閑話16「300日規定」
「ねえ、一つ聞きたいんだけど……」
「どうした」
第801条が終わった時点で、彼女が俺に話しかけてくる。
「300日規定とかってあったじゃない。あれ、もう少し詳しく聞かせてほしいって思って」
「ああ、あれか」
そういって、俺は六法のページを戻す。
「まず復習からな。そもそも300日規定問題の発端となる条文は?」
「確か、第772条でしょ。結婚を解消したか取り消した日から300日以内に産まれた子供については、結婚をしている時に産んだと推定するって」
「そうそう。これは本来であるなら、戸籍欄で父親の名前を空白にしないための措置だったんだ。でも、今ではこれがネックで、父親の名前が空白にせざるを得ない、つまり戸籍が届出せれないという例が多くなってしまった」
「どういうこと」
六法の別のページを開けていく。
「戸籍法という法律があるんだ。この法律の第49条には、出生の届け出について書かれているんだけども、ここのうち、第2項3号に父母の氏名を記載しなければならないとされているんだ。普通であれば、父親の名前を書いて終わりなんだけど、離婚して300日以内であれば、前の夫が嫡出否認を行って、親子関係が無いことを証明したうえで、今の夫が書けばいいんだ。でも、例えばDVとかで前の夫との協力をしたくない場合や、結婚が破たんしているのに離婚しないような場合であれば、出生届が出せれないんだ。そのため、戸籍が精製されず、無戸籍状態にならざるを得ないという事例がかなり出たんだ。これが、300日規定問題という問題だね」
「どうにかならないの?」
「方法としては、子供の戸籍上の父親になる前の夫が嫡出否認して、そのうえで今の夫が嫡出子として認めるという段階を踏む必要があるんだ。でも、これらは裁判が必要になるから、いろいろと煩雑なんだ。で、どうにかしようとして、いま法制審議会が頑張ってる」
「何とかなってほしいなぁ」
彼女はそう言いながら、物思いにふけっていた。
「さあ、これも重要だけど、続きも同じぐらいに重要だぞ」
そう言って俺は、六法を元のページへと戻し、続きへと戻った。




