルのスペックを語ろう。
熊九保C33は1370kgと、小鳥遊HCR32と川畑A31より車重は重いが、
パワーは430馬力と3人の中では高く、さらにトルクのほうは翔子より低かった2人と違って熊九保は49.5kgと翔子を超える。
こんな性能を見れば熊九保C33はモンスターマシンだと分かってしまう。
「ヘヘヘ、ちょろい奴べェッ!」
翔子を小物扱いしながら高速セクションを駆け抜け、熊九保は急勾配の右コーナーを登っていく。
「追いつけない──。智姉さんに会えないよ……」
熊九保との差はどんどん離れていき、翔子の心は悲観的になってくる。
現在、熊九保は高速セクション後の右コーナー、翔子は高速セクションの後半にいて、
その後ろには小鳥遊と川畑がいる──。
バトルをしている翔子たちのずっと先……智のR35が赤城山ヒルクライム最終コーナーに入っていた。
「ん? 大崎はいないぞ──」
バッグミラーを見ながら智は後ろを眺めた。翔子は着いて来ない。
最終コーナーをドリフトしながら抜けていき、最後のストレートを走っていく。
しかし、翔子は来なかった。
「大崎はどこにいるんだ? まさか車にトラブルが起きたのか? それとも事故ったのかァ!?」
後ろから来ない翔子を智は心配していた。
ずっとずっと後ろに翔子がバトルしていることは智はまだ知らない。
翔子たちの場所に戻ろう、熊九保と翔子の差は離れていき、現在155mに離れている。
「勝ったべ、勝ったべ、勝ったべッ! このまま頂上まで走るだッ!」
自分が有利なことに熊九保は調子に乗り始めた。
頂上まで走ってやると言い出す。
「ワンエイティは見えるけど、熊九保さんは見えないよッ! ふう勝てるよォ──熊九保さんは速いッ! 熊九保さんは葛西サクラより速いことになるッ!」
「もう熊九保さんが勝てると同然やッ!」
翔子の後ろにいる2人は熊九保の有利っぷりを見て、もう勝ったと思っていた。
もう翔子は勝つことができず、智に会えなくなるのかァ?
がッ、翔子ワンエイティが急勾配の右コーナーに差し掛かるとォ──!
「な、なんなのッ! ワンエイティがくにちゃんの前からチーターのように逃げていくッ! なんていう速さなのォ!?」
小鳥遊がビックリしているッ!
どうなっているッ!
「130km/hの高速ドリフトッ! イケイケイケイケイケッ! 今は負けそうな状況ッ! けどォ、諦めないッ! おれは負けると思っても諦めたくないッ! 絶対に諦めたくないんだッ!」
急勾配の右コーナーで高速ドリフトが炸裂ッ!
ここから翔子は逆襲が開始するッ!
「U字の急コーナー、ここでも行くよォォー! 140km/hの高速ドリフトォォォォォォォォ!」
U字の急コーナーも高速ドリフトで攻めるッ!
(ブオン、ブオオオオオオオンッ!)
「ここは130Km/hの高速ドリフトォォー! イケイケイケイケイケェェー!」
幅の広いU字コーナー。
ギリギリのインを130km/hの高速ドリフトで攻める。
そのコーナーを抜けた後は直線に入り、その先には熊九保が見えた。
連続する高速ドリフトによる怒涛の逆転で100m以上離れていた差を縮めることができたのだッ!
「チキショーめッ! せっかくわだすが離した距離をワンエイティが縮めやがっただッ!」
後ろにせっかく離れていた翔子ワンエイティがいることを見て、熊九保はビックリだッ!
直線を終えるとゆるやかなコーナーが来る。
必死に逃げようと熊九保はそのコーナーで翔子ワンエイティの追撃から逃げようとしたが、逆に翔子ワンエイティとの差を縮められてしまった。
「お前はさっきより遅くなっているよッ! ひとつは有利だと思って調子に乗っていたからッ! ふたつ目は後ろばっかり見ていたんだッ! だからお前はさっきより遅くなっているんだよッ!」
翔子は見抜くッ!
熊九保が遅くなっていることをッ! 見抜くッ!
勝てる勝てると小物扱いしながら調子に乗って天狗になった結果、ペースが落ちていったッ!
遅くなった理由はこれだけじゃないッ!
後ろは来ないかな~とバッグミラーを見まくったら、集中力が低下してしまったのだッ!
「チキショーめワンエイティッ! こうなったらわだすの最後の切り札、台風75号を繰り出してやるべえェッ! この技は誰も勝てた奴は1人もいないべだッ!」
追い込まれた熊九保は自身の最後の切り札、台風75号を次のコーナーで出そうと考えたッ!
