閑話15「家制度」
「そういえば…」
彼女が俺に話しかけてくる。
「家制度ってどんな制度?」
彼女の質問に、こんどはずいぶんとくたびれた六法を引っ張り出す必要があった。
「これ、いつの六法?」
「戦前のだよ。正確には昭和22年の大規模改正直前のものだな」
(作者注:以下、当時の条文を引用する際には中野文庫;http://www.geocities.jp/nakanolib/hou/m4_o.htmより抜粋/引用とします。なお、以下の条文は特に断りが無い場合は、引用等はすでに効力を失った条文とします)
「…なんで持ってるの」
「昔の法律が、ごくわずかな例だけども、適用される例があるからだね。例えば借地法と借家法と建物保護に関する法律は、1992年に借地借家法という一つの法律に統合されたけど、法律が適用されていた時の建物人は適用されるという附則が付いているんだ。そんな時のために、こうして昔の六法を保存しておくんだよ」
「そうなんだ」
彼女は話を聞いて、うんうんとうなづいていた。
「さて、家制度というのは戸主を頂点とした家族の制度のことを言うんだ。古来から戸主である父親を中心として家族は構成されていたんだ。それを受けて、第732条戸主ノ親族ニシテ其家ニ在ル者及ヒ其配偶者ハ之ヲ家族トスと定められたんだ。つまり、戸主と戸主の親族で家にいる人とその配偶者は家族だとされたんだ」
「へー」
「この戸主には、いろんな権限が与えられていて、例えば、家族についての結婚についてや養子についてなどは、戸主が決定することになっていたんだ。他にも、家族の離縁についても、戸主が決めていたんだよ」
「なんだか昔って、男社会の印象があるんだけど。戸主も男だけしかなれなかったの?」
「いや、女戸主の制度があったんだ。戸主が死んだり、隠居することになって、戸主ではなくなった際に、女性が戸主の地位を引き継ぐ際に使われた地位の名称だね。女戸主も、戸主と同様の権利を行使することができたんだ。まあ、いくつか違う点もあるよ。例えば、第755条第1項女戸主ハ年齢ニ拘ハラス隠居ヲ為スコトヲ得とある。男の戸主だったら第752条第1号満六十年以上ナルコトと第2号完全ノ能力ヲ有スル家督相続人カ相続ノ単純承認ヲ為スコトの2つの場合に限って隠居ができるって感じに、多少違いはあるんだ」
「なるほどー」
「まあ、俺はあまり詳しくないから、家族法の先生に聞いたら、もっと分かるだろうな」
「そっかー…」
彼女は少し考え込んでいたが、どうやら授業の後にでも聞くように決めたのだろう。
「じゃあ、次に行くね」
俺は昔の六法を戻して、今の六法を開けた。