閑話13「委任、請負、雇用」
「そういえば…」
彼女が俺に聞いた。
手を止めて、彼女を見る。
「どうしたんだ」
「委任と請負って似てるし、雇用とも似てるし…どこが違うのかなって思って」
「じゃあ、ちょっと戻ってみよう」
俺は再び辞書を取り出して、彼女に言った。
「まずはこの3つの共通点から教えておこうか。雇用、請負、委任の3つとも、労務提供を行うという点で共通しているんだ。民法の条文は、雇用については、第623条から第631条に。請負については、第632条から第642条に。委任については、第643条から第656条にあるよ」
ここで一息入れてから、まずは雇用について説明を始める。
「雇用というのは、一方がもう一方に労働に従事させる代わりに報酬を与えるという契約内容だね。これは、一般的な労務契約なんだ。サラリーマンとかが、典型例とされているね。労働契約として結ばれることが多いから、労働法という法体系において細かく規定がされているんだ。この分野については、民法よりも労働法で習ったほうがいいかもね」
[作者注:特に労働基準法、労働組合法、労働関係調整法の三法を合わせて労働三法といい、これに労働契約法を含めて労働四法ということがあります。これらは労働法体系の中でもとくに重要な法律とされており、労働法の授業においては頻出します。
なお、国際機関として、国際的な労働関係に関することを目的として、国際労働機関ILOが設立されています。
労働法についてはWikipedia:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%B4%E5%83%8D%E6%B3%95を、ILOについては公式ページ(英語):http://www.ilo.org/global/lang--en/index.htmを参考としました。]
「請負というのは、仕事を完成することに対して報酬を支払うという契約になるんだ。さらに言えば、作業または労務の請負で、それが営業として行われる場合には、商法第502条5号によって、商行為とされるんだ。請負が雇用や委任と違うところは、仕事を完成させることが目的となっていることだね。この仕事というのは、講演会のような無形的なものであっても、家の建築のような有形的なものでも関係なく目的とすることができるんだ。また、下請けの下請けの孫請けや、さらにひ孫請けといった下請負契約というのも、特約がない限り、請け負った人の裁量で可能であるんだ」
[作者注:商法第502条(抜粋)
次に掲げる行為は、営業としてするときは、商行為とする。ただし、専ら賃金を得る目的で物を製造し、又は労務に従事する者の行為は、この限りでない。
五 作業又は労務の請負
請負については、特に建設請負契約が多用されているため、公的機関からの発注であれば公共工事標準請負約款が、民間からの発注であれば民間連合協定工事請負契約約款がそれぞれ用意されています。
民間連合協定工事請負契約約款については、民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款委員会のページ:http://www.gcccc.jp/ 公共工事標準請負約款については、国土交通省建設業課内の建設工事標準請負契約約款についてページ:http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/1_6_bt_000092.html また、請負についてはWikipedia:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AB%8B%E8%B2%A0をそれぞれ参考としました。]
「最後の委任というのは、法律行為をしてもらうことを目的とするんだ。委任は、雇用と請負と大きく違っていて、原則無償で行うことになっているんだよ。法律行為以外で委任をしてもらう時には、準委任契約を結ぶと可能になっているんだ」
[作者注:委任は、委託、事務管理とも一部で重複しています。なお、委任については、Wikipedia:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A7%94%E4%BB%BBを参考としました。]
彼女に言い終わると、俺は彼女を見た。
頭の中で整理をしているような顔だったが、すぐに元の顔に戻った。
「大丈夫か」
「うん。続き教えて」
俺は彼女からの言葉で、続きを教えることにした。