この技は車を75度に傾けながら130km/hでドリフトしてコーナーを攻める技だ。
この技に勝った走り屋は誰1人いないほど強力な技さッ!
いよいよ、最終コーナー。
ここに2台が入り、一斉に攻める。
「熊九保さん頑張れ──ッ!」
「ワンエイティなんか敵じゃないで。熊九保さんはドリフト甲子園のチャンピオンやからな。熊九保さんは攻めてくるワンエイティに勝てるかどうか心配や……」
最終コーナーに入ったバトルの展開について、2人は心配していた。
「行くべッ! 台風75号ッ!」
熊九保の大技、台風75号が最終コーナーで炸裂ッ!
C33を75度の角度にコーナリングさせながら130km/hでコーナーを攻めているッ!
このコーナリングは協力だッ!
「速いコーナリングの技だ……おれには出来ない──」
相手の翔子に速いと言わせるほどの強力な技だッ!
怒涛の逆転はここまでかァ!
「ここまでだべェッ! ワンエイティッ! んゥ? ワンエイティはわだすより速く攻めているべッ! うわァ! わだすのC33が勝手にアウトよりに行くべッ!」
「140kmの高速ドリフト……反射アタァーッックゥゥゥッッ!!」
なんと、1人も勝てた走り屋はいないほど協力な技だった熊九保の大技が敗れるッ!
その技を負かせた技は葛西サクラのJZA80を倒した反射アタックだッ!
反射アタックによって接触なしなのにも関わらず、熊九保C33がアウトに弾き飛ばされるッ!
「そんな馬鹿だァッ! このドリフト甲子園のチャンピオンのわだすが負けるべ……ッ!」
ドリフト甲子園のチャンピオンの熊九保宣那がついに1勝しかしていない翔子に敗れるッ!
さすがだ翔子ッ!
ドリフトの大会でチャンピオンを取った走り屋に勝ったッ!
「智姉さん……今会いに行きますッ!」
翔子は智に会うため、直線を急発進ッ!
「大崎ッ! 私は待っていたぞッ! 心配していたぞッ!」
頂上の駐車場前の道路、ここ智は立っていた。
頂上の駐車場──。
ここに翔子は着いた。
「一対何をしていたんだ。お前は事故ったのかと思って心配していたぞ」
ずっと智は待っていたんだ。
翔子が着くことを待っていたんだ。
「心配させてすみません。おれ──3台のセダンに囲まれて、バトルを申し込まれたんです。3台とも速かったのですが、無事に勝利することができました」
ここまでのことを翔子は語る。
3台の車と勝負していたことを智に話した。
バトルについて話しているところ、駐車場に翔子とバトルした3台の車がやってくる。3台の車からそれぞれの車から降りてくる。
「おい、お前らどうしてくれたんだよッ! おれは智姉さんに会えなかったんだよッ!」
智と切り離したことを許せず、翔子は3人組に怒り始めたッ!
「かわいいッ! ワンエイティに乗っていたドライバーはかわいい女の子べッ!」
「止めてッ! 話せッ!」
怒る翔子に熊九保は抱きつく。
「離して~! 君の名前を言えよッ! おれは大崎翔子、無免許だけど運転は得意だよッ!」
「運転は得意だとわかるだ~! それより、女の子なのに「おれ」と言う所もかわいいべ~! 可愛い女の子には特別にわだすの名前を言うべ、わだすは熊九保宣那、ドリフト甲子園の前年度チャンピオンだァ~! 可愛いから気持ちを分かったやるべ、離すだ!」
熊九保に身体を抱きつかれた翔子は自己紹介を迫った。
自己紹介を迫られた熊九保は自分の名前を言い、抱きついていた翔子の身体を離した。
「大崎翔子というのかァ──大崎ちゃんじゃなくて、あたしより速いから大崎さんと呼ぶよ」
これまで福島弁だった熊九保の口調が標準語に変わった。
興奮が収まったから標準語に変わったのだ。
「HCR32乗りが小鳥遊くに、A31乗りが川畑マサミだよ。君同様に未成年で無免許だけど車の運転はうまいよ」
「くにちゃんもよろしく!」
「うちもよろしくやで」
小鳥遊と川畑のことも紹介した。
2人は翔子に挨拶する。
「じゃあ帰るぞ、大崎」
「はーい智姉さんッ! じゃあ3人組、おれ帰るからじゃあねー!」
智は帰ると言い出し、翔子も着いていく。
2人はそれぞれの車に乗って、家に帰って行った──。
最後のほうはご都合主義っぽく見えますけど、これは頭脳戦だだからそれっぽくなっています。
翔子vs熊九保戦、バトルの最後ほうは作者でも熱くなりました。葛西サクラ戦より書くのが楽しかったです。




