閑話7「先取特権」
「ねえ、やっぱり先取特権について、もう少し教えてほしいんだけど……」
「先取特権についてか、分かった。じゃあ、もうちょっと詳しく教えようか」
俺は、彼女の為に辞書を引っ張ってきた。
「まず、先取特権の定義から。先取特権とは、「この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利」のことだね」
[作者注:民法(以下、条文のみの場合は、民法のことを指します)第303条より抜粋]
「つまり、法律の規定によって、他の債権者より先に弁済を受けられるっていうことだよね」
彼女が俺に、簡単に要約してきた。
「その通り、さて、この先取特権は、重要な二つの性質がある。第304条と第305条に書かれている物上代位と不可分性だね。どういうものか、分かる?」
「えっと、物上代位って言うのは、担保物権の目的物に代わる物や金銭等にも、担保物権の効力がそれらに及ぶことができるっていうことで、不可分性っていうのは、全ての弁済が終わるまでは、債権全てに対して担保物権としての効力が及ぶっていうことだよね」
「そうだね。つまり、物上代位というのは、担保の代わりの物にも担保として適用されるっていうことで、不可分性というのは債務と債権は分けて考えることができないっていうことになるね」
分かったような分からないような感じで、彼女が俺を見てくる。
「例えば、建物に抵当権を設定していたとするよね。抵当権を設定するということは、なにかしらの債権があるはず。それが前提だね。さて、しかし債務を回収する前に建物が火災により全焼してしまった。これは困ったことになった。債務を回収したいのに、抵当権の目的物であった建物が全焼してしまい、通常であれば抵当権は消滅する。でも、債務は回収したい。そんなときに、物上代位という考えが出てくるんだ」
「つまり、抵当権の目的物の代わりを果たす何かっていうこと?」
彼女が俺に聞いてくる。
「そういうこと。物上代位というのは、そんな時の、さっきの例でいえば建物が全焼したことに伴って支給される保険金のことなんだけど、それを建物の所有者が受領する前に、抵当権を設定した人が債権を回収する目的で、受け取るということになるんだ」
「じゃあ、不可分性って?」
「抵当権と債務は分けることができないということ」
「どういうこと」
彼女は分からないようだ。
「例えば、100万円を借りているAさんが、貸してくれたBさんにバッグを質として渡したんだ。それからしばらくしてAさんがBさんに90万円を返済した。でも、Bさんからバッグを返してもらうことはできないんだ」
「分かった、まだ返済が全額済んでないから、BさんはAさんに返さないんだ」
「そういうこと。それが、不可分性ということだよ」
「なるほどー」
彼女は、なんとか分かったようだ。
「じゃあ、続きをしよう」
俺は、元のページへ六法を動かした